上 下
84 / 476
第7章 家族

第84話 マッドサイエンティスト

しおりを挟む
 ルクガイア王国領内でも王都からかなり離れた位置にあるテコロン鉱山。
 強力なモンスターも多いが、希少な金属が手に入るため、多くの冒険者が危険を覚悟で足を踏み入れる場所である。
 だがそんなテコロン鉱山にも誰も踏み入ることができない"禁則地"と呼ばれる場所があった。
 鉱山の最深部、入り組んだ道を超えながら進んだ先にある洞窟の奥がそう呼ばれていた。

「なんげあん人はこげんとこ籠るばいね」

 そこに一人足を踏み入れる方言が混ざりすぎて言葉が滅茶苦茶になってしまった男、黒蛇部隊副隊長、ポール。
 彼の目的の人物はこの場所にいた。

「これより先、マスターの許可なき者は進入禁止です」

 洞窟を少し入ったところでメイド姿の女性が現れた。水色の髪に同じく水色の瞳が特徴的な美人。彼女は洞窟に入ってきたポールの前に立ちふさがるように現れた。

「おいのこと、分かるけんね? "ドク"に話さあるけ」
「……データベースとの照合が完了しました。元ルクガイア王国騎士団二番隊隊士、現国王直轄黒蛇部隊副隊長のポール様。進入を許可します。どうぞお通り下さい」

 メイドの確認が終わり、道を開けてもらったポールは洞窟の奥へと進んで行った。

「こげんとこ空気、やっぱ慣れんたい」

 洞窟の奥へ進むほど、鉄と油のにおいが強くなる。ポールは鼻を抑えながら目的の人物の元に到着した。

「ニナーナが誰を通したのかと思ったらお前かよ、ポール」
「"ドク"。久しゅうごぜんます」

 ポールが"ドク"と呼ばれる人物に礼をする。黒蛇部隊の前身、元ルクガイア王国騎士団二番隊の隊長。マカロンやラルフルに万が一のことがあった際は"ドク"に連絡を入れることが黒蛇部隊内での一応の取り決めとなっている。

「いきなり来たんが、おいは火急さ知らせばい報告――」
「あー、ちょっと待て。これ付けて話せ」

 "ドク"はポールに一風変わった形をしたマスクを手渡した。

『二番隊の頃から俺と話すときはこの"翻訳機"付けさせられますよね。そんなに俺の言葉って聞き取りづらいですか?』
「メッチャクチャ聞き取りづらい」

 マスクは"翻訳機"と呼ばれ、ある程度の言語を分かりやすく自動翻訳してくれる装置だった。

「それにしても黒蛇部隊が俺のところに来るなんて珍しいな。もう俺は隊長でも何でもない、むしろ王国内の一級危険人物なんだが?」
『そうは言いましてもラルフルやマカロンに何かあって事後報告になったら、あなた後で絶対怒るでしょう?』
「もうあいつらもいい歳だ。俺の出る幕じゃねーよ。それにラルフルのことはこの間、バクトの阿呆とイトーのおっさんからある程度は聞いた」

 ラルフルがスタアラ魔法聖堂の聖女ミリアと交際を始めたこと、死に瀕したこともあったが一命をとりとめたこと。それらの情報はバクト公爵やイトー経由で"ドク"の耳にも入っていた。

『はぁ、まあ。聞いたうえで何も行動しないならこっちも口出ししませんが……』
「ゴチャゴチャうるせーんだよ。お前ら俺のことを何だと思ってんだ」
『とりあえず、"マッドサイエンティスト"ですね』
「それについては否定しねー」

 "ドク"が魔法とは異なる力、"科学力"で作り上げた兵器は時代の百年以上先を行くと言われている。それほど強大な頭脳を持ちながら"ドク"はテコロン鉱山の奥に籠り、ただひたすらに兵器の開発を進めている。

「それよりさっさと要件を言え。世間話をしに来たんじゃねーんだろ?」
『ああ、そうでした。マカロンが誘拐されそうです』
「それは一番最初に言え! 大問題じゃねーか!!」

 "ドク"の態度が急変する。怒りと焦りが混ざった表情を浮かべる。

『現在、相手の同行を伺っているところです。黒蛇部隊を総動員して情報を集めているところです』
「当たり前だ! 陛下の命令よりも優先しろ! 俺も向かうぞ! 誘拐しようとしてる奴らのところに案内しろ!」
『まだ、誘拐されたわけではありませんが』
「誘拐されてからじゃおせーんだよ! 状況についてはまたジフウに"無線"で確認取れ!」

 "ドク"は慌てて使えそうな携帯兵器を装備し、さらに奥の部屋の扉を開ける。

「出番だ! フレイム! 飛行形態で全速力だ!」
「フォオオオオ……」
「なに? 『昨日遅くまで起きてたから眠い』だと~? んなもん知るか! さっさと出撃しろ!」

 フレイムと呼ばれた全身を見慣れない鎧で包んだ大男に"ドク"は檄を飛ばして出撃を命じる。


「さっきば『俺の出る幕じゃねん』と言うていけんど、やっぱ二人さ危険迫っとる分かりゃと動くばいね……」
「だからゴチャゴチャうるせーんだよ! それと"翻訳機"を外すんじゃねー!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

処理中です...