記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第12章 舞台へ立つために

第152話 二人は友達

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 バクト公爵との会談まではまだ時間がある。俺は空いた時間をどうやって過ごそうか考えたいたが、そこに一通の手紙が送られてきた。
 差出人は不明。センビレッジから少し離れた高級料理店に来てほしいとの内容だった。
 罠という可能性も考えられたが、なんとなく違う気がした。
 ……手紙の字がすさまじく下手だったからだ。宛名にしても、"書いてない"のではなく、"読めない"のだ。罠にしては雑過ぎる。
 そうして俺は指示された店にやって来たのだが――

「おお、ゼロラ殿! わざわざお越しいただきすまないでおじゃ!」
「おでたちが直接ゼロラの旦那に会いに行くと、色々問題があるだで」

 ――現在、オジャル伯爵と亜人隊隊長のオクバに盛大に出迎えられている。
 目の前には豪勢な料理の数々。本当に手厚くもてなされている。

「誰からの手紙かと思ったが……お前らかよ……」
「おじゃ? オクバ殿、手紙に名前は書いてなかったでおじゃるか?」
「ちゃんと書いたど。ほら、ここ」

 オクバが俺の持っていた手紙の差出人欄を指さして言う。

「いや、汚過ぎて読めないから」
「……すまんど」
「やはりまろが書くべきでおじゃったか……」

 しかしまあ、来てしまったものは仕方ない。俺はオジャル伯爵とオクバの歓迎を受け入れることにした。

「でもなんで俺を歓迎したりしてくれたんだ?」
「ゼロラ殿にはバクト公爵邸での件といい、色々迷惑をかけたのでそのお詫びおじゃ。本来ならまろが危害を加えた相手に直接謝罪したいところでおじゃるが……」

 あー、なるほど。俺とは先日のバクト公爵邸の件で一度直接会ってるから呼びやすかったわけだ。
 確かにミリアやマカロンは呼ばない方がいい。一度殺されかけているラルフルに至ってはオジャル伯爵を殺し――まではしないだろうが、揉めるのは確実だ。

「お前もすっかり良くなったんだな、オクバ。出っ歯もしっかりしてるじゃねえか」
「出っ歯は最初からこのままだど……」

 バクト公爵の手術で命拾いしたオクバはまだ全快とはいかないが、生活に支障がないレベルには体調も戻ったようだ。

「ゼロラ殿。改めて謝罪させてほしいでおじゃ。これまでの非礼、誠に申し訳なかったでおじゃる」
「おでからも感謝を言うど。旦那のおかげでおでは助かったど。ありがとうだど」

 二人は俺に対して頭を深々と下げる。誠心誠意の謝罪と感謝の気持ちが伝わってくる。

「別に俺はいいぜ。今後はお前達とも協力していくことになるしな」
「おお! ゼロラ殿はなんと心の広いお人でおじゃるか!」
「森のように広大な心を持った人だど!」

 そこはせめて"海のように広大"と言ってほしかったものだ。
 いや、オクバのようなオークは海より森の方が印象が強いのか?

「そういえば、オジャル伯爵とオクバは友人同士だったんだよな? なんでそうなったんだ?」

 俺はふと気になったことを聞いてみた。
 この二人はお互いを利用し合うような関係ではない。種族を超えて心から繋がりあった友人のようだ。

「ふむ……。それを話すには少し時間が必要でおじゃるな」
「おでたちの出会いは谷よりも深く、山よりも高い事情があるだど」

 種族を超えた友人関係だ。よっぽどの事情があるのだろう。

「あれは……まろが武者修行の旅の中で治安の悪い、様々な種族が入り混じった街の飲み屋で飲んでいた時の話でおじゃ――」


〇 〇 〇

「まろの母上は強引でおじゃる! 女子など、くそったれでおじゃる!」
「分かる! 分かるど、旦那! おでも嫁さんのカカア天下になっててど……」

〇 〇 〇


「――という感じで意気投合したど」
「回想一瞬じゃねえか!? 何が谷よりも深くて山よりも高い事情だよ!?」

 むしろこれじゃ、山頂から谷底までダイブした気分だよ!
 要するに『同じ飲み屋で酔っぱらって話しあってたら、いつの間にか意気投合した』って話じゃねえか!?

「思ったよりも短かったでおじゃるな」
「ダチの関係ってそんなもんだど」
「確かにそうかもしれねえが……」

 ある意味友人としてはごくありふれた出会い方ではある。
 そもそもオクバは結婚してたのかよ……。それもマカロンを誘拐した原因の一つか?
 オジャル伯爵も剣の腕がそこそこいいとは思っていたが、武者修行してたのか……。

「まあ、なんだ……。お前らもお互い大変なんだな」
「おではまだいいど。嫁さんはなんだかんだで美人だし、子供にも恵まれてるし」

 子供までいたのか……。なぜかオクバに負けた気分になる。

「オジャル伯爵の方は本当に大変だど。なんせ母親があれじゃ……」
「母上は"超"が付くほどの教育家でおじゃる。まろが結婚を焦っていたのも母上がうるさかったからでおじゃる……」

 教育熱心なオジャル伯爵の母親か。貴族となればやれ稽古だの、やれ結婚だので色々大変なのだろう。
 なんとなく厳格で眼鏡をかけたいかにも教育家なマダムの姿が頭に浮かぶ。
 そんなオジャル伯爵の家庭事情を聞いて少し重い空気が流れていたその時だった――

 ドドドドドドッ! バタン!!

「ゴゥルァ、バカ息子ぉ! こんなところでなーに油売ってんだい!」
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