上 下
225 / 476
第16章 自分はあの日から変わりました

第225話 あの時見たもの

しおりを挟む
「ゼロラさんって本当に奥手ですよね。そこがいいところでもあるんですが」
「ふむ、同感だね。ゼロラ殿は相手の気持ちを尊重しようとする男だ。だが、その優しさが彼を優柔不断にしてしまっている」

 弟のラルフル達と洞窟から帰ってきた後、私とリョウさんは二人でゼロラさんのことを語り合っていた。
 切っ掛けはリョウさんが『恋バナをしよう』と提案してきたから。
 この人って普段の奇行のせいで霞みがちだけど、結構ロマンチストなところあるわよね。

「ところでさっきからリョウさんは何をしているのですか?」

 リョウさんは私と話を始めてからずっと右手の人差し指で私の方に魔法陣を描いている。

「ん~? これかい? 話ながらで申し訳ないけど、マカロンの魔力をボクで調べさせてもらってる。こうして事前に調べておけば、魔法の使い方をマカロンにどうレクチャーすればいいのかすぐ分かるからね」

 どうやらリョウさんは私に魔法の使い方を教えるために、私の身に宿ったラルフルの魔力を調べてくれているようだ。

「気持ちは有難いのですが……無理はしないでくださいね?」
「その言葉は有難く受け取っておこう。でも、ボクはちょっと無理してでも君に魔法の使い方を覚えてほしいんだ。ボクの時間も限られてるしね」

 私はリョウさんのことを心配しましたが、リョウさんは無理をしてでも自らの意志を押し通すつもりだ。

 この人はとにかく自分に正直だ。それ故に頑固なところもある。
 だがそれらは自分の欲求を満たすためのものばかりではない。
 欲望のために奇行に走ることも多々あるが、ラルフルとミリアちゃんの仲を取り持とうとしたこと、私の本心を私自身に理解させたこと、今こうして私のために創意工夫を重ねてくれること。
 そうやって自らの身を顧みずに尽力できるところなども含め、すごく魅力的な女性だ。

 ――なんだかゼロラさんと被って見えて、私よりもお似合いに見える。



 ――そういえば、ゼロラさんもラルフルと同じで魔力ゼロだったわよね?

「ねえ、リョウさん。もしかしてゼロラさんも"誰かに魔力を奪われた"のかしら?」

 ラルフルとも重なって見えたゼロラさんのことについて、私は質問してみた。

「どうだろうね? 彼の場合は記憶までないから。もしかしたら、"記憶も魔力も奪われた"という可能性も否定できない。ゼロラ殿が本来どういう人物だったかにもよるけど、もしそんなことができるのならば、"生命さえ作り出す"こともできそうだ。その記憶と魔力の大きさにもよるだろうけどね」

 生命さえ作り出す……。
 ただの記憶喪失のおじさんだと思ってたゼロラさんだけど、本当は何かもっと大きな運命に巻き込まれているのかもしれない……。
 私達でも想像できないような、そんな過酷な運命を背負って――



 ――そんな時、私はふと思ってしまった。
 『ゼロラさんの記憶が戻らなければいいのに』と。
 もしゼロラさんの記憶が戻ってしまったら、私達の元を離れて行ってしまうかもしれない。
 そんな浅ましい考えが私の頭をよぎってしまった。

「……この件についてはボク達が干渉することではないだろう。ゼロラ殿のことはゼロラ殿自身が決めることだ。彼に記憶が戻ろうが、魔力が宿ろうが、ボク達は"今の"ゼロラ殿だからこそ慕っている。この先にどんな変化が起ころうと、ボク達はゼロラ殿の意志を尊重するべきだ」

 そんな私の考えを読み取ったのか、リョウさんは黙っている私に自らの主張を述べてきた。
 あくまで自らの意志ではなく、ゼロラさんの意思を尊重する主張……。
 ――この人には……あらゆる面で勝てないのかもしれないなー……。



「……ん? ゼロラさんって魔力ゼロなんですよね?」
「そうだよ。最近のゼロラ殿の魔力を正確には測ってないけど、そんなすぐに魔力なんて身につくものじゃないからね」

 私は話をしていて疑問に思ったことをふと口にした。

「でも……私、見たんです。ゼロラさんが体から<灰色のオーラ>を出しているところを……」
「<灰色のオーラ>……!?」

 ゼロラさんが目覚めた日の翌日の早朝、あの人が近くの林で体を動かしていた時に見た<灰色のオーラ>。
 あの時はゼロラさんが上半身裸だったので思わず目を逸らしてしまい、次見た時には消えていたが、あのオーラは確かにゼロラさんから溢れ出ているものだった。
 あれは魔力によるものだったのか? 気になった私はリョウさんに状況を伝えながら尋ねてみた。

「ゼロラ殿が上着を脱いで鍛錬に集中していた時か……。汗や蒸気とかじゃないかい?」
「いえ。そんなものではなかったです」
「じゃあ……マカロンがゼロラ殿の半裸姿に興奮して見た、目の錯覚とか?」
「そ、そんなのじゃありません! ……多分」

 た、確かにあの時はゼロラさんの半裸姿に思わず目を覆ってしまいましたが、そんなのではないはずです!
 ……ないはずです。

「<灰色のオーラ>――まさかジフ兄やシシ兄と同じ――いや、でも――だが可能性は……」

 そんな私の動揺を他所に、リョウさんは一人でブツブツ考え込んでいます。

「……マカロン。ゼロラ殿が帰ってきたら確認してみたい。ボクもその<灰色のオーラ>について興味がある」

 リョウさんは何か分かったような表情で私に話してきました。
 私も気になります。ゼロラさんから溢れ出ていた<灰色のオーラ>が何だったのか……。
 ゼロラさんがどんな人なのか、その奥底にどんな力が眠っているのか。

 リョウさんと同じく、私の興味も募ります。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...