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第10章 黒幕達

第131話 ヒーロー・バーサス・ラルフル

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 ドカッ! ガシッ! ドカァ! バシィ!

「ちょっと!? 待って!? え!? 強い!?」

 もう怒りました! サラダバーさんに自分はラッシュを浴びせます! ガードされていますが自分の方が一枚上手のようです!
 それにしてもカッコイイ衣装ですね! 自分も着たいです! メイド服よりも!

 サラサラ バッ!
『マズイわ! アイツ、ああ見えてかなり強いのよ!』

 サラサラ バッ!
『キャプテン・サラダバーもそれなりに強いのですが、完全に押されてますよ!?』

 そこの二人! いい加減筆談をやめてください! 自分にも見えてます!
 でもヒーローが強いとやっぱり安心しますよね!

「くっ!? さ、さてはヘンショッカーに洗脳されているのか!? それでここまでパワーアップしているのか!?」

 サラダバーさんは何とかショーとしての体裁を保とうとアドリブでセリフを繋いでいます!
 プロ意識高いですね! 流石ヒーロー!

 サラッ! バッ!
『こうなったら何とかしてアイツの隙を作る。その間にアイツを抑え込んで!』

 サラッ! バッ!
『隙を作るなんて……そんなことできるんですか!?』

 サラッ! バッ!
『方法はあるわ!』

 だから自分にも見えてるんですって! それと筆談のレベルが上がってませんか!?
 書くのが速くなってきてますし、そもそも感嘆符とか点々とかいりませんよね!?

 サラサラサラ――

 そんな自分の考えを他所にミリアさんはスケッチに何かを書いて自分に見せてきました。



 バッ!!
『好きよ、ラルフル。愛してるわ』



 ……ミリアさん。それは反則です。自分はポカンと力が抜けて止まってしまいました。

「キャプテン・サラダバー! これを!」
「助かった! マジで!」

 サラダバーさんは観客席から飛んできた大根二本をキャッチして一本を急いで食べ始め――

「サラチャー完了! 私は焼きモロコシみたく甘くない! 必殺・ラディッシュキーック!!」

 捲し立てるように急いで台詞を言い終えると、自分に必殺キックを放ちました。完全に脱力していた自分は簡単に吹っ飛んでしまいました。……あ、落ちたところにマットが用意されてました。

「さあ! 少年! この大根を食べるのだ!」

 サラダバーさんはもう一本の大根を自分に差し出してくれました。正直まだ少し怒ってはいるのですが、差し出された以上、仕方ないので食べます。

 シャリ

「……ッ!!??」

 何でしょうか、この大根の味は……!? 瑞々しくて口いっぱいに大根の旨味が広がります……! この大根の感動的な味に比べれば、自分が抱いていた怒りはなんてちっぽけなんでしょうか……!

「はっ!? じ、自分は何を!?」
「おお! 正気に戻ったか!」

 自分の怒りはいつの間にか収まりました。思えば本当に正気を失って、サラダバーさんがくれた大根で元に戻れたようです。

「あ、あの……その……ご迷惑をおかけしました。ありがとうございます。大根おいしかったです」
「気にするな! パサラダ野菜は邪悪な心も清めてくれるのさ! フレッシュ・ヘルシー!」

 サラダバーさんは自分を介抱するように演じながら、客席へニッコリ笑顔を向けて観客へのアピールも忘れません。
 本当にプロ意識高いですね。

「良い子の皆も好き嫌いはいけないぞ! 皆もパサラダ野菜で清く正しく健康になろう!」

 実際にパサラダ野菜で自分の心は清められましたからね。
 観客席は大盛り上がりでした。なんとかショーとしての体裁も守り抜けたようです。……勝手に暴れてすみませんでした。

「では、諸君! また次の機会だ! シーユー・ネクスト・ヘルシー!」

 そう言ってサラダバーさんは舞台裏へとバク転で消えていきました。



「ほんとゴメンって! だから機嫌治してって、ラルフル!」

 一通り騒動が終わった後、ミリアさんは機嫌を損ねた自分にずっと謝っています。

「はぁ~……もういいですよ。パサラダ野菜もたくさん貰えましたし」

 ショーの後、運営の人たちがお詫びの品としてパサラダ野菜をプレゼントしてくれました。散々な一日でしたが、このお野菜を貰えたなら良しとしましょう。

「自分こそ怒り過ぎました。これからはパサラダ野菜を食べて、身も心も健康になるようにします」
「そういえば大根を食べた後に怒りが一気に収まってたわよね? 本当に効果あるのかしら?」

 ミリアさんは半信半疑なようだったので、自分が貰ったカブを一つ差し出しました。
 それを食べたミリアさんも自分と同じように何か悟りを開いたような表情になった後、落ち着いて答えました。

「アタシ……なんで公衆の面前で愛の告白をスケッチに書いたのかしら……?」

 ――思い出すと相当恥ずかしいことしてましたね。
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