215 / 476
第16章 自分はあの日から変わりました
第215話 仮説の追求
しおりを挟む
「ここが……ラルフルが魔力を失った洞窟ね」
「パッと見たところ変わったところはないけど……」
自分達は目的の洞窟に到着しました。
自分が魔力を失った場所。勇者パーティーから追い出された場所。――自分の全てが終わったと思った場所。
お姉ちゃんとミリアさんは洞窟の様子を見て回っていますが、今のところ特に変わった様子はないようです。
洞窟は少し奥に広い空間があるだけで、モンスターもいません。
「ふむ……。妙だね」
リョウ大神官は奥の方まではいかず、何か考え事をしているようです。
「どうかされましたか? リョウ大神官」
「いや……。ラルフル君達当時の勇者パーティーは、そもそもどうしてこんな洞窟に立ち寄ったのかな?」
「あの時は……レイキース様から『放置しておくと危険なモンスターが住み着いている』と言われて立ち寄ったんです」
そう。ここは辺鄙な洞窟ですが近くに街道もあるため、【伝説の魔王】討伐の前の下準備として向かうようレイキース様に言われたのです。
「では、その時はレイキースを含む勇者パーティー全員がこの洞窟に揃っていたんだね?」
「いえ。あの時はレイキース様が洞窟近くの街道警備をしていたので、自分とバルカウス様とリフィー様の三人だけです」
「三人だけ……? それはますますもって妙だね……」
リョウ大神官はさらに考え込み始めました。何かおかしな点があるのでしょうか?
「ラルフル君。君はそのモンスターを目にしたんだね? どんなモンスターだった?」
「漆黒の衣装を纏った人型のモンスターでした。剣を持っていて、顔はフードで全く見えませんでした」
「漆黒の衣装? 剣を持った? 顔が全く見えない? ……そのモンスターに魔力を奪われたのかい?」
「おそらく……。あの時自分はそのモンスターの攻撃で気を失って、目が覚めた時には魔力を失っていました」
「まさか……」
自分への質問を重ねる中で、リョウ大神官は何かに気付いたようです。
そして普段自分に見せることのない真剣な表情をしながら、自分に語ってきました。
「ラルフル君……落ち着いて聞いてほしい。まずこれまでの話には"おかしな点"がいくつか存在するんだ」
「おかしな点……ですか?」
「ああ。ボクはこの洞窟と近くの街道、及びその周辺のモンスター分布図を知っている。その分布図によると、この辺りに生息しているのは四足歩行の獣型モンスターだけだ。これはラルフル君が勇者パーティーにいたころから変わらない」
「確かにあの時も洞窟周辺には獣型モンスターしかいませんでしたが……それがどう関係するのですか?」
「この洞窟には……"獣型モンスターがいた気配がない"んだよ」
獣型モンスターがいた気配がない? どうしてそんなことが分かるのでしょうか……?
「リョウ大神官が言っていることは事実よ、ラルフル。アタシもこの洞窟を見て回ったけど、どこにも"獣型モンスターの爪痕や毛"といったものが見当たらないのよ」
自分達の話にミリアさんも加わりました。
「あの時の人型モンスターがいたせいで、他のモンスターも近寄らなかったんじゃないですか?」
「その人型モンスターが倒されたのも二年以上前の話よ? その間に近隣のモンスターが住み着いてもいいのに、その気配すらないのよ。それにアタシが感じるこの洞窟の気配……。これは何か神聖な力がこの洞窟自体に宿っているからだと思うわ」
神聖な力ですか? それはつまり――
「流石はミリア様だね。この気配には敏感なようだ。そう、この洞窟には"魔除けになる神聖な力"が元々備わっている。おそらく天然のものだろう。そんな場所にそもそも"モンスターが住み着くこと"自体がおかしいんだよ」
「そ、それじゃあ……自分が戦ったあのモンスターは……?」
断言はできませんが、モンスターですらなかったということですか……?
