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第5章 交わり始める思惑
第55話 聖女への接触
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窓から陽が沈んだ景色を見ながらアタシは思う。
『"聖女のオーブ"が何者かによって盗まれた。だが、盗まれたオーブのおかげでラルフルは一命をとりとめた』
その報告を聞いてからアタシの心情は複雑だ。
これまで国と民の安寧を願ってアタシが願いを込め続けてきたオーブが盗まれたことはショックだ。だが、そのおかげで命の危機に瀕していたラルフルが助かったことは素直にうれしい。
ラルフルが助かったことに比べれば、"聖女のオーブ"が盗まれたことなどどうでもよいとさえ思える。聖女という立場から考えればあまりに自己中心的な考えであることは百も承知だ。それでもアタシはラルフルを失うことが何よりも怖かった。
「いや~、絵になるよね。聖女様が物思いに窓から外を見る姿は。ボクちょっと画家を呼んできていいかな?」
「いいわけないでしょ」
アタシの私室に遠慮なく入り込んで不遜な態度をとるリョウ大神官。なんでコイツがいるのよ……。
「ミリア様が"聖女のオーブ"が盗まれた件でさぞ落ち込んでいるだろうと思い、馳せ参じました」
「来なくていいから。アンタの魂胆バレバレだから」
どうせアタシとラルフルの関係について尋ねに来たのだろう。リョウ大神官は魔力はすごいが素行に問題がありすぎる。
自身が『かわいい、愛でたい』と思った相手には節操なくアタックを仕掛ける。
誰だ。リョウ大神官をこんな風に育てたのは。
「……これ以上ボク個人の目的で話しかけても、ミリア様は反応しなさそうだね。なら、真面目に大神官らしいことをするとしましょうか」
普段からそうしなさい。
「ミリア様。本当に"聖女のオーブ"は探さなくてもよろしかったのかな?」
リョウ大神官がアタシに確認をとる。
ラルフルの件を抜きにしても国宝である"聖女のオーブ"が盗まれたことは大問題だ。だが、王宮の厳重な警備をかいくぐって気付かれることなく盗みが働ける相手となれば相当な手練れだ。"聖女のオーブ"が悪用されない限り、下手にこちらから手出しをしない方がいいと思った。
それに……また"聖女のオーブ"がラルフルを救ってくれるかもしれないとも願った。
「盗んだ犯人に接触しても、返り討ちにされる可能性が高いわ。無暗に追わない方が賢明よ」
「クフフフ。聖女様の判断は懸命だね。ボクもそう思うよ」
リョウ大神官はアタシの意見を尊重し、一礼した。
「それよりさっさとアタシの私室から出ていきなさいよ。後、ラルフルに手出ししたら許さないから」
「ミリア様は殺生なお人だな~。ボクから楽しみを奪おうだなんて」
ラルフルの貞操を奪おうとした人間が何を言うか。
「まあ、ボクもちょっと思いついた魔道具があるからその開発のためにお暇させてもらうとしますよ」
「……一応聞いておくわ。何を思いついたの?」
「異国の技術を参考に、"目の前の光景を記録していつでも見れるようにする"魔道具」
シュン
それだけ言い残してリョウ大神官はテレポートしてしまった。
……明日開発を止めに行こうかしら。いや、でもそれが完成すればアタシもラルフルとの……人々との思い出を残したりできるかしら?
「何やらお取込み中だったかな? 聖女ミリア様」
突如部屋の片隅から声がした。そこから現れたのは赤いローブを深くかぶって顔を隠した男だった。
さっきまでは確かにいなかった。コイツ、リョウ大神官がいなくなってアタシが一人になるのを狙って……?
