上 下
212 / 476
第15章 メカトロニクス・ファイト

第212話 ヒーロー・マネージド・マーカス

しおりを挟む
 準備をしていたら夜になったのです。
 街中にお触れを出したので、お客さんはいっぱいなのです。準備万端なのです。

「あの~……ガルペラ様? やっぱり……やめませんか?」
「何を言っているのです、ローゼス。折角ローゼス用の衣装まで用意したのですよ?」
「……すごく恥ずかしいのですが?」

 ローゼスには仮面眼鏡と露出が多い服とマントを身に着けてもらったのです。これは悪役用なのです。
 そう! 今のヒーローショーには"敵の美人女幹部"が足りていないのです!

「た、確かにこれなら客寄せになるかもしれませんが……」
「このショー……一応パサラダ野菜の宣伝が目的ですからね? ガルペラ侯爵?」

 細かいことは気にしたらダメなのです。

「ローゼスにはヘンショッカーの組織の幹部、"ヘンショ・クイーン"を演じてもらうのです」
「……これでショーが大コケしたら、晩御飯抜きにしますよ?」
「……か、覚悟の上なのです」

 『晩御飯抜き』という言葉に思わず心が揺らいでしまったのですが、私は挫けないのです。

「それではキャプテン・サラダバーさんにはこちらに来てほしいのです」
「台本も一応読みましたが……本当に上手くいくのですか?」

 そのために大掛かりな準備をしたのです。死角はないのです。

「さあ! ヒーローショーの開演なのです!」


◇◇◇


「ぐへへへ~。愚かな住人どもが~! まんまと騙されて街中の野菜を集めてくれたものよ~!」
「そ、そんな!? まさかヘンショッカーの罠だったなんて!?」

 ヘンショッカーは積まれた野菜の山を満足げに眺めながら、目の前の住人達を見下す。
 全てはヘンショッカーによって仕組まれた罠だった。
 街中の野菜を集めて忌まわしき邪魔者、キャプテン・サラダバーの力の源を全て奪い去り、滅却する。
 そのためにヘンショッカーは街中の住人を騙し、街中の野菜を集めさせていたのだ。

「しかし……随分と大量に野菜を用意してくれたものだ。これでは処分しようにも時間がかかってしまうな。だが……ヘンショ・クイーン!」

 ヘンショッカーに名を呼ばれ、颯爽とその場に現れた黒マントの美女。
 顔の一部を仮面で隠しているが、ヘンショッカーと同じくその気配は邪悪なもの。
 そしてマントをひるがえしながら彼女は宣告する――



「オーホホホ! 我が名はヘンショ・クイーン! ヘンショッカー様の一の子分! 我が紅蓮の業火はどんな野菜であろうと焼き尽くす! 我が主、ヘンショッカー様の邪魔者であるキャプテン・サラダバー……。その力の源を、全て灰塵へと返してさしあげますわ! オーホホホ!」

 高笑いを上げて、ヘンショ・クイーンが掲げた手の平から燃え盛る業火を呼び起こす。

「うわ!? なんだかすげー強そうだ!」
「こ、こわいよー!」
「うおおおお! ヘンショ・クィイイイン!!」

 驚愕する少年。怯える少女。
 一部から湧き上がる歓喜の声。

「た、大変なのです! みんな! 一緒にキャプテン・サラダバーを呼ぶのです!」

 ヘンショッカーの前で嘆いていた住人の中から、一人の少女が提案した。

 そう。こんな時こそ彼の出番だ。
 ヘンショッカーの天敵。何度もヘンショッカーの襲撃からセンビレッジを救ってきた、愛と正義と野菜の戦士。
 その場にいる皆が心を一つにして、その名を叫んだ――



『助けて! キャプテン・サラダバー!!』



 キィイイイイン!!

 その叫びに、心に反応するかのように、光り輝き描かれる魔法陣。

「――私を呼ぶ声がする。その声を、願いを――叶え助けろと、私の中のサラ魂が轟き叫ぶ!」

 ――そしてその中から現れる、皆が待ち望んだ英雄の影!

「この街の人々を、人々が愛する野菜を! 虐げることなど許さない! レッツ・ゴウ・ヘルシー! このキャプテン・サラダバーがお前達をさわやかな野菜の加護の元……成敗してくれる!!」

 ――キャプテン・サラダバー! 皆の願いがここに届いた!

「おのれ~、キャプテン・サラダバー! だがここまでは織り込み済みよ! ヘンショ・クイーン! あやつを倒すのだ!!」
「ヘンショッカー様のご命令とあらば! キャプテン・サラダバー! 我が紅蓮の業火で、まずはお前から灰塵へと帰してあげますわ!!」

 ヘンショッカーの命を受け、ヘンショ・クイーンは両手で巨大な火球を作り出す。
 あらゆる命を、野菜を焼き尽くす、紅蓮の業火。
 その非情な火球がヘンショ・クイーンの手から放たれ、キャプテン・サラダバーへと襲い掛かる!



 ボォオオオ!!

「ぐぅうう!? な、なんという力だ!? この火力! 焼き畑農業の比ではない!」

 必死で両手を使って火球を支えるキャプテン・サラダバー。だがその勢いは止まらない。
 ヘンショ・クイーンはなおも両手をキャプテン・サラダバーへと向け、火球へと力を注ぎ込む!

「ぐへへへ~! 残念だったな、キャプテン・サラダバー! ヘンショ・クイーンの攻撃を止めようにも、全ての野菜は我が手中にある! サラダチャージもできはしまい!」

 全てはヘンショッカーの思惑であった。
 街中、全ての野菜がヘンショッカーの元にある今、キャプテン・サラダバーにサラダチャージはできない!

「さあ、終わりよ! キャプテン・サラダバー!! オーホホホホ!!」

 ヘンショ・クイーンが火球により一層力を込める!
 キャプテン・サラダバーに対抗する手立てはない!

 絶望! 圧倒的、絶望!

「こ、このままではキャプテン・サラダバーが負けてしまうのです! みんな! キャプテン・サラダバーを応援するのです!」

 再び人々の前に立つ少女からの願い!
 その声は、人々の心を動かした――

「負けるなー! キャプテン・サラダバー!!」
「が、がんばってー! キャプテン・サラダバー!!」
「負けるなぁああ! ヘンショ・クイィイイン!!」

 必死にキャプテン・サラダバーを応援する少年少女の声!
 ヘンショ・クイーンを応援する一部の声!

「皆の声が私を奮い立たせる! 私のサラ魂へと反響する!!」

 その声は確かにキャプテン・サラダバーへと届いた! 皆の心が一つとなった!



 そして――



 ブワァ……!

「なっ!?」
「や、野菜が……!?」

 ――奇跡が起こった!

 ヘンショッカーの近くに積み重なった野菜が、風に流され舞い上がる!
 舞い上がった野菜はそのままキャプテン・サラダバーの口へと運ばれ――



 カジッ!

 ――サラダチャージ……成功!

「うおおおお!! 皆の思いが! 野菜の力が! 私の奥底から力を呼び起こす!!」

 キャプテン・サラダバーに恐れるものはなくなった。
 街の人々の思いと野菜の栄養が一つの力となり、キャプテン・サラダバーの両手に火球を押し戻す活力となる!

「ば、馬鹿な!? こんなことが!?」
「これが……人々の思いと野菜の力だというの!?」

 目の前の光景に戦慄する、ヘンショッカーとヘンショ・クイーン!

「サラダチャージ……フルパワァアア!! 今の私は……ホカホカ焼き芋のように甘くはないぞぉおお!!!」

 渾身! 全力! 絶叫! 焼き芋!

 キャプテン・サラダバーはついにヘンショ・クイーンの火球を――



 ドンッ!!

 ――押し返した!

「うぐあああ!!??」
「キャアアア!!??」

 ボシュゥウウン……!

 火球はヘンショッカーとヘンショ・クイーンに激突。
 巻き起こった煙が晴れた先にあったのは、倒れた二人の姿であった。

「イッツ・エブリワン・ヘルシー! センビレッジの人々の活力パワーとパサラダ野菜の健康パワー! この二つがあれば……恐れるものなどありはしない!!」

 ワァアアアアア!!

 キャプテン・サラダバーの勇姿に歓声が沸き上がる!

「すごいや! キャプテン・サラダバー!」
「わたしたちの力が届いたんだね!」
「ウワァアア!? ヘンショ・クィイイイン!?」

 その光景の中には感極まる少年少女の姿!
 ヘンショ・クイーンの敗北に嘆く一部の姿!

 過去最大の戦いは、キャプテン・サラダバーの勝利で終わったのだ……!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...