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第8章 気付き始めた思い

第100話 王子の帰還

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 本日の王宮はいつにも増して人が多いです。
 それもそのはず。国王・ルクベール三世陛下のご子息、王子・ロギウス殿下がお戻りになられる日だからです。

「しかしこうも人が多いと前の方がよく見えませんね……」

 自分は人ごみの後ろの方でピョンピョンしながら殿下の姿を確認しようとします。
 まだ王宮には来られてないようですが、いろんな人たちが殿下を一目見ようと押し寄せています。小間使いである自分は前列に出ることもできません。

「そんなに気になるもんかね?」
「気になりますよ! 今日は殿下だけでなく、勇者パーティーの面々も揃われるのですよ!」

 自分と一緒に壁際で待機しているジフウさんは退屈そうに人ごみを眺めています。勇者パーティーも今日という日のために全員揃われるのに、ジフウさんは興味ないのでしょうか?

「そもそもジフウさんはこんなところで何をしているのですか?」
「周辺警備……という名目の外野扱い」

 どうやらジフウさん達黒蛇部隊は貴族に邪魔者扱いされて、普段のように陛下の周りにいることもできないようです。

「正直俺が気になるのは殿下でも勇者パーティーでもなく、"三公爵"だな」

 "三公爵"。国王を押しのけて権力を手にしている、この国の事実上のトップ達ですか。

「噂をすればなんとやらだ。"三公爵"のお出ましだぜ」

 ひと際人ごみが騒めく中心に"三公爵"が姿を現しました。

「あのいかにも傲慢そうな髭のおっさんがボーネス公爵だ。お前とは因縁の間柄だな」

 ボーネス公爵……。ミリアさんやお姉ちゃんを襲ったオジャル伯爵の黒幕。遠目ですが、姿を見るのは初めてですね。

「そしてあの黒髪の熟女、あれはレーコ公爵だな」

 レーコ公爵。噂通りの美人ですが、なんだかケバそうで自分は苦手です。

「バクト公爵は……相変わらず目つき悪いな」

 バクト公爵。ジフウさんが言う通り目つき悪いですね。あれはもう完全に周囲を睨んでますよね。……あれ?

「自分……あの人知ってます」

 あれは確か自分が"追憶の領域"にある清白蓮華の花を取りに行った時のことです。あの時に会った護衛二人を連れていた男の人……。あれがバクト公爵……。

「ほーう。バクト公爵の顔は知ってるのか。俺が思うにあいつは"三公爵"一番のキレ者でクセ者だ」
「それってジフウさん的には一番警戒すべき相手じゃないですか?」

 陛下を権力の座から一番引きずり下ろす可能性が高いってことですよね。

「確かに警戒は必要だが、そこまで気にする必要もないとも言える」

 ジフウさんはバクト公爵に対してはどこか余裕そうです。黒蛇部隊として何か情報を握っているのでしょうか? 素直に教えてくれる人ではありませんが。

 ワァアアア!

 人ごみの歓声が一層沸き上がります。どうやら勇者パーティーの入場のようです。

「この度は殿下の帰還という席に招いていただき、ありがとうございます」

 勇者レイキース様。歴代の勇者でも倒せなかった【伝説の魔王】を倒した世界的な英雄です。自分も短い間でしたがパーティーにいた際、その剣と魔法の実力に驚愕しました。

「わたくしたちも殿下を出迎えることができて光栄です」

 賢者リフィー様。攻撃、補助、回復と様々な魔法を高いレベルで習得した世界的に有名な賢者様です。魔法使いだったころの自分でもリフィー様の魔力には到底及びません。

「拙者、この剣にかけてあなた様をお守りいたしましょう」

 戦士バルカウス様。先代勇者パーティーのころから戦い続けている歴戦の戦士で、現在は王国騎士団の団長をしています。剣の腕前もさることながら、今は魔法の扱いにも長けるようになり、さながら魔法戦士です。

 この三人が一堂に会することは珍しいですが、一番気になったのは三人がまず最初にレーコ公爵に挨拶をしたことです。

「やはりレイキース達のバックにはレーコ公爵がいるのか」

 ジフウさんが言うにはレーコ公爵はレイキース様たちを甘言で惑わして、自らの権力の道具にしているようです。レイキース様達がどうにかなってしまいそうで不安です。

 ワァアアアアア!!

 人ごみの歓声が最高潮に達しました。ついにロギウス殿下がご帰還なされたようです。
 自分も頑張ってピョンピョンしながら殿下の姿を見ます。

「おーおー。ロギウス殿下も大した人気だな。どうだラルフル、殿下を初めて見た感想は? ……あれ?」

 ジフウさんが自分に尋ねかけてきましたが、今の自分の耳には入りませんでした。
 ロギウス殿下は高貴な身なりをしていますが、その姿はあの時"追憶の領域"で見た人と同じ……。

 自分は……あの人も知ってます。
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