記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第13章 王国が変わる日

第167話 王宮脱出戦・ラルフル合流

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「急ぐぞ、シシバ! この城の極秘脱出路はあらかじめ調べてある! ガルペラの方は使えないが、俺達の方は難なく脱出できるはずだ!」
「分かりやした。速攻で向かいますわ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! まずアタシを下ろしなさい!」

 アタシはバクト公爵とその護衛二人、そしてシシバの右肩に担がれながら王宮内の脱出路へと向かっていた。
 でも――

「ゼロラさん達は何とかなるかもしれないけど、まだラルフルが残ってるのよ! ラルフルを助けに向かってよ!」
「おい、小娘! 今は自分の身を心配しろ!」
「嫌よ! このままじゃラルフルが一人で戦うことになるわ!」

 ラルフルが私達と関わっていたことなど周知の事実だ。
 このままアタシ達だけ逃げたら、ラルフルは一人になってしまう!

「とにかく下ろしなさい! アタシ一人でも助けに行くわ!」
「小娘ぇ! お前一人に何ができると言うんだ!?」
「アタシがいれば回復魔法で持久戦をしながらラルフルも脱出できるわ! いいから早く下ろしなさい!」
「いだぁ!? ちょ、ミリア様!? ケツ叩かんといてくれや!?」

 アタシだけ助かっても意味がない! 早くラルフルのもとへ急がないと……!

「……おい、シシバ」
「……へいへ~い。言われんでも分かっとりますがな……」

 突然バクト達が足を止めるとアタシを担いだままのシシバにバクト公爵は言った。

「シシバ。貴様はミリアと共にラルフルのもとへ向かえ。俺は護衛と一緒に脱出する」
「俺がおらんで大丈夫なんでっか?」
「この護衛二人は貴様が選んだギャングレオの精鋭中の精鋭だ。それに、そのやかましい小娘を連れたままでは満足に脱出できん」

 一応アタシの思いを汲んでくれたのか、バクト公爵はアタシのことをシシバに任せ、分かれて脱出路へと向かって行った。

「はぁ~……。バクトはんもホンマ、ミリア様には甘いというか……」
「アタシには甘い? どういう意味よ?」
「……なんでもない。こっちの話や」

 シシバは何かをはぐらかしたようだが、アタシと一緒にラルフルの脱出を手伝ってくれるようだ。

「ミリア様。ラルフルがどこにおるか分かるか?」
「アイツは議場の近くで掃除をしながら待機してるはずだけど……」
「議場の近くやな? ほんなら、全速力でしらみつぶしに行きまっせ~!」

 シシバは足に力を込めて前傾姿勢をとる。
 ――あれ? この人って確か――

 シュゥウン!

「あああああ!? は、速すぎるぅうう!?」
「我慢せい! とりあえずラルフル見つけたら教えるんや!」

 速すぎて確認できないわよ!



「あ、あわわわ……!? ど、どうしましょう……!?」

 自分が議場の近くで掃除していたら、レイキース様たちが中に入っていって、その後すごい音がしたりで大騒ぎになってしまいました。
 や、やっぱり中で何かあったんですかね……!?

「ラルフル……! 貴様も連中の仲間じゃったな……!」
「ジャ、ジャコウ様……!?」

 議場から出てきたジャコウ様が頭を押さえながら自分の前に現れました。
 さらには王国騎士団が自分の周りを取り囲み始めます。

「貴様も逃がさん! わしがこの手で――」

 シュン! ガンッ! シュン! ガンッ!

 ジャコウ様が戦闘態勢に入ろうとすると突如ものすごい速さで何かが自分達の周りを駆け巡り始めました。
 壁とかに激突しながらとんでもないスピードで動いてますが――

「だから! 小柄で赤い髪なんだって! さっきから言ってるでしょ!?」
「うっさいわ! 全速力出すと、俺でも目の前がよう確認できひんのや!」
「だったら一回止まりなさいよ!」

 ――聞き間違いでしょうか? なんだかミリアさんの声が聞こえます。

 ドガァアン!

「ジャゴォ!?」
「こいつかぁあ!? 間違えて踏んづけてもうたけど!」
「違うわよ! 目の前にいる奴よ!」

 聞き間違いじゃありませんでした。やっぱりミリアさんです。シシバさんに担がれてますけど。
 後、ジャコウ様も踏んづけて倒しちゃいました。

「ラルフル! 大丈夫だった!? 一緒に脱出するわよ!」
「だ、脱出って……やっぱり何かあったんですか!?」
「詳しい説明は脱出してからや! 今はとにかくこの場を切り抜けるで!」

 ミリアさんを下ろしたシシバさんはトの字型の武器を構えて戦闘態勢に入ります。

「……とりあえずはやるしかないみたいですね」

 自分も清掃道具とエプロンを捨てて構えをとります。

「ミリアさん、できれば自分を置いて脱出してほしかったです」
「バカ! そんなことできるわけないでしょ!?」
「でも……助けに来てくれて嬉しかったです」
「んな……!?」

 ミリアさんはこんな時なのに顔が赤くなってしまいました。

「惚気とる場合か!? 増援はまだまだ来んで! とにかくなぎ倒して突破するんや!」
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