「あなたは何者ですか?」
アタシはいつもの聖女モードで接しながら相手の様子を伺いつつ、衛兵を呼ぶためのベルを鳴らそうとしたが……
ボオォ
「キャア!?」
「人を呼ぶのは遠慮願いたいな。君とは邪魔が入らぬように話をしたいのだ」
ベルが崩れるように焼け落ちた。ありえない! アタシと相手の間にはかなりの距離がある! 魔法を使った? でも物体を焼け落とす魔法なんて……!
「警戒しないでくれたまえ。小生は"紅の賢者"と名乗る者だ。この度は突然の訪問ですまなかったが、どうしても君に返しておきたいものがあってね」
"紅の賢者"? それって一体……。
「"聖女のオーブ"。やはりこれは君が持っているのがふさわしい」
そう言いながら取り出したものを私の手元に投げ渡した。
"聖女のオーブ"だ。
それならばこの男が"聖女のオーブ"を盗み、ラルフルを救った……!?
「なかなか面白い代物だったが、小生の趣味にはあわないようでね」
「待って! アンタがこれを盗んだの!? だったら、何でラルフルを助けてくれたの!?」
アタシは聖女としてのふるまいも忘れて"紅の賢者"と名乗る男を問い詰めた。
「それを盗んだのは単なる"気紛れ"。君が言うその少年を助けたのも単なる"気紛れ"。だが運命とは面白いものだ。そんな小生の"気紛れ"がこの国の歴史を変えかねないのだからな……!」
単なる気紛れ!? それでこの国の運命が変わる!?
この男は本当に……本当に何を企んでいるの!?
「理解せずともよい。小生が諸君に願うのは、この"運命という歯車"をどのように動かすかだけだ」
ボゥン!
それだけ言い残して"紅の賢者"は煙と共に姿を消してしまった。
何が何だか分からない。でも、"聖女のオーブ"は無事に戻ってきた。
オーブを見ながら思い浮かぶのはラルフルの顔。
「今度アイツにあったら、ちゃんと話をしよう」
"聖女のオーブ"のこと。"紅の賢者"のこと。アタシはそう思いながら聖堂の人間に説明に向かった。
アタシがラルフルに会えなくなる日が近づいてるとは知らずに。
『"聖女のオーブ"が何者かによって盗まれた。だが、盗まれたオーブのおかげでラルフルは一命をとりとめた』
その報告を聞いてからアタシの心情は複雑だ。
これまで国と民の安寧を願ってアタシが願いを込め続けてきたオーブが盗まれたことはショックだ。だが、そのおかげで命の危機に瀕していたラルフルが助かったことは素直にうれしい。
ラルフルが助かったことに比べれば、"聖女のオーブ"が盗まれたことなどどうでもよいとさえ思える。聖女という立場から考えればあまりに自己中心的な考えであることは百も承知だ。それでもアタシはラルフルを失うことが何よりも怖かった。
「いや~、絵になるよね。聖女様が物思いに窓から外を見る姿は。ボクちょっと画家を呼んできていいかな?」
「いいわけないでしょ」
アタシの私室に遠慮なく入り込んで不遜な態度をとるリョウ大神官。なんでコイツがいるのよ……。
「ミリア様が"聖女のオーブ"が盗まれた件でさぞ落ち込んでいるだろうと思い、馳せ参じました」
「来なくていいから。アンタの魂胆バレバレだから」
どうせアタシとラルフルの関係について尋ねに来たのだろう。リョウ大神官は魔力はすごいが素行に問題がありすぎる。
自身が『かわいい、愛でたい』と思った相手には節操なくアタックを仕掛ける。
誰だ。リョウ大神官をこんな風に育てたのは。
「……これ以上ボク個人の目的で話しかけても、ミリア様は反応しなさそうだね。なら、真面目に大神官らしいことをするとしましょうか」
普段からそうしなさい。
「ミリア様。本当に"聖女のオーブ"は探さなくてもよろしかったのかな?」
リョウ大神官がアタシに確認をとる。
