上 下
186 / 476
第14章 まどろむ世界のその先へ

第186話 戦力拡充計画

しおりを挟む
「さて……。一通り僕達の事情も説明したし、今後のことについて話し合おうか」

 俺達は一つのテーブルに座ってロギウス主導の元、今後の計画について話し合うことになった。

「まず優先すべきはこちら側の戦力拡充だ。王国騎士団と事を構える必要が出てきた以上、今の戦力は心許ない」
「確かにな。<理刀流>の宗家として見てみると、個々の戦力は決して負けてはいないだろう。だが……数で大きく負けている」

 ロギウスとイトーさんが懸念しているのは現在のこちらの戦力だ。
 ギャングレオ盗賊団等を総動員させても、数という面で圧倒的に不利になっている。

「だから僕から提案させてもらう。僕達"共通の目的"を持つ四人の最後の一人、元ルクガイア王国騎士団二番隊隊長、ドクター・フロストを味方に引き込む」
「……おい、正気か? フロストの馬鹿なんて引き込んだら、それこそ大戦争になりかねないぞ? 俺は反対だ」

 ロギウスはドクター・フロストを仲間にすることを提案したが、バクトはかなり嫌な顔をして反対する。

「ドクター・フロストさんって、確か王国一級の危険人物ですよね? バクトさんの言う通り、本当に引き込んで大丈夫なんですか?」
「そこについては交渉次第だろう。それに……こちらにはラルフルとマカロンがいるからね」
「ふぇ?」

 ラルフルも不安を抱いていたが、ロギウスはその交渉材料としてラルフルとマカロンの名を出した。
 そういえば以前マカロンは誘拐された際に、ドクター・フロストに助けられ、グレネードランチャーを渡されたと言ってたな……。 やはり二人と関係のある人物なのか?

「ラルフルとマカロンがいるから……どうなるって言うんだ?」
「フロストは彼ら姉弟が関わることには一定の配慮を行う。僕達もなんでそうするかの理由は知らないけどね。……バクト公爵以外は」
「ロギウス殿下……。貴様、俺にあの科学馬鹿と交渉しろとでも言うんじゃないだろうな?」

 ロギウスはバクトの方に目を向けるが、嫌な予感を察知したのか、バクトは先に交渉を断るように言い放った。

「安心してくれ、バクト公爵。フロストとの交渉の役目はゼロラ殿に頼もうと思う」
「俺に? 今の話だとラルフルがやるかと思ったんだが――」
「ラルフルには別件で動いてもらう。ケガが治りきってなくて大変だろうが、ゼロラ殿にお願いできるかな? 交渉には僕も同伴する予定だ」

 ロギウスはフロストとは別に何かまだ策を用意しているようだ。そのためにもラルフルが必要らしい。

「分かった。それでフロストって奴はどこにいるんだ?」
「ルクガイア王国領内の最北端。テコロン鉱山を根城にしている。道中も険しいだろうが……それ以上にフロスト本人が厄介だ。彼が持つ科学力は、僕達の想像のはるか先を行っている」

 科学力……。聞いたことはあるが、魔法とは異なる力のことだったな。
 だがロギウスがそれほどまで言う人間だ。味方に引き入れることができればかなり強力なんだろう。

「フロストの馬鹿には【王国最強】と呼ばれる弟がいる。確かにあいつがいれば、数の不利さえ打開できるかもしれないが……」
「【王国最強】?」
「元ルクガイア王国騎士団二番隊隊士、フレイム。兄フロストと同じように追放された男だが、あの男こそ"正真正銘の魔人"とも言える規格外の怪物だ。貴様らでもおそらく勝てないだろう」

 バクトが口にしたフロストの弟、【王国最強】の男、フレイム。
 俺達でも勝てないほどの相手って、いったいどんな奴なんだ……?

「【王国最強】……。ま、まさか!? あの時自分達を助けてくれた人ですか!?」

 ラルフルがその話を聞いて口を挟んできた。
 ラルフル達を助けてくれただと……?

「自分とシシバさんがゼロラさんを抱えて王宮から脱出する時、空の上から何か攻撃をして王国騎士団を吹き飛ばしてくれたんです。遠くて姿はよく分かりませんでしたが……」
「『空の上から王国騎士団を吹き飛ばした』……か。そんなことができるのはフレイムぐらいだろうね」

 ラルフルが説明してくれた当時の話を聞いて、ロギウスもその人物がフレイムだと推測する。
 俺の命の恩人にもなるわけだが……『空の上から王国騎士団を吹き飛ばした』って、それは本当に人間か?

「フロストとの交渉はまだ先にするつもりだ。ゼロラ殿、ケガは後どのぐらいで治りそうだい?」
「う~ん……。明日の朝には戦えるぐらいになってると思う」
「いや!? 早すぎるだろ!?」
「貴様……知ってはいたが、シシバの馬鹿並におかしい体してるな」

 俺のケガの回復具合を答えたら、イトーさんとバクトに盛大にツッコまれた。
 仕方ないだろ。今でも起きた時から大分回復してるんだから。

「じゃ、じゃあ、なるべく早い日に一緒に向かうとしようか」
「フン……。せいぜいあのマッドサイエンティストに殺されないよう、気を付けることだな」

 ロギウスも若干引きながら答えてた。バクトも相変わらず口悪くだが、一応交渉に向かうことは認めてくれたようだ。

 それにしても――

「イトーさん。バクトはフロストのことを嫌ってるのか?」
「……会えば喧嘩する仲だ」

 俺はイトーさんに耳打ちをして確認したが、バクトとフロストの仲は険悪のようだ。
 ……戦力以前に、協力できるのか?

「そして僕からもう一つ提案がある。いや、先に質問だな。ラルフル、君はレイキースと共に旅をしていた途中に魔力をすべて失ったんだよね?」
「は、はい。洞窟に潜った時に魔族の術をかけられて、全ての魔力を奪われたんです」
「……やはり、おかしいな」

 ロギウスはラルフウが魔力を失ったことに疑問を抱いているようだ。

「おかしいってのはどういうことだ? 実はそんな術はないとか……?」
「いや、術自体はあるだろう。僕がおかしく思っているのは"時期"だ」
「時期?」

 ロギウスは神妙な面持ちで自らの考えを述べ始めた。

「ゼロラ殿も戦った現王国騎士団団長のバルカウスなんだけど、彼は本来魔法を使わない生粋の戦士だったんだ。剣の腕前も"剛剣"と称されるほどだった」
「え? だがあいつは魔法を使ってたぞ? それに、剣術も魔法もどっちつかずの中途半端になってたし――」

 俺は自分でそこまで言って、ある可能性に気付いた。
 それはロギウスも抱いていた可能性と同じものであった。



「これはあくまで仮説なんだけど、バルカウスはもしかすると……"ラルフルの魔力を奪って魔法を使えるようになった"んじゃないかな?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

処理中です...