上 下
231 / 476
第17章 追憶の番人『公』

第231話 因縁関係

しおりを挟む
「よお、イトーさん」
「おお、ゼロラか。営業時間中に来るなんて久しぶりだな」

 思えば久しぶりに営業時間中にやって来たイトーさんが経営する酒場兼ギルド。
 冒険者も相変わらずやってきているが……どうにも普段とは違うようだ。

「ゼロラ殿も来たのか。すまないがちょっと取り込み中だったものでね」
「ロギウスも来てたのか」

 どうやら普段と違う原因はロギウスにあるようだ。
 そういえばロギウスはイトーさんが宗家を務める理刀流という剣術の使い手だったな。いてもおかしくはないか。

 ――もっとも、この国の王子がこんな酒場に平然といたら冒険者達も驚くだろう。

「フロストの件では助かったぜ」
「いやいや。こちらこそゼロラ殿のおかげで助かったよ。あなたが僕の動きに合わせてくれたから、あんな状況も打開できたんだ」

 ロギウスは謙遜しているが、こちらこそ助かったというものだ。
 ロギウスの作戦には助けられたし、理刀流という戦いの動きも俺には不思議と合わせやすかった。

 そういえばイトーさんは東洋の国で理刀流宗家をしてたんだったな。
 俺がロギウスの理刀流に動きを合わせやすかったのも含め、本当に俺は東洋の出身なのかもしれない。



 ――だが、今の俺がするべきことは目の前の課題だ。
 俺の過去は全てが終わった後にまた考えればいい。

「ロギウスもいるなら丁度いい。ちょっと二人に聞きたいことがある。――バクトとフロストは何であそこまで仲が悪いんだ?」
「……さあな。俺も詳しいことは知らない」
「……僕も師匠と同じくだね」

 イトーさんもロギウスも知らないとは言い張っているが、どこか言い淀んでいるところがある。
 ――それなら聞き方を変えてみるか。

「じゃあ、バクトはラルフルやミリアに対して、何か思うところがあるのか? もしあるのならば、今後のバクトの人間関係のためにも聞いておきたい」

 俺が質問を変えてみると、イトーさんとロギウスは少し黙り込んでしまった。

「……どうにも、ゼロラには勘づかれたみたいだな」
「……まったくですね。ゼロラ殿に下手な隠し事はしない方がよさそうだ」

 暫くすると、イトーさんとロギウスは観念したかのように話を始めた。

「俺達がバクトとフロストの関係で知ってることなんてそんなに詳しいことじゃない。ただあの二人は俺達四人が"共通の目的"で繋がるよりずっと前から知り合いではあったらしい」

 イトーさんが言うように、公爵であるバクトと元王国騎士団二番隊隊長のフロストならばかなり昔から知り合いでもおかしくないな。

「僕と師匠が知っているのは、元々あの二人は"お互いに個人の秘密を共有し合っている"ということだけだよ」

 秘密を共有? ロギウスは気になることを言いながら、話を続けてくれた。

「フロスト元隊長が持っている秘密はラルフルとマカロンとのことだ。それは以前に話した通りだよ。だけど……バクト公爵が持っている秘密は、"ミリア様とのこと"だね」
「バクトとミリアの秘密? それが何かまでは分からないのか?」
「生憎だね。僕達も態度でしか察せないし、本人も絶対に口を割らない。――知っているのはフロスト元隊長だけさ」

 フロストだけがバクトとミリアの関係に関する秘密を知っている……。
 バクトとフロストはお互いに秘密を共有していてそれを周囲に勘繰られないためにも、表面的に仲が悪いのかもしれない。

 ――表面的に仲が悪いだけにしては悪すぎる気もするが。

「まあ、あの二人の仲が悪いのは秘密を共有しているだけじゃないだろうな」
「確かにそれだけの理由だったらお互いに銃を向け合ったりはしないだろうな」
「また出合い頭に喧嘩してたのかあの二人は……。銃を向け合うだけで済んでよかったよ。以前はグレネードを投げ合ってて、僕も師匠も止めるの大変だったからね……」

 銃を向け合う"だけ"で済んでよかった!?
 グレネードって王宮を脱出する時にギャングレオ盗賊団が使ってたあの爆弾だろ!?
 完全に殺し合ってるじゃねえか!?

 ――やっぱり仲が悪いのは単純に馬が合わないだけかもしれない。

「大体の事情は分かった。俺も無理に深入りしないようにはしたいが、当事者であるミリアの気持ちもあるからな」
「分かったよ、ゼロラ。俺達が喋ったってことは言うんじゃねえぞ?」

 イトーさんが言うようにあまり口外はしない方がいいだろう。
 だが、ミリアが関わっているのなら多少は足を踏み入れて事情を確認したい。
 ミリアとはラルフルやリョウとの関係も含めてどうにも放っておけない間柄だ。
 俺で何か力になれるのなら、力になってやりたい。

 俺はまずミリアと話をしに行くことにした。





「あ、そうだった。これ、俺が作ったたこ焼きだ。よかったら食べてくれ」
「ゼロラ殿……何でこんなものを作ってるんだい……?」
「将来的にたこ焼き屋を始めようと思い、修行中だ」
「たこ焼き屋始める気かよ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

処理中です...