記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第13章 王国が変わる日

第176話 王宮脱出戦・終局

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 自分は信じられませんでした。
 あんなに強いゼロラさんが体中から血を流して、声をかけても返事してくれません。
 だって……ゼロラさんですよ? あのレイキース様にだって立ち向かった……あのゼロラさんが……?

「ラルフル! 嘆いとる暇なんかあらへん! 急いでゼロラはんを連れて逃げ出すんや! バクトはんとミリア様がおれば、まだ助かる!」

 シシバさんの声で我に返ります。そうだ……今は泣いてる暇なんてありません!
 自分はシシバさんと一緒にゼロラさんを担いで、なんとか王宮の外に出ます。

「!!? そ、そんな――」

 ですが、すでに自分達の前には王国騎士団が集まっていました。
 ミリアさん達はなんとか逃げ延びたようでしたが、自分達だけでも捕らえようとにじり寄ってきます。

「万事休すか……!?」

 シシバさんもかなり焦燥しています。ゼロラさんがこの状態では満足に戦うことも――





 ドガァアアアン!!

 そんな時、上空から炎の弾丸が落ちてきました。
 次々に落ちてくる炎の弾丸は自分達を囲んでいた王国騎士団をどんどん吹き飛ばしていきます。
 それはまるで、自分達を王国騎士団から守るように――

「な、なんや!? 何が起こっとる!?」
「シ、シシバさん……上です……!」

 自分は上空を見上げました。自分の声を聴いてシシバさんも見上げます。
 そこには人影が一つだけ浮いていました。離れてはいますが、かなり大きい人であることが分かります。
 あの人が……助けてくれた……?

「ありゃまさか……兄貴が言うとった、元二番隊の【王国最強】か……?」
「【王国最強】……?」

 そんな人がなんで自分達を助けてくれたのでしょうか? ……いえ。考えている暇もありません。

「ラルフル! 今のうちにゼロラはん担いで逃げんで!」
「はい!」



 そこから先のことは必死過ぎてよく覚えていません。



 王宮から離れた後はギャングレオ盗賊団とも合流し、王都からも離れました。
 ゼロラさんのケガはミリアさんの回復魔法だけでは治しきれず、バクトさんも治療してくれました。
 それから自分は必死に祈り続けました。
 ゼロラさんが死なないことを、ただ必死に――





「……フオオ」

 王宮の外でラルフル達を助けた巨大な人影は、ラルフル達が逃げ延びるのをはるか上空から確認していた。

 元ルクガイア王国騎士団二番隊隊士、フレイム。
 元隊長であるフロストを兄に持ち、【王国最強】の肩書を持つ、全身を鎧で纏った人並外れた巨人。
 背中から炎を噴出させながら、滞空状態を続けていた。

『ラルフルは逃げ延びたか? フレイム?』
「フオオオ」

 フレイムの元に、兄フロストからの通信が入る。
 フレイムは蒸気音のようなうなり声で返事をする。

『他の二人? そんな連中はどーでもいーな。……それより、あのクソアマは?』
「フオ、フオオオオ」

 フロストはゼロラやシシバには興味がないとばかりに、フレイムに本来のターゲットのことを確認する。

『……出てこなかったか。まあいい。予定外だったが、ラルフルを助けられただけでもよしとするか』
「フオオオ……」

 本来の目的は果たせなかったフロストだが、ラルフルが無事だったことには一安心のようだ。

『帰還しろ、フレイム。これ以上、レーコ公爵を追っても無駄だ。この騒動で王国騎士団も守りを固め直すだろう』

 フロストが言うように、ラルフル達に逃げられて上空からフレイムの砲撃を受けたためか、王国騎士団は城の守りを固め始めている。

「フオオ!」

 フロストの指示を聞いたフレイムは、王宮の上空から飛び去って行った――
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