「ラルフル、リョウさん……。これまでの話を聞いてると、そのラルフルが戦った相手ってもしかして人間なんじゃ……?」
さらに自分達の話にお姉ちゃんも加わりました。
「マカロンもそう思うんだね。僕も同じさ。そしてラルフル君が戦った相手……それはこんな姿をしてたんじゃないかな?」
リョウ大神官が魔法で空間からローブを取り出すと、それを自らの身に纏いました。
その姿は――
「じ、自分があの時戦った、黒い衣装の人型モンスター……!?」
「ど、どうなってるのよ!? フードで顔まで完全に隠れてるじゃないの!?」
「それに、リョウさんの体格まで変わってる……!?」
自分もミリアさんもお姉ちゃんも驚きました。
リョウ大神官の姿は自分が昔戦った、黒い衣装の人型モンスターと同じ姿になっていました。
さらにはミリアさんが言う通りフードを被るとその影で顔は完全に隠れ、体格も普段のリョウ大神官とは違うものに変わってしまいました。
「これは擬態系の魔法効果を付与した衣装だよ。身に着けると、相手にはその姿が別人になったように見えるものさ。ボクが着ているのは魔幻塔にあったものでね。ボクが以前何度か魔幻塔を抜け出すために使わせてもらったのさ」
黒い衣装からする声は、リョウ大神官のもので間違いありません。
確かにこの衣装があれば、人間であってもモンスターのように振舞って敵を欺けるかもしれません……。
「そしてこの衣装……。それなりに高度な魔法効果を付与しているけど、魔法効果さえ分かって術者の腕前さえあれば、同じものを再現することは可能だ」
リョウ大神官は衣装を脱ぎながら、自分達に解説を続けます。
「もっとも、剣を扱ったりなどといった技術的な変装まではできない。擬態系の魔法効果を付与できる程の腕を持ち、剣を扱え、あの時この場にいなかった人物――」
リョウ大神官が誰のことを言おうとしているのか分かりました……。分かってしまいました……。
それらすべての条件に当てはまる人物はただ一人――
「勇者……レイキース様!?」
「パッと見たところ変わったところはないけど……」
自分達は目的の洞窟に到着しました。
自分が魔力を失った場所。勇者パーティーから追い出された場所。――自分の全てが終わったと思った場所。
お姉ちゃんとミリアさんは洞窟の様子を見て回っていますが、今のところ特に変わった様子はないようです。
洞窟は少し奥に広い空間があるだけで、モンスターもいません。
「ふむ……。妙だね」
リョウ大神官は奥の方まではいかず、何か考え事をしているようです。
「どうかされましたか? リョウ大神官」
「いや……。ラルフル君達当時の勇者パーティーは、そもそもどうしてこんな洞窟に立ち寄ったのかな?」
「あの時は……レイキース様から『放置しておくと危険なモンスターが住み着いている』と言われて立ち寄ったんです」
そう。ここは辺鄙な洞窟ですが近くに街道もあるため、【伝説の魔王】討伐の前の下準備として向かうようレイキース様に言われたのです。
「では、その時はレイキースを含む勇者パーティー全員がこの洞窟に揃っていたんだね?」
「いえ。あの時はレイキース様が洞窟近くの街道警備をしていたので、自分とバルカウス様とリフィー様の三人だけです」
「三人だけ……? それはますますもって妙だね……」
リョウ大神官はさらに考え込み始めました。何かおかしな点があるのでしょうか?
「ラルフル君。君はそのモンスターを目にしたんだね? どんなモンスターだった?」
「漆黒の衣装を纏った人型のモンスターでした。剣を持っていて、顔はフードで全く見えませんでした」
「漆黒の衣装? 剣を持った? 顔が全く見えない? ……そのモンスターに魔力を奪われたのかい?」
「おそらく……。あの時自分はそのモンスターの攻撃で気を失って、目が覚めた時には魔力を失っていました」
「まさか……」
自分への質問を重ねる中で、リョウ大神官は何かに気付いたようです。
そして普段自分に見せることのない真剣な表情をしながら、自分に語ってきました。
「ラルフル君……落ち着いて聞いてほしい。まずこれまでの話には"おかしな点"がいくつか存在するんだ」
「おかしな点……ですか?」
「ああ。ボクはこの洞窟と近くの街道、及びその周辺のモンスター分布図を知っている。その分布図によると、この辺りに生息しているのは四足歩行の獣型モンスターだけだ。これはラルフル君が勇者パーティーにいたころから変わらない」
「確かにあの時も洞窟周辺には獣型モンスターしかいませんでしたが……それがどう関係するのですか?」
「この洞窟には……"獣型モンスターがいた気配がない"んだよ」
獣型モンスターがいた気配がない? どうしてそんなことが分かるのでしょうか……?
