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第16章 自分はあの日から変わりました

第221話 決別・ルクガイア王国騎士団団長②

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 ゴゴゴォオオ――!!

 バルカウス様が眼前で丸めた両手から魔力が放たれ、これまでよりも一層巨大な火球を作り出します。

「拙者にできる最大出力の炎魔法だ。拙者の技量ではこの程度のものしか作り出せないが、お主が己の過去を超えるために、これ以上に相応しいものはないだろう」

 バルカウス様が作り出した火球はかなりの大きさです。人一人は簡単に飲み込めそうなサイズです。

 ――ですが、あのぐらいの火球ならば当時の自分でも十分に作り出すことができます。
 それに、バルカウス様が作り出した火球はひどく不安定な形に見えます。
 バルカウス様の手は震え、額からは汗がにじみ出ているのが確認できます。
 本当にあのレベルがバルカウス様の出せる全力なのでしょう。

「ラルフル。お主から奪った魔力でこんな稚拙な魔法しか作り出せなくて幻滅しただろう? ……だがこれが拙者に出せる全力の"魔法"だ。この一撃を持って……決着をつける!!」

 バルカウス様は火球をこちらに投げつける態勢に入りました!
 あんなに震えた様子なら、避けることは問題ありません!



 ですが……避けません!!

「行くぞぉお! ラルフルゥウウ!!」
「ハァアアア!!」

 バルカウス様が火球を投げたのと同時に、自分も火球に突進します!
 自分の魔力で作られた火球ですが、あのサイズまで来ると捌ききれる保証はありません!

 それでも――自分はあの火球に向かいます!
 バルカウス様が乗せた思いを――自分の過去を乗り越えるためにも!!

「テヤァアアアア!!!」

 自分は突進の勢いのまま、両手の握り拳を火球へと突き出し――

 ボシュゥウウ!!

 ――弾き返しました!

「なんと……! 見事!! このサイズの火球をそのまま相手に弾き返すことなど、拙者でも難しい芸当! 感服!!」

 バルカウス様は跳ね返ってきた火球を避けることも防御することもせず、両腕を広げて――


 ボガァアアン!!


 ――そのまま全身で受け止めました。



「ハハハッ……。見事……本当に見事……! いくら己の魔力で作られた魔法とはいえ、そのまま拳で跳ね返してしまうなどと! ハハハッ!」
「バルカウス様……」

 火球をまともに受けて大の字に倒れたバルカウス様は、どこか満足したように笑っていました。
 避けようと思えば避けれましたし、防御しようと思えば防御もできたはずです。
 それでもバルカウス様はあえて避けも守りもせずに、その身で魔法を受け止めることで、自分の"魔法使いであった過去との決別"を促してくれたようです。

 ――バルカウス様は自分に、過去を乗り越えてほしかったのでしょう。

「ありがとうございました、バルカウス様。これで自分も過去と決別できそうです」
「拙者は成すべきことを成したまでだ。拙者自身の自己満足でもあったがな……。ハハハッ……」

 確かにバルカウス様の自己満足もあったのでしょう。
 それでも自分には嬉しかったです。

「どうやら無事に終わったようだね」

 自分とバルカウス様の勝負に決着が着いたのを確認して、リョウ大神官は防壁魔法を解除して歩み寄ってきました。

「す、すごいじゃないの! ラルフル! あの王国騎士団団長を倒しちゃうなんて!」
「あの大きな火球を殴り返すなんて……ゼロラさんでもなきゃできないと思ってたのに、本当に強くなったのね……ラルフル」

 ミリアさんは自分に駆け寄って、抱き着きながら賞賛を称えてくれました。
 お姉ちゃんはその様子を傍で見ながら感想を述べてくれました。

 ――確かにゼロラさんならできますね。
 ジャコウ様の魔法とか平然と振り払ってましたし。

「やはり拙者に魔法は似合わぬか。これからは今一度、剣一筋の道へと戻るとしよう」
「ええ。その方がバルカウス様には合っていると思います」

 起き上がったバルカウス様の表情は晴れやかでした。
 もうバルカウス様の身に宿っている"魔法使い・ラルフルの魔力"は戦うために必要ありません。
 ――名残惜しい気もしますが、これでお別れです。

「……バルカウス。それならば君が持っている"ラルフル君の魔力"はもう必要ないね?」
「ああ……。できればラルフルに返したかったが、それが叶わぬ以上、これからも拙者が背負い続けるしかあるまい」

 そんなところにリョウ大神官がバルカウス様に質問を投げかけました。
 リョウ大神官は何かを考えているようです。

「実はね、<転魔の術>はボクも使えるんだよ」
「そうなんですか? でも、それで自分に魔力を戻すことは――」

 戦う前から聞いていた話を思い出して尋ねようとしましたが、リョウ大神官はさらに話を続けました。

「そう。"ラルフル君に魔力を戻すこと"はできない。だけど、"ラルフル君以外に魔力を移すこと"はできる」

 自分が持っていた魔力を、自分以外の人に移す……?
 ですが、リョウ大神官が魔力を引き継いでも元々の魔力が大きすぎるため、容量を超えてしまいます。
 それは聖女であるミリアさんにも同じことです。



 ――だから、この場で"自分の魔力を引き継いでも問題ない人物"は一人しかいません。

 リョウ大神官はその人の方を見て言いました。

「マカロン。君がラルフル君の魔力を引き継ぐんだ」
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