61 / 476
第6章 少年少女の思いの先
第61話 聖女様との会談
しおりを挟む
「ガルペラ侯爵、ゼロラ様。遠路はるばる、よくぞおいで下さいました」
部屋に入るとソファーに座っていた聖女ミリア様が立ち上がり、こちらを出迎えてくれた。
……何かがおかしい。
ミリア様はラルフルと会ったときは豊かな表情みせて、それ以外の時は張り付いたような笑顔をしていたが、今のミリア様はそのどちらでもない。恐ろしいまでに無表情。それはまるで感情を押し殺すような冷たい顔。
「事前に書類で事情は伺っております。私に協力を申し出たいとのことで……」
「そのつもりだったのですが、別の件でお話を伺いたいのです」
「別の件?」
ミリア様は不思議そうな顔をするが、ガルペラは言葉を続ける。
「単刀直入に聞くのです。ミリア様はラルフル君と何があったのですか?」
「何が、とは?」
「ラルフル君はミリア様に『会いたくない』と言われてすごく落ち込んでたのです」
それこそこの世の終わりってぐらいに。
「そうですか」
「あのなぁ……。幼馴染のラルフルが落ち込んでたのに『そうですか』で終わらせられる話じゃねえだろ?」
ミリア様の態度にしびれを切らして口を挟む。
ミリア様は表情にこそ出さないが、体を震わせて何か気持ちを抑えている。やはり彼女もラルフルと縁を切ろうとしたのは本意ではないようだ。
「このように格式のある場で話すことではありません」
「……この場でなければ話してくれるんだな?」
この場でスタアラ魔法聖堂の"聖女"としては話せなくても、"ミリアという個人"としてなら話してくれるかもしれない。
ならまどろっこしいことは無しだ。ちょいと強引だが、まずは"この場"から離れるとしよう。
「ゼ、ゼロラさん? 何をする気です?」
「ガルペラ。お前、この聖堂内を衛兵の助けを借りながら一人の不審者から逃げることはできるか?」
「え? 言ってる意味は分からないですけど、衛兵さん達の助けがあるならできると思うですが……?」
ガルペラの言葉を確認した俺は次に部屋の外にいた衛兵に声をかけた。
「あれ? もうお帰りですか?」
「いや。それよりも俺はこれから"ミリア様と二人で聖女としてではなく個人的な話をするためにミリア様を借りる"ことにする」
「そ、それってミリア様を誘拐するということですか? でもなんでそのことをわざわざ……?」
「お前ら衛兵もミリア様の立場は知ってるのか?」
「立場……。まさかミリア様の心情を聞くために? 確かに聖堂内ではミリア様は本心を打ち明けてはくれませんし……」
話が早くて助かる。
「ですがミリア様が大人しくあなた様と二人で話してくれるでしょうか?」
「だから強引に行かせてもらう。これからひと騒動起こすが、ミリア様のためを思うなら大目に見てくれ」
「それってどういう……?」
衛兵が尋ね返す前に俺は大声で叫んだ。期待通りに動いてくれよ……!
「あー! ガルペラ侯爵様が会談を終えて部屋の外に出てきたぞー! 今ならガルペラ侯爵は一人だー!」
「えぇ!? ゼロラさん!? 急に何を言ってるで――」
「それは本当かい!? そんなのボクに『襲ってくれ』と言ってるようなものじゃないか!」
俺の大声に驚くガルペラ。そして期待通り現れたリョウ神官。
よし、今の内だ!
「ミリア様! 話の続きは人のいないところでするぜ!」
「え!? ちょ、ちょっと!?」
俺はミリア様を抱きかかえて聖堂内を走り抜ける。
「ゼロラさん何考えてるですかー!? 後、なんで私はリョウ大神官に追われてるですかー!?」
「そんなの君がかわいいからに決まってるじゃないかー!」
衛兵や神官達は俺を取り押さえようとするが、別方向でガルペラがリョウ神官に追われているのを見てどうしたらいいかと慌てふためく。
「こ、これってどっちを追えばいいんだ!?」
「そりゃ、ミリア様の身が第一だろ!」
「いや! ゼロラ様はミリア様の心情を聞いてくれると言ってたぞ!」
「なるほど! 俺らがいない方が、ミリア様にも都合がいいのか!」
「ゼロラ様の言い方、わざとらしかったもんな」
「だったら俺らがやることは一つだ!」
衛兵と神官達の意見が一致したようだ。
「「待てぇええ! リョウ大神官ー! ガルペラ侯爵に手を出すなぁああ!!」」
「なんでこの状況でこっちを追ってくるのかな!? 普通ミリア様の方を追わないかな!?」
よし! 計算通りだ! リョウ神官なら必ず俺の言葉に反応してガルペラを追ってくれる! 他の衛兵や神官達もリョウ神官を止めることの方が重要と判断してくれている! 普通ならこっちを追ってきそうなものだが、リョウ神官は普通じゃない!