ラルフルの件を抜きにしても国宝である"聖女のオーブ"が盗まれたことは大問題だ。だが、王宮の厳重な警備をかいくぐって気付かれることなく盗みが働ける相手となれば相当な手練れだ。"聖女のオーブ"が悪用されない限り、下手にこちらから手出しをしない方がいいと思った。
それに……また"聖女のオーブ"がラルフルを救ってくれるかもしれないとも願った。
「盗んだ犯人に接触しても、返り討ちにされる可能性が高いわ。無暗に追わない方が賢明よ」
「クフフフ。聖女様の判断は懸命だね。ボクもそう思うよ」
リョウ大神官はアタシの意見を尊重し、一礼した。
「それよりさっさとアタシの私室から出ていきなさいよ。後、ラルフルに手出ししたら許さないから」
「ミリア様は殺生なお人だな~。ボクから楽しみを奪おうだなんて」
ラルフルの貞操を奪おうとした人間が何を言うか。
「まあ、ボクもちょっと思いついた魔道具があるからその開発のためにお暇させてもらうとしますよ」
「……一応聞いておくわ。何を思いついたの?」
「異国の技術を参考に、"目の前の光景を記録していつでも見れるようにする"魔道具」
シュン
それだけ言い残してリョウ大神官はテレポートしてしまった。
……明日開発を止めに行こうかしら。いや、でもそれが完成すればアタシもラルフルとの……人々との思い出を残したりできるかしら?
「何やらお取込み中だったかな? 聖女ミリア様」
突如部屋の片隅から声がした。そこから現れたのは赤いローブを深くかぶって顔を隠した男だった。
さっきまでは確かにいなかった。コイツ、リョウ大神官がいなくなってアタシが一人になるのを狙って……?
「あなたは何者ですか?」
アタシはいつもの聖女モードで接しながら相手の様子を伺いつつ、衛兵を呼ぶためのベルを鳴らそうとしたが……
ボオォ
「キャア!?」
「人を呼ぶのは遠慮願いたいな。君とは邪魔が入らぬように話をしたいのだ」
ベルが崩れるように焼け落ちた。ありえない! アタシと相手の間にはかなりの距離がある! 魔法を使った? でも物体を焼け落とす魔法なんて……!
「警戒しないでくれたまえ。小生は"紅の賢者"と名乗る者だ。この度は突然の訪問ですまなかったが、どうしても君に返しておきたいものがあってね」
"紅の賢者"? それって一体……。
「"聖女のオーブ"。やはりこれは君が持っているのがふさわしい」
そう言いながら取り出したものを私の手元に投げ渡した。
"聖女のオーブ"だ。
それならばこの男が"聖女のオーブ"を盗み、ラルフルを救った……!?
「なかなか面白い代物だったが、小生の趣味にはあわないようでね」
「待って! アンタがこれを盗んだの!? だったら、何でラルフルを助けてくれたの!?」
アタシは聖女としてのふるまいも忘れて"紅の賢者"と名乗る男を問い詰めた。
「それを盗んだのは単なる"気紛れ"。君が言うその少年を助けたのも単なる"気紛れ"。だが運命とは面白いものだ。そんな小生の"気紛れ"がこの国の歴史を変えかねないのだからな……!」
単なる気紛れ!? それでこの国の運命が変わる!?
この男は本当に……本当に何を企んでいるの!?
「理解せずともよい。小生が諸君に願うのは、この"運命という歯車"をどのように動かすかだけだ」
ボゥン!
それだけ言い残して"紅の賢者"は煙と共に姿を消してしまった。
何が何だか分からない。でも、"聖女のオーブ"は無事に戻ってきた。
オーブを見ながら思い浮かぶのはラルフルの顔。
「今度アイツにあったら、ちゃんと話をしよう」
"聖女のオーブ"のこと。"紅の賢者"のこと。アタシはそう思いながら聖堂の人間に説明に向かった。
アタシがラルフルに会えなくなる日が近づいてるとは知らずに。
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