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第17章 追憶の番人『公』

第233話 家族を知る者

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「ん? ミリアだけか? ラルフルは一緒じゃなかったのか?」

 俺はイトーさんの店を出た後、ミリアの元を尋ねていた。
 マカロンとリョウ曰く、ラルフルと外を出歩いていたようだが、ミリア一人のようだ。

「ゼロラさん……。ラルフルは今ちょっと……用事がありまして……」

 どこか歯切れの悪いミリア。ラルフルとまた仲が悪くなったわけではなさそうだが、何か心配事がありそうだ。

「何かあったのか?」
「実は……バクト公爵とシシバが私の家族について何か知っているようで、それを調べにラルフルが後をつけて――」

 聞けば天涯孤独の身であるはずのミリアの家族に関することを、バクトとシシバは知っているようだ。
 ラルフルはそんなミリアのために二人を調べに行ってるらしい。

 ――やはり、バクトにはミリアに対して何か思うものがあるらしい。





「クーカカカ~。ちょーっと遠くで様子を見てたが、バクトのアホ公爵も役者としては三流な所もあるんだな~。飼い犬も飼い慣らしきれてねーし……もっとも、獅子だの鬼だの言われている人間なんてそう簡単に飼い慣らせるもんでもねーか」

 そんな俺とミリアのところに乾いた笑い声を上げながらフロストがやって来た。

「アンタが……ドクター・フロスト。盗み聞ぎしてたの?」
「まーな。ちょいと上の方に"ドローン"を浮かせてな。盗聴させてもらったぜ~。いい趣味だろ~?」

 そう言いながらフロストは上空を指さす。
 指の先にはフロストが"ドローン"と呼んだ飛行物体が浮いている。あれでミリア達の様子を監視してたのか。
 何でもありだな、こいつの科学力……。

「ああ、いい趣味だな。"最悪"って意味でだがな」
「クカカカ~! そう言ってくれるなよ~。俺はアホバクトがミリアに"何を隠してるのか"知ってる人間なんだぜ~?」

 やはりフロストは知っているようだ。"バクトとミリアの関係"に関する秘密を……。

「なあ、フロスト。それを教えてくれることはできねえか?」
「そうだな~……。俺の復讐計画を認めてくれるなら――」
「それはダメだ」

 フロストめ、俺達が知りたいことを餌に自身の復讐計画を認めさせる気かよ……。

「なーんだ。だったら俺も教えてやる必要はねーな~」
「アタシも話には聞いてるけど……復讐を認めてまで家族の事なんて知りたくないわよ。家族のために復讐に加担するなんてありえないわよ」
「聖女様は慈悲深いね~。俺には真似できねーな。……だが、面白い」

 『面白い』? フロストは何を考えてるんだ?

「聖女様よ~。これからもラルフルやマカロンと仲良くしてくれるって、約束できるか~?」
「な、何よ急に……。そりゃもちろん仲良くするに決まってるわよ。ラルフルもマカロンさんも、アタシにとっては家族のようなもんだし……」
「ふーん……」

 フロストは急にラルフルとマカロンのことをミリアに尋ねてきた。
 フロストの方はあの二人の姉弟に思うところがある。
 それも影から守っているような――



「……少し気が変わった。これから俺が出す質問に答えられたら、俺もバクトのことを話してやるよ」
「随分な心変わりだな? 何か裏でもあるのか?」
「まー……そーだな。一応俺もお前らに傭兵として雇われてるよーなもんだし、恩の一つぐらい売っておいてもいーもんかと思ってな~」

 フロストの急な態度の変化に裏を感じる俺だったが、フロストはそれっぽい理由をつけてはぐらかしてきた。

「……質問の内容にもよるわ。アタシが答えられる質問だったら答える」
「安心しな~。危ないもんじゃねーし、すげー簡単なことだからよ~」

 ミリアは答えられる質問になら答えるという条件を付けているが、やはり家族のことを知りたいようだ。

 そしてフロストが俺達に質問を始めた――

「じゃーまずは……アホバクトは普段、お前らのことを大雑把に呼ぶ時、何て呼んでるんだ~?」
「『貴様』だろ? あいつは他者に対してはいつもそう言ってるだろ」

 そう。バクトは俺達他者に対して『あなた』や『お前』などと呼ばず、一貫して『貴様』と呼んでいる。
 そのせいで余計に口が悪く見えてしまうのだが……。





 だが、俺とフロストの会話を聞いているミリアは違う反応を見せていた。

「ちょ、ちょっと待って――ア、アタシ――ないのよ――バクト公爵に――『貴様』って呼ばれたことが……!?」

 ミリアはひどく狼狽えながら答えた。

 ミリアはバクトに『貴様』と呼ばれたことがない!?
 あいつは相手がガルペラのような女子供だろうがなんだろうが、関係なく『貴様』呼ばわりしてたぞ!?

「バクト公爵はいつもアタシのことは『スタアラの小娘』とかいう風にしか呼んでないわ……!?」
「おーおー、やっぱりそーか~。だったら次はクイズだ。バクトには"この世に二人だけ"、『貴様』と呼ばない人間がいるんだ。一人は死んだ女房……もう一人は誰だと思う?」

 頭を抱え込んでいるミリアを見ながらフロストは今度はクイズを出してきた。
 バクトがこの世で二人だけ、『貴様』と呼ばない人間……。一人は国の意向のために見殺しにすることになった女房……。
 もしバクトが"家族にのみ"、『貴様』と蔑んだ呼び方をしないのならば――



「……教えて。バクト公爵とその奥さんの間に……子供はいたの?」
「あー、いたな~。俺が見たことあるのは、まだ赤ん坊の女の子が一人だったがな~……」

 ミリアはフロストに尋ねた。
 ミリアもおそらく俺と同じ結論に至っている。
 俺とミリアが訴えるようにフロストを見ていると、フロストは右目につけているモノクルのような機械をいじり始めた。

「ここまで来たら正解を言っちまったよーなもんだな~。それじゃー見せてやるよ~。バクトが持ってる秘密をよ~――」

 そう言ってフロストは右目の機械を使い、空間に映像を映し始めた――
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