記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

文字の大きさ
上 下
132 / 476
第10章 黒幕達

第133話 妨害

しおりを挟む
 王都・貴族街にある屋敷の一つで、レーコ公爵は窓の外を眺めていた。

「へぇ……。バクト公爵にオジャル伯爵……それに倒れたオークまで屋敷の中に連れ込むなんて」

 レーコ公爵は窓の外からオクバがバクト公爵邸に急いで担ぎ込まれるのを見ていた。

「ねえ、リフィー。ちょっといいかしら?」
「わたくしに御用ですか? レーコ公爵」

 レーコ公爵の呼びかけに答えたのは勇者パーティーの賢者リフィー。かつて勇者レイキースと共に【伝説の魔王】を倒した英雄の一人だ。
 現在はレーコ公爵の派閥に所属し、『【伝説の魔王】を倒した英雄』という看板を利用されている。だが決して無理矢理従っているのではなく、むしろ――

「私のお願い、聞いてくれるかしら?」
「あぁ……レーコ公爵の望みならなんなりと……!」

 レーコ公爵が妖艶にリフィーの顎を持ち上げながら囁く。リフィーはその言葉に顔を赤く染めながら応じる。
 リフィーはレーコ公爵の虜になっていた。リフィーは元々功名心が高く、【伝説の魔王】討伐に参加したのもそのためであった。だが名声を求めすぎるあまり、その心には大きな隙があった。
 "妙齢の美魔女"と呼ばれるレーコ公爵にとって、そんなリフィーを誘惑して篭絡させることなど容易いことだった。

「バクト公爵が屋敷にオークを連れ込んだわ。このことを王国騎士団団長のバルカウスと黒蛇部隊隊長のジフウに早急に報告しなさい。どのような理由があれ、この王都にモンスターを連れ込むなんて許されざる行為よ。ジフウ隊長も王都内の案件ならば動かざるを得ないでしょう」

 レーコ公爵は自身に流れがきているのを感じていた。
 ボーネス公爵はスタアラ魔法聖堂を始めとするオジャル伯爵に関わる件で"三公爵"内での地位も失墜し始めている。ここでバクト公爵が見せた隙を突けば、自らの"三公爵"での地位を確固たるものにし、そのまま派閥を拡大させ、国王の玉座に自らが座ることも可能である。そう考えていた。

「かしこまりました。レーコ公爵のお望みのままに」

 リフィーはレーコ公爵の命に従い、王宮へと報告に向かった。

「ボーネス公爵もバクト公爵も詰めが甘いわね。このままこの国は私のモノにさせてもらうわ……!」

 王宮へ向かうリフィーを見ながら、レーコ公爵はほくそ笑んだ。



「はぁ? バルカウスだけでなく、俺まで出ろだと?」

 王宮へやって来たリフィーの話を聞いてジフウは驚いた。
 『バクト公爵邸へ押し込み、バクト公爵と匿われているオークを捕縛せよ』。
 その命令を王国騎士団団長バルカウスと黒蛇部隊隊長ジフウの二人に出してきたのだ。

「ジフウ隊長。王都内での揉め事ならば、黒蛇部隊も動かずにはいられまい」

 出撃を渋るジフウを見て、バルカウスが戒めるように提言してきた。
 ジフウはギャングレオ盗賊団――弟シシバのバックがバクト公爵であることを知っていた。それにバクト公爵は弟の命の恩人だ。いくら王都内の揉め事であってもそんな相手に手を出したくない。

「……それはレーコ公爵の指示だな?」
「ええ、そうです。これは急を要する案件故、陛下の指示を伺う暇もありません」

 レーコ公爵はこの機に乗じてバクト公爵を権力争いの座から蹴り落とし、その勢いで国王も玉座から降ろす気だ。それはジフウにも読めた。
 ジフウにとってバクト公爵は国王の立場を守れる頼みの綱でもあった。バクト公爵に権力への執着はない。国王を押しのける可能性は低い。他の"三公爵"は知らないことだが、ジフウはシシバから聞いて知っていた。
 今ここで命令に従ってバクト公爵を捕らえてしまえば、レーコ公爵の手によっていずれ国王の立場は危うくなる。だが、命令に背いてもレーコ公爵によって『国王直轄黒蛇部隊は王都に入ったモンスターを見逃す』と悪評を立てられれば、それでも国王の立場はやはり危うくなる。
 いずれにせよ、ジフウにとっては最悪の状況だ。

「僕からもお願いする、ジフウ隊長。バルカウス団長率いる王国騎士団と共にバクト公爵邸へ向かってくれ」

 苦悩するジフウに声をかけたのは王子・ロギウスであった。

「ジフウ隊長。このような事態で即決できないのには問題があるな。少し話がしたい。僕についてきてくれ」
「……申し訳ございません、殿下」

 ロギウスに命じられ、ジフウは後をついて行くようにその場を去った。



「どういう意図があるんですかね? ロギウス殿下」
「すまない。あの場では僕もああいう風に言うしかなかったのでね」

 リフィーとバルカウスの元を去ったジフウはロギウスに尋ねた。

「ここでバクト公爵を捕まえても、陛下の立場は遅かれ早かれ危うくなる。そしてレーコ公爵がこの国の実権を握れば、殿下が考える改革も日の目を見ることはないでしょう」
「それは承知の上だ。僕としても今ここでバクト公爵を失いたくはない」
「殿下たち"共通の目的"を持った四人は、"個人の目的"のために協力はしないんじゃなかったですか?」
「それも時と場合による。それにお互い"協力"はせずとも"利用"はするさ」

 ジフウは顔をしかめる。ロギウスはどこか腹黒い一面がある。先日の話からこの国のためならば、父である国王の意志に反してでも利用できるものは利用する人間だ。

「それに僕にも策はある。こちらの密偵で調べたことだが、バクト公爵が屋敷に戻る少し前に、従者兼ギャングレオ盗賊団参謀長のコゴーダが地下から屋敷に入ったそうだ。このことはレーコ公爵も知らない」
「ギャングレオ盗賊団が助けに来ると?」

 だがそれは下手をすれば、バクト公爵とギャングレオ盗賊団の繋がりを露呈させてしまうことになる。そうなっては事態は変わらない。
 だがそれでもこの状況を打開できる可能性がないわけではない。

「バクト公爵のことだ。レーコ公爵に対しては何かしら対策を考えてはいるだろう。時間さえあれば、この事態を好転させる方法はあるはずだ」
「つまり、俺に時間稼ぎをしろと?」
「ジフウ隊長には無理矢理にでもバルカウス団長と一緒に行動してほしい。最悪、バルカウス団長を止める必要が出た場合――それができるのもあなただけだ」

 様々な思惑が入り混じり、頭が混乱しそうになるジフウだったが、国王の立場のためにもロギウスの考えに従うことを心に決めた。

「黒蛇部隊! 集結!」

 ジフウの号令に黒蛇部隊の部下四人が姿を現す。

「話は聞いてたな。今から王国騎士団と共にバクト公爵邸に向かう。俺達は団長・バルカウスについて作戦進行を遅らせる」

 ジフウの命令に部下たちは頷く。
 ジフウ達黒蛇部隊は王国騎士団に合流し、作戦を始めるのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...