上 下
214 / 476
第16章 自分はあの日から変わりました

第214話 いざ、過去との対峙へ

しおりを挟む
 ゼロラさんと別れた後、自分ラルフルはマカロンお姉ちゃん、ミリアさん、そしてリョウ大神官と一緒にかつて自分が魔力を失った洞窟へと向かいました。
 以前は魔物が蔓延る危険な道中でしたが、【伝説の魔王】がいなくなった今は平穏なものです。
 ガタゴトと馬車に揺らされながら、自分達は目的の洞窟に向かっているのですが――

「あ~! マカロンもミリア様も本当にかわいいな~! 魔幻塔は退屈だったし、抜け出すのも面倒だったから、久しぶりに満足いくまでこうやってかわいい子を愛でられて、ボク幸せ~!」
「リョウさん……頭撫ですぎです……」
「元気になったらなったで、また元通りなのね……」

 ――リョウ大神官はお姉ちゃんとミリアさんを両手に抱えて、頭をナデナデしています。
 出発前に言ってた、『今回は大真面目』発言はどこへ行ったのでしょうか?

「う~ん。ボク、ホントに幸せ~。ゼロラ殿にも会いたかったけど、やっぱり皆にも会いたかったからね。これでも寂しかったんだよ?」

 でも不思議といつものような嫌な予感はしません。
 多分この人は本当に、自分達に会えたことが嬉しくて仕方ないのだと思います。
 お姉ちゃんもミリアさんもそれが分かっているから、大人しくナデナデされているのでしょう。
 リョウ大神官は物凄く変人でとてつもなく変態ですが、行動で嘘をつくことができない人なのはなんとなく分かってきました。
 結局のところ、この人は凄くいい人なんだと思います。
 恋敵であるお姉ちゃんを目の敵にするどころか、仲良くなってしまっていますし。

 ……でも、ゼロラさんはお姉ちゃんのものですからね?

「ところでラルフル君。君自身は大丈夫なのかな?」
「え? 大丈夫とは……?」

 お姉ちゃんとミリアさんを愛でていたリョウ大神官は、突然表情を切り替えて自分に質問を投げかけてきました。

「これから君が直面するのは、君自身の忌まわしき"過去との対峙"だ。"かつての仲間に裏切られた"という可能性……。その結末はラルフル君にとって、とても心苦しいものになるかもしれない」

 ――リョウ大神官の言いたいことは分かります。

 ロギウス殿下が立てた仮説。『自分の魔力はリフィー様によって奪われ、バルカウス様へと移された』。
 それが確かだという物的証拠はありません。
 ですが、"自分が魔力を失った時"と"バルカウス様が魔法を使えるようになった時"が重なっているという状況証拠はあります。
 今の状況で、"全て無関係だった"なんて結末は考えにくいです。

 ――もしかしたら、バルカウス様やリフィー様だけでなく、勇者レイキース様にも裏切られているのかもしれません。
 それでも――

「全て覚悟の上です。自分は――今の自分ならば、あの時の出来事とも向き合える気がします」

 自分は魔力を失った日から、虐げられる日々を送っていました。
 魔力を失ったことで、自信さえも失ってしまいました。

 それでも、ゼロラさんと出会った日から変わりました。
 自分と同じように魔力がないのに、それどころか記憶さえないのに、とっても強くて頼れる人です。
 自分はそんなゼロラさんに憧れて、同じく武闘家の道を進みました。
 魔法使いではなくなり、まだまだゼロラさんには遠く及びませんが、確実に強くなってきている実感があります。
 それは身体的な強さだけでなく――精神的な強さも含めてです。

 ここから先、どのような結末が訪れようと、今の自分になら受け止めることができます。

 それに、今の自分は一人ではありません――

「ラルフル、心配しないで。アタシもついていてあげるから」

 自分の恋人、ミリアさん――

「何があっても、お姉ちゃん達が支えてあげるから」

 自分の唯一の肉親、マカロンお姉ちゃん――

 ゼロラさんについてきた自分の周りには、いつの間にかたくさんの仲間がいました。
 自分のことを心から心配し、自分が心から信頼できる人達……。
 自分は今――勇者パーティーにいたころよりも恵まれています。

「リョウ大神官。どうか自分に協力して、自分が失った魔力の真相を究明してください」
「……決意は固いんだね。いい目をしてるよ。流石はマカロンの弟だ」

 リョウ大神官は自分の目をじっと見つめて、この決意を受け取ってくれました。
 この人も自らが大変な立場でありながら、こうして自分に協力してくれています。

 どうしようもなく変態な人ですが、今は自分にとっても大切な仲間――

「じゃあ、ラルフル君。次は君を撫でまわしてもいいかな?」

 ――だと思います。多分。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話

TB
ファンタジー
岩崎理(いわさきおさむ)40歳バツ2派遣社員。とっても巻き込まれ体質な主人公のチーレムストーリーです。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...