ガルペラについては……その……また後で謝っておこう。
「ゼロラさんのアホー! 後で覚えてろなのですー!」
「君は大人しく止まってボクとイイコトしようじゃないかー! ガルペラ侯爵ー!」
「「止まるのはあんただー! リョウ大神官ー!」」
追われるガルペラを背に、俺はミリア様を抱えて人がいない方向へと走っていった。
部屋に入るとソファーに座っていた聖女ミリア様が立ち上がり、こちらを出迎えてくれた。
……何かがおかしい。
ミリア様はラルフルと会ったときは豊かな表情みせて、それ以外の時は張り付いたような笑顔をしていたが、今のミリア様はそのどちらでもない。恐ろしいまでに無表情。それはまるで感情を押し殺すような冷たい顔。
「事前に書類で事情は伺っております。私に協力を申し出たいとのことで……」
「そのつもりだったのですが、別の件でお話を伺いたいのです」
「別の件?」
ミリア様は不思議そうな顔をするが、ガルペラは言葉を続ける。
「単刀直入に聞くのです。ミリア様はラルフル君と何があったのですか?」
「何が、とは?」
「ラルフル君はミリア様に『会いたくない』と言われてすごく落ち込んでたのです」
それこそこの世の終わりってぐらいに。
「そうですか」
「あのなぁ……。幼馴染のラルフルが落ち込んでたのに『そうですか』で終わらせられる話じゃねえだろ?」
ミリア様の態度にしびれを切らして口を挟む。
ミリア様は表情にこそ出さないが、体を震わせて何か気持ちを抑えている。やはり彼女もラルフルと縁を切ろうとしたのは本意ではないようだ。
「このように格式のある場で話すことではありません」
「……この場でなければ話してくれるんだな?」
この場でスタアラ魔法聖堂の"聖女"としては話せなくても、"ミリアという個人"としてなら話してくれるかもしれない。
ならまどろっこしいことは無しだ。ちょいと強引だが、まずは"この場"から離れるとしよう。
「ゼ、ゼロラさん? 何をする気です?」
「ガルペラ。お前、この聖堂内を衛兵の助けを借りながら一人の不審者から逃げることはできるか?」
「え? 言ってる意味は分からないですけど、衛兵さん達の助けがあるならできると思うですが……?」
ガルペラの言葉を確認した俺は次に部屋の外にいた衛兵に声をかけた。
「あれ? もうお帰りですか?」
「いや。それよりも俺はこれから"ミリア様と二人で聖女としてではなく個人的な話をするためにミリア様を借りる"ことにする」
「そ、それってミリア様を誘拐するということですか? でもなんでそのことをわざわざ……?」
「お前ら衛兵もミリア様の立場は知ってるのか?」
「立場……。まさかミリア様の心情を聞くために? 確かに聖堂内ではミリア様は本心を打ち明けてはくれませんし……」
話が早くて助かる。
「ですがミリア様が大人しくあなた様と二人で話してくれるでしょうか?」
「だから強引に行かせてもらう。これからひと騒動起こすが、ミリア様のためを思うなら大目に見てくれ」
「それってどういう……?」
衛兵が尋ね返す前に俺は大声で叫んだ。期待通りに動いてくれよ……!
「あー! ガルペラ侯爵様が会談を終えて部屋の外に出てきたぞー! 今ならガルペラ侯爵は一人だー!」
「えぇ!? ゼロラさん!? 急に何を言ってるで――」
「それは本当かい!? そんなのボクに『襲ってくれ』と言ってるようなものじゃないか!」
俺の大声に驚くガルペラ。そして期待通り現れたリョウ神官。
よし、今の内だ!
「ミリア様! 話の続きは人のいないところでするぜ!」
「え!? ちょ、ちょっと!?」
俺はミリア様を抱きかかえて聖堂内を走り抜ける。
「ゼロラさん何考えてるですかー!? 後、なんで私はリョウ大神官に追われてるですかー!?」
「そんなの君がかわいいからに決まってるじゃないかー!」
衛兵や神官達は俺を取り押さえようとするが、別方向でガルペラがリョウ神官に追われているのを見てどうしたらいいかと慌てふためく。
「こ、これってどっちを追えばいいんだ!?」
「そりゃ、ミリア様の身が第一だろ!」
「いや! ゼロラ様はミリア様の心情を聞いてくれると言ってたぞ!」
「なるほど! 俺らがいない方が、ミリア様にも都合がいいのか!」
「ゼロラ様の言い方、わざとらしかったもんな」
「だったら俺らがやることは一つだ!」
衛兵と神官達の意見が一致したようだ。
「「待てぇええ! リョウ大神官ー! ガルペラ侯爵に手を出すなぁああ!!」」
「なんでこの状況でこっちを追ってくるのかな!? 普通ミリア様の方を追わないかな!?」
よし! 計算通りだ! リョウ神官なら必ず俺の言葉に反応してガルペラを追ってくれる! 他の衛兵や神官達もリョウ神官を止めることの方が重要と判断してくれている! 普通ならこっちを追ってきそうなものだが、リョウ神官は普通じゃない!
ガルペラについては……その……また後で謝っておこう。
「ゼロラさんのアホー! 後で覚えてろなのですー!」
「君は大人しく止まってボクとイイコトしようじゃないかー! ガルペラ侯爵ー!」
「「止まるのはあんただー! リョウ大神官ー!」」
追われるガルペラを背に、俺はミリア様を抱えて人がいない方向へと走っていった。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚
里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」
なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。
アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
生まれ変わったら極道の娘になっていた
白湯子
恋愛
職業専業主婦の私は、車に轢かれそうになってた子どもを守ろうとして死んでしまった。しかし、目を開けたら私は極道の娘になっていた!強面のおじさん達にビクビクしながら過ごしていたら今度は天使(義理の弟)が舞い降りた。やっふぅー!と喜んだつかの間、嫌われた。何故だ!構い倒したからだ!!そして、何だかんだで結婚に焦る今日この頃……………。
昔、なろう様で投稿したものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる