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第15章 メカトロニクス・ファイト

第194話 治外法権の街

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 俺とロギウスはドクター・フロストに会いにテコロン鉱山へ向かうため、その途中にあるダウンビーズの街に立ち寄っていた。

「随分と物々しい街だな。王都の"壁周り"のような雰囲気だが、妙な活気に溢れているというか……」
「ダウンビーズは王都から離れているからね。"壁周り"と違って王国内では流通できない商品を売る闇市や、亜人といった種族も闊歩している」

 ロギウスに言われて辺りを見回すと、確かに人間以外の種族も出歩いているようだ。
 ある程度服で隠しているようだが、オークやゴブリンといった種族がいるのが分かる。
 だが特に問題を起こす様子もなく、ダウンビーズの街並みに溶け込んでいる。

「ここにいる亜人はそれなりの知能を有している者がほとんどだ。そんな彼らを見ていると、僕は亜人や魔物達にも居場所を作りたいなと考えている」

 ロギウスの考え。それは以前話してくれた先代勇者、【慈愛の勇者】が願った、"人と魔の共存"を描くものだった。

「魔物だって全部が全部"悪"ってわけじゃない。【伝説の魔王】が倒れた今、歩み寄って語り合う必要だってある。……そんなユメ様が願った世界を僕も見てみたいな」
「だったら俺達で実現してみようぜ。"人と魔の共存"ができる世界をよ」

 俺とロギウスはお互いにそんな未来を思い描きながら、ダウンビーズを散策していた。



「お? これってもしかして銃か? ガルペラが使っていたものとは違うものもあるな」

 俺はふと露店に並んでいた商品に目を向ける。
 商品名の札に"ショットガン"、"マシンガン"と書かれた、見たことのない銃まである。

「これはフロスト元隊長が流したものだろうね。どうやらこのダウンビーズに自らが作った武器を流しているようだ。……だが、ここにある品はフロスト元隊長が開発した中でもかなりレベルの低いものようだ」

 俺にはガルペラが持っている銃よりも凄そうに見えるが、これでもかなりレベルが低いだって?
 ドクター・フロストという男はいったいどれほどの科学力を持っているんだ……?

「こんなものを簡単に作り出す男か……。確かに味方に引き入れれば、心強いかもな」
「簡単に味方になってくれればの話だけどね……」

 俺もロギウスもフロストを味方にすることに対して、期待と不安が入り混じる。

「……ところでゼロラ殿。あなたは気付いているかな?」
「……一旦人気のない場所に行こう。誘き出すぞ」

 ロギウスは何かに勘づいていた。俺もロギウスと同じものに気付いていた。
 ……先程から街の中で俺達を監視する視線。その気配を俺達は感じ取っていた。

「賛成だ。いくら治外法権の街の中だからといって、公の場では向こうも姿は現さない。それに……何者かを確認しておく必要もある」

 ロギウスも俺の意見に賛成し、二人で一度人気のない裏道へと場所を移す。
 俺達を監視する視線も同じようについてきた。



「――そろそろいいだろう。おい! 俺達をつけてるのは分かってるんだ! 出てこい!」

 俺とロギウスは臨戦態勢をとって、追跡者を誘き出した。

「…………」

 俺の声に反応して姿を現したのは六人の影。全員が全く同じ漆黒のローブとフードを纏い、顔も分からない。
 それどころか、体格に至るまで六人全員が全く同じに見えるため、見分けすらつかない。

「擬態系の魔法効果を付与した衣装だね……。こうも見分けがつかないところを見ると、魔幻塔で作られたものか?」

 ロギウスは六人の姿を見てそんな言葉を口にした。
 ならばこいつらはボーネス公爵やジャコウの手下ということか?

「ッ!? 来るぞ!」

 六人のうちの五人が一斉に俺とロギウスに襲い掛かってきた。
 それぞれ属性魔法や短剣を使って本気でこちらを殺しにかかってきている!

「チィ! そこそこ強いみたいだが――」
「ああ! 僕達二人で押し負ける程じゃない!」

 厄介な相手ではあるがロギウスが言う通り、俺達二人なら十分に戦える相手だ。
 俺は素手の格闘術で、ロギウスは理刀流の剣術でそれぞれ応戦する。
 追跡者五人は一言も言葉を発することなく、不気味に、ただひたすらに俺達への攻撃を繰り返してきた。

「オラァア!」

 ドンッ!

 俺はそのうちの一人を蹴り飛ばした。
 丁度蹴り飛ばした先にはこれまで戦いに参加せずに傍観していた六人目が立っていた。
 俺はその六人目も一緒に巻き込めると思ったが――



 ガシッ! ブンッ!!

 ――その六人目は、飛んできた一人を"片手で"掴んでそのまま俺の方へと投げ返してきた。

「なに!?」

 俺は慌てて飛んできた相手を躱す。そして再度、傍観していた六人目に目を向ける。

 他の五人と同じように何も言葉を発さない。
 先程のやりとりも、余裕といった風に首をゴキゴキと鳴らしている。
 俺が蹴り飛ばした相手は決して軽い相手ではなかった。
 だが、そんな奴をこの六人目は"いともたやすく片手で掴んで投げ返してきた"のだ。

「ロギウス……。あの六人目は相当ヤバイぞ……!」

 六人目の追跡者はこれまでの傍観をやめ、ゆっくりと俺の方に近づいてきた。

「……どうやらそうらしい。ゼロラ殿。他の五人は僕で相手する。あの六人目の相手を頼めるか?」

 ロギウスも相手の力量が分かったのか、六人目の相手を俺に託した。

「…………」

 一切の言葉は口にせず、その素顔も見せず、ただ不気味に俺に向かってくる謎の追跡者。その六人目。
 言葉を聞かなくても分かる。こいつは……他の五人とは別格の実力者だ!
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