「リョウ大神官が言っていることは事実よ、ラルフル。アタシもこの洞窟を見て回ったけど、どこにも"獣型モンスターの爪痕や毛"といったものが見当たらないのよ」
自分達の話にミリアさんも加わりました。
「あの時の人型モンスターがいたせいで、他のモンスターも近寄らなかったんじゃないですか?」
「その人型モンスターが倒されたのも二年以上前の話よ? その間に近隣のモンスターが住み着いてもいいのに、その気配すらないのよ。それにアタシが感じるこの洞窟の気配……。これは何か神聖な力がこの洞窟自体に宿っているからだと思うわ」
神聖な力ですか? それはつまり――
「流石はミリア様だね。この気配には敏感なようだ。そう、この洞窟には"魔除けになる神聖な力"が元々備わっている。おそらく天然のものだろう。そんな場所にそもそも"モンスターが住み着くこと"自体がおかしいんだよ」
「そ、それじゃあ……自分が戦ったあのモンスターは……?」
断言はできませんが、モンスターですらなかったということですか……?
「ラルフル、リョウさん……。これまでの話を聞いてると、そのラルフルが戦った相手ってもしかして人間なんじゃ……?」
さらに自分達の話にお姉ちゃんも加わりました。
「マカロンもそう思うんだね。僕も同じさ。そしてラルフル君が戦った相手……それはこんな姿をしてたんじゃないかな?」
リョウ大神官が魔法で空間からローブを取り出すと、それを自らの身に纏いました。
その姿は――
「じ、自分があの時戦った、黒い衣装の人型モンスター……!?」
「ど、どうなってるのよ!? フードで顔まで完全に隠れてるじゃないの!?」
「それに、リョウさんの体格まで変わってる……!?」
自分もミリアさんもお姉ちゃんも驚きました。
リョウ大神官の姿は自分が昔戦った、黒い衣装の人型モンスターと同じ姿になっていました。
さらにはミリアさんが言う通りフードを被るとその影で顔は完全に隠れ、体格も普段のリョウ大神官とは違うものに変わってしまいました。
「これは擬態系の魔法効果を付与した衣装だよ。身に着けると、相手にはその姿が別人になったように見えるものさ。ボクが着ているのは魔幻塔にあったものでね。ボクが以前何度か魔幻塔を抜け出すために使わせてもらったのさ」
黒い衣装からする声は、リョウ大神官のもので間違いありません。
確かにこの衣装があれば、人間であってもモンスターのように振舞って敵を欺けるかもしれません……。
「そしてこの衣装……。それなりに高度な魔法効果を付与しているけど、魔法効果さえ分かって術者の腕前さえあれば、同じものを再現することは可能だ」
リョウ大神官は衣装を脱ぎながら、自分達に解説を続けます。
「もっとも、剣を扱ったりなどといった技術的な変装まではできない。擬態系の魔法効果を付与できる程の腕を持ち、剣を扱え、あの時この場にいなかった人物――」
リョウ大神官が誰のことを言おうとしているのか分かりました……。分かってしまいました……。
それらすべての条件に当てはまる人物はただ一人――
「勇者……レイキース様!?」
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
無能と蔑まれた七男、前世は史上最強の魔法使いだった!?
青空一夏
ファンタジー
ケアニー辺境伯爵家の七男カイルは、生まれつき魔法を使えず、家族から蔑まれて育った。しかし、ある日彼の前世の記憶が蘇る――その正体は、かつて世界を支配した史上最強の大魔法使いアーサー。戸惑いながらも、カイルはアーサーの知識と力を身につけていき、次第に自らの道を切り拓く。
魔法を操れぬはずの少年が最強の魔法を駆使し、自分を信じてくれる商店街の仲間のために立ち上げる。やがてそれは貴族社会すら揺るがす存在へと成長していくのだった。こちらは無自覚モテモテの最強青年になっていく、ケアニー辺境伯爵家の七男カイルの物語。
※こちらは「異世界ファンタジー × ラブコメ」要素を兼ね備えた作品です。メインは「異世界ファンタジー」ですが、恋愛要素やコメディ要素も兼ねた「ラブコメ寄りの異世界ファンタジー」になっています。カイルは複数の女性にもてますが、主人公が最終的には選ぶのは一人の女性です。一夫多妻のようなハーレム系の結末ではありませんので、女性の方にも共感できる内容になっています。異世界ファンタジーで男性主人公なので男性向けとしましたが、男女関係なく楽しめる内容を心がけて書いていきたいです。よろしくお願いします。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる