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第11章 騎士に巻き付く龍の尾の蛇

第137話 騎士蛇双極戦②

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「鉄格子か……。拙者達のような者が来ることは想定の内か。ますます怪しいな……」
「そうか? 防犯ならこれぐらいするんじゃねえか?」

 えー、この俺、黒蛇部隊隊長のジフウは現在、ルクガイア王国騎士団団長のバルカウスと一緒にバクト公爵のいる部屋目指して進軍中でーす。
 他の黒蛇部隊は下の階の広めの部屋で見張りをさせてまーす。

 ――気乗りしねえなあ……。

「ジフウ隊長。あなたにもこの鉄格子を突破するのを手伝ってほしいのだが?」
「無茶言うな。素手の俺に鉄格子が壊せるわけないだろ」

 ――嘘だけど。その気になったらどうにかできるけど。

 とりあえず今はバルカウスが炎魔法で鉄格子の強度を下げた後、剣による斬撃で鉄格子を斬ることで突破している。
 ――いや、突破してしまっている。
 俺の目的は王国騎士団及び、バルカウスの足止めだ。
 表向きには今回の作戦、王国騎士団と黒蛇部隊の共同作戦となっているが、俺は事前にロギウス殿下に言われた通り、どうにかしてバクト公爵への進軍を遅らせようとしている。
 この作戦がこのまま成功してしまったら、陛下の立場が危うくなる。

「ここまでバクト公爵の配下は一人として出てきていない。もしかしたら、バクト公爵の部屋に戦力をすでに集中させているのかもしれない。黒蛇部隊も今のうちに集結した方が良いのでは?」
「いやいや。むしろ後ろから攻めてくる可能性の方が高い。だから俺も黒蛇部隊を後方で見張りに向かわせたんだぜ?」

 ――嘘だけど。本当は王国騎士団を足止めさせるためだけど。

 この屋敷に入って鉄格子の仕掛けを見た時、俺は黒蛇部隊を使ってまず鉄格子の制御装置を探させた。その制御装置は今、ポールが持っている。
 ポールにはいざという時、上手く理由をつけて下の階の鉄格子を下ろさせ、王国騎士団とバルカウスを分断させる予定だ。
 もっとも……そんなに都合よく理由をつけて鉄格子を下ろせるタイミングなんてなさそうだが……。

「ジフウ隊長。もうじきバクト公爵の部屋に着く。戦闘準備を頼む。……そもそも、なぜ前に出ない?」
「そりゃあ、お前を守るために決まってるだろ? いつ後ろから不意打ちが来るかも分からねえからな」

 ――嘘だけど。最悪、後ろからこいつをぶちのめすためだけど。

 そもそもこの屋敷の人間は、とっくに逃げ出してる。黒蛇部隊にも確認させたし。後ろから敵なんて来ないし。王国騎士団には報告してないし。
 それに俺ならバルカウスを倒せる自信があるし。
 こいつって、剣と魔法の両方を使えるくせに、どっちつかずなんだよな~。剣だけ使ってた時の方が強かったぜ。そもそも、なんで不慣れな魔法なんて覚えたんだよ?

「む!? ジフウ隊長! どうやらバクト公爵の部屋のようだな。部屋の前に門番が二人いるぞ」
「入室禁止です。お引き取り下さい」
「お引き取りいただけない場合、排除します」

 あちゃ~……。とうとうここまでたどり着いちまったか~。
 弟のシシバから聞いた話だと、あの二人はおそらく、ギャングレオ盗賊団の精鋭護衛衆――頭領シシバ選りすぐりの、ギャングレオ盗賊団精鋭中の精鋭だったな。
 詳しいことまでは聞いてないが、戦闘能力だけ見れば幹部クラスだろう。
 バクト公爵が屋敷の人間を避難させても、この二人だけは残ってるのか。それだけの信頼はあるってことだな。
 どうやらバルカウスはこの二人がギャングレオ盗賊団の人間だとは気づいてないらしい。確かにパッと見は屈強なただの護衛にしか見えないな。
 しかしこのままだと俺も戦わざるを得なくなる。できれば避けたかったが、ここでバルカウスをぶちのめしておいた方が――

 ピピッ

「ん? 電報?」

 ポールから電報が入って来たか。この電報は暗号形式になってるから読み取るのが面倒故、長文を送るのには向いてないが、短文なら他人からバレずに離れていても連絡を取り合うことができる。
 さてさて、内容は――

『ゼロラ』

 ――成程。おおよその事情は察した。

「バルカウス。俺はちょっと後ろの様子を見てくる」
「何? 【龍殺しの狂龍】がこの程度で怖気づいたか?」
「ああ、怖気づいた。だから少し様子を見てくる」

 ――もちろん……嘘だけどなぁ!!

「……好きにするといい。戦意なきものが一緒にいても、邪魔なだけだ。拙者一人で問題ない」
「それじゃ、お言葉に甘えて」

 スタ スタ スタ スタ



「……ウハ、ウハハハ、ウハハハハハ! ウーハハハハハァア!!」

 ポールの電報から予想できたこと。

 シシバは今日、ゼロラに会って戦った。
 おそらくシシバは負けた。
 シシバはゼロラと暫定的に協力関係になった。
 シシバの元にバクト公爵の状況の知らせが入った。
 シシバを含むギャングレオ盗賊団は、バクト公爵との繋がりを隠すために動けない。
 だから代わりにゼロラが来た。
 そしてそのゼロラが黒蛇部隊と交戦を始めた。

「そうだ……! これでゼロラと正当な理由で戦える! ウハハハハ!!」

 それに俺の本来のスタイルはシシバとは違う。とにかく時間をかけながら戦うスタイルだ。
 時間稼ぎをしたいこちらとしても都合がいい……!
 気が乗らない任務だったが……どうやら俺にも運が向いてきたようだ!

「もう一度やり合おうじゃねえか、ゼロラ……! あの日できなかった、喧嘩の決着をつけるためにもよお!!」
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