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第21章 開戦前日

第294話 最後の準備・ギャングレオ

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「ほら、お前ら! さっさと残った資材使って、作らんかい!」

 シシバは残ったギャングレオ盗賊団の人員を総動員して、ある物を作らせていた。

「てやんでい。こんなのが何の役に立つんでい?」
「あっしにはただの分厚くて大きな板にしか見えませんねい」
「ここは頭領を信じましょう。相応の策はお考えのようです」

 ヤカタ、ネモト、コゴーダといった幹部達も総動員し、シシバは部下達に大量の板を用意させる。
 有り合わせの資材で作ったため、形も材質もバラバラだったが、シシバはそれで構わなかった。
 部下達はハンマーで釘を打ちながら、せっせとシシバの命令通りに板をつなぎ合わせた。

「とにかくその板を用意できるだけ用意するんや! グズグズするんやないで!」
「シシバのカシラ。オレの方の準備は整ったッス」

 部下達を叱咤激励して作業を進めるシシバの元に、別で準備を進めていたサイバラがやって来た。

「おお、サイバラ。もうそっちの準備はええんか?」
「問題ないッス。ホクチ、ナンコ、トーカイ。そして忍衆もいれば、後は用意したこれを使って、七番隊の相手はできるッス」

 そう言ってサイバラは、自身の部下達に用意させたある物を持ってこさせた。

「サイバラの兄貴~。本当にこれだけで大丈夫なんでヤンスか~?」
「とりあえず用意できるだけ持ってきたでゴンス~」
「でもこれだけでどうするでアリンスか~?」

 サイバラの部下達が台車に乗せて持ってきたのは、大量の砲弾。
 アジトであるギャングレオ城が崩壊してしまった今、用意できる数には限度があったが、それでも用意できるだけの砲弾をサイバラは集めていた。

「砲弾か……。王国騎士団との戦いのために方々で用意させとったが、肝心の砲台はギャングレオ城ごとおじゃんになってもうた。砲弾だけでどないして――」
「砲台ならここにあるッス」

 そう言ってサイバラは自らを指さした。
 ――シシバはサイバラが何を考えているかを理解した。

「お前……とんでもないこと考えおったな。普通そないなこと、考えてもやろうと思わへんで……」
「カシラには言われたくないッスね。カシラだって、とんでもないこと考えてるじゃないッスか……」

 サイバラもシシバの考えを理解した。
 この大量の"壁"として使えそうな板を使って、何を考えているのかを――

「……まあ、お互い様や。お前もあんま無茶するんやないで?」
「いいや、無茶させてもらうッスよ。それがオレにできる償いッスから」

 サイバラはこの戦いに、自らが裏切ってきたことへの償いの気持ちを込めて挑もうとしていた。
 シシバもこれまでバクトの命令で作り上げたギャングレオ盗賊団という組織の集大成のため、この戦いでの勝利に向けて全力を尽くすことを誓った。



「そういえば気になってたんスけど、バクト公爵の方はどうするつもりなんスかね?」
「ああ、そっちも大丈夫や。さっきもバクトはんがこっちに"借り物"しに来はったしな」

 スタアラ魔法聖堂サイドの指揮官として、ギャングレオ盗賊団とは別行動とる、元締めのバクト。
 そのためにバクトはシシバにある物を借りていた――





「ミリア様……。我々で本当に王国騎士団の四番隊の相手をできるのでしょうか……?」
「だ、大丈夫よ。バクト公爵も協力してくれるし……一応」

 ミリア率いるスタアラ魔法聖堂の衛兵隊。
 元々戦闘慣れしていない部隊故に、王国騎士団四番隊との戦いに勝てるか不安で仕方がなかった。

「おい、ミリア。後、その他。四番隊と戦うための戦力を用意してやったぞ」

 そんなミリア達の元にバクトがやって来た。
 会っていきなり、その他扱いされて不満な衛兵達だったが、それよりもバクトの後ろにある物が気になった。
 車輪がついた大きな鉄の箱が二つ。その横にはフロストも一緒にいる。

「おい、アホバクト。本当にこれでよかったのか~? エンジンも取っ払ったし、武装も全部弓矢に変えちまったしよ~」
「それでいいんだ、バカフロスト。下手な重装備は必要ない。動力も別に用意するから軽い方がいい」

 バクトがシシバから借りたものは、フロストによって改造が施されていた。
 それは本来の状態から大幅な軽量化が施され、武装も一般人でも扱いやすいものに変更されていた。

「あ、あの……バクト公爵? これは一体何ですか?」

 ミリアは父でもあるバクトに恐る恐る持ってきたものが何なのかを尋ねた。

「これは"装甲車"というものだ。ギャングレオ盗賊団で保管していたんだが、使いどころがなくて仮説アジトで埃をかぶっていたものだ」
「本来は"ガソリン"って燃料で動くんだがな~。調達できないからって、バクトの奴に俺が改造を頼まれてな~」

 バクトとフロストが"装甲車"の概要について説明した。
 この"装甲車"というものがどれだけ戦力になるかは分からないミリアだったが、とりあえずはバクトのことを信じようと思った。

 バクトにとってミリアは、ただ一人の娘なのだから――



「フロスト。貴様の準備はどうなってる? ロギウス殿下から話は聞いているのだろう?」
「ああ。俺の相手は二番隊だろ~? 俺もフレイムも準備は万端だぜ~。俺を追放したかつての古巣に、目に物見せてやるさ~。クーカカカ!」
「……間違っても、殺しにかかるようなことはしないでくださいね?」

 自信満々のフロストに、ミリアは釘を刺した。
 これは"改革を実現するための戦い"――
 フロストとフレイムがやり過ぎないことを、ミリアとバクトは願った。
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