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第5章 交わり始める思惑

第50話 王宮の朝

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「ラルフルちゃん? 昨日包帯ぐるぐる巻きでひどいケガだったけど、もう動いて大丈夫なのかい?」

 自分が朝の洗濯をしていると、王宮のメイド長が心配して話しかけてくれました。

「大丈夫です! しっかり治療はしてもらったので平気です!」
「あらあら、ラルフルちゃんは本当に頑張り屋さんだね~。頑張ってるご褒美に飴ちゃんあげるね」

 メイド長が自分に飴玉をくれました。
 うん。甘くておいしいです。

「でも無理はしちゃダメよ? 辛くなったらすぐ休みなさい」

 メイド長はいい人です。誰にでも分け隔てなく接してくれる近所のおばさんのような人です。いつもおいしい飴玉もくれます。

「話を聞いてきてみれば、休んどけって言ったのに本当に働いてやがる……」

 そう言って洗濯場にやってきたのはジフウさんでした。

「お前、死にかけてたんだぞ? 今日一日ぐらい体を休めないと治りが遅くなるぞ?」
「でももう問題なく動けますよ」

 そう言って自分はジフウさんにシャドウボクシングをして見せました。

「"聖女のオーブ"とジフウさん達の治療のおかげでもうすっかり元気です!」
「いや、お前の回復力がおかしい」

 ジフウさんが呆れ顔で返します。そんなに自分の回復力はおかしいのでしょうか?

「あらあら。ジフウ隊長がここに来るなんて珍しい。よかったら飴ちゃん食べるかい?」
「いらねえよ! ここのメイド長は近所のおばちゃんか!?」

 ジフウさんは飴玉が嫌いなのでしょうか? おいしいのに……。
 
「はぁ~、まあいい。ついでにお前にいくつか報告しておくぜ」
 
 ジフウさんの顔つきが真面目なものに変わりました。
 
「ジャコウが研究してた闇魔法の件だが、陛下に中止を進言して動いてはくれるみたいだが……やはり厳しそうだな」
「ジャコウ様の後ろ盾である貴族のせいですか?」
「ああ。今の膨れ上がった貴族の権力の束は、陛下でさえまともに手出しできねえ。これじゃ誰がこの国を治めてるのかわかりゃしねえ」
 
 ジフウさんはすごく不満げです。
 
「そして"聖女のオーブ"の件だ。調べたところやはり盗まれてたみたいだ。責任をジャコウ達、魔法部門に追求してみたが、『王宮での盗みなら、黒蛇部隊の責任だろ』とか言って、こっちに投げ返してきやがった」
 「そ、それは災難ですね……」
「"聖女のオーブ"の管理は魔法部門の管轄だろうが……。さっきから胃が痛くて仕方ねえ」
 
 ジフウさんはお腹を抑えて苦い顔をしながらながら答えました。度重なる問題からのストレスで本当に胃にきてるみたいです。
 
「あらあら。よく分からないけど【龍殺しの狂龍】と呼ばれるジフウ隊長ともあろう人がここまで滅入ってるとはね。よかったら胃薬いるかい?」
「それは有難くもらっておくよ……」
 
 メイド長からビン一杯の胃薬をジフウさんは受け取りました。
 
「ともかく王宮内の問題は俺ができうる限り何とかするつもりだ。お前もゼロラも昨日の話を聞いてる限り、何かこの国に対してアクションを仕掛けるつもりでいるんだろ? だったら問題の件も含めて俺にはあまり関わらないことだな。国に異議を申し立てるつもりなら、"一応"俺達は敵同士ってことになるからな」
 
 それはつまり、ジフウさんはあくまで"王国側"につくということですね。
 
「そういえば気になってたことがあります。どうしてジフウさんはこんな面倒な思いをしてまで、陛下直轄の部隊長をしているのですか?」
「……お前、結構遠慮のない奴だな」
 
 そ、そんなに失礼なことを聞いたでしょうか?
 
「ゼロラの奴は遠慮して聞いてこなかったのにな。まあいい。話せる範囲で話してやる」
 
 ゼロラさんは遠慮してたのですか。そんな思いを自分は無碍にしてしまいましたが、ジフウさんは言葉を選んで話してくれました。
 
「昨日も言ったが、俺が陛下に仕えているのは恩を返すためだ。俺や俺の家族は陛下のおかげで職や居場所を与えてもらったんだ。その陛下の元を去ることは、俺にとって陛下だけでなく、家族をも裏切ることにもなる」
 
 ああ、そうか。ジフウさんは【龍殺しの狂龍】などと呼ばれてはいますが、その心の本質は誰よりも義理堅く、誰よりも崇高な人なのですね。
 
「ジフウさんのような人が陛下の傍にいてくれるなら、陛下も本望でしょう」
「お世辞はいらねえよ」
 
 ジフウさんは振り返ると洗濯場を出るために歩き始めました。
 
「お前らが陛下に害をなさない以上は見逃してやる。だが、陛下の身に危険が及ぶと判断した場合は……ぶっ潰してやるよ。俺と黒蛇部隊の力でな」
 
 最後に自分を"立場上の理由で"威嚇して立ち去っていきました。
 
 ……メイド長にもらった胃薬をボリボリ噛み砕きながら。
 
「こら! ジフウ隊長! 胃薬はそうやって服用するもんじゃないよ!」
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