記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第12章 舞台へ立つために

第159話 商人の港町

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 バクトを含めた会談の翌日、俺とシシバは二人で馬を走らせて港町ウォウサカへと向かっていた。

「ホンマは自分の足で走った方が速いんやけどな~」
「それはお前だけだ」

 ウォウサカはルクガイア王国領土最南端の海岸にある。馬を走らせても片道で一日近くかかってしまう。

「なあ、シシバ。お前はウォウサカの生まれ育ちか?」
「いんや、生まれも育ちも別や。ただ、ギャングレオ盗賊団結成以前からウォウサカを拠点に活動しとったからな。そのせいでいつの間にかウォウサカの喋り方が染みついてもうた」

 おそらくは先代勇者と戦った時にはもうウォウサカを拠点としていたのだろう。それぐらい長い期間をウォウサカで過ごしたせいか、シシバのウォウサカ訛りはかなり強い。

「あっこはこの国の貿易の中心や。署名を集められれば、強い味方になるやろ。俺の知り合いもおるし、そない難しい話でもあらへん」
「それは心強いな」

 そんな取り留めのない会話を続けながら俺達は馬を走らせ続ける。

「それにしてもゼロラはん。あんさん馬乗るのうまいな~」
「今回初めて乗ったんだがな。お前がそういうんならそうなんだろうよ」

 俺の手綱さばきを見てシシバは感想を述べた。シシバも馬の乗り方には慣れているようだ。
 それ以上に慣れ過ぎてるというか――

「お前……なんで馬の背中に寝転びながら足で手綱を操作してるんだ?」
「だってウォウサカ着くまで暇やもん」

 せめて前を見ろ、前を。



 朝出発してもう陽が暮れ始めているが、なんとか港町ウォウサカに到着することができた。
 俺達は馬を降りると早速町の中を歩き始めた。

「お~? シシバのあんちゃんやないか! えらい久しぶりやな~」
「ホンマや~。なんでもでかい盗賊団のボスになったそうやん? 相変わらずやんちゃしとるね~」

 町の中ではシシバの知人達が次々に声をかけてきた。その全員が強いウォウサカ訛りで話してくる。

「結構顔が広いんだな、シシバ」
「あんまり世間話しとる暇もないんやがな~……」

 シシバが寄ってくる知人に色々話を持ち出されるが、今日ここへ来た目的は別だ。
 俺達はガルペラの改革について話をし、署名を募り始めた。

「センビレッジのガルペラ侯爵がか? その話、ホンマかいな?」
「噂には聞いとったが、もし改革が実現すりゃ、ウチらももっと商売に精を出せそうやね~」
「今は貴族のお偉方のせいで貿易も規制ばっかや。わいらも喜んで署名すんで!」

 手応えは上々。ウォウサカの住人たちは次々に署名をしてくれた。

「この調子やったら問題なく終わりそうやな。なんやったら、ゼロラはんはちーっとブラついてきたらどないや? ウォウサカは初めてやろ?」
「そうだな……」

 ウォウサカの中を軽く見てみたが、センビレッジとは毛色の違う様々な店が軒を連ねている。このまま二人で署名を集めても効率は変わらなさそうだし、シシバも古い友人知人と積もる話もあるだろう。

「それじゃあお言葉に甘えさせてもらうぜ。お互い終わったら予定してた宿で合流だ」
「おう。こっちは任せとけや」

 俺はその場をシシバに任せて一人町の散策を始めた。



「本当に色々な店があるな……」

 ウォウサカの町中には近海で獲れた海産物を始め、貿易で他国から輸入した様々な交易品が店に並んでいた。
 特に目についたのは"粉モン"と呼ばれる食べ物だ。元々は異国の食べ物だったらしいが、それをウォウサカの商人達がアレンジを加えて独自進化を遂げたようだ。

「"お好み焼き"、"もんじゃ焼き"、"イカ焼き"――ん? あれは?」

 そんな俺の目に見たことのある名前が入ってきた。

「"たこ焼き"……。センビレッジで食べた"タコヤキ"のことか?」

 丸い見た目にタコを入れて調理してるのが分かる。以前センビレッジで食べたのと同じものだ。

「あ! お客さんいらっしゃい! たこ焼きいかがですか?」
「今なら安くしておきますよ!」

 ここでは珍しい、ウォウサカの訛りがない年配の男女二人の店員が声をかけてきた。

「あんたらはウォウサカの訛りがないんだな?」
「ええ。私達夫婦は元々王都の方に住んでいたのですが、一念発起してここウォウサカでたこ焼き屋を始めたんです」
「始めは苦戦しましたが、最近は旦那と一緒に頑張ったおかげで、売り上げも軌道に乗って来たんです」

 夫婦でたこ焼き屋をしているのか。俺も嫁がいたらそんな生活も悪くないかもしれない。
 ――俺の頭にマカロンとリョウの顔が思い浮かんだ。

「それでいかがですか、たこ焼き?」
「あ、ああ。一つ貰おうか」

 そんなことを考えながら、俺はたこ焼きを買って食べることにした。
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