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第3章 汚れ仕事からの脱却

第32話 誤解が解けて

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「誠に申し訳ないのです! 最初からあなたの話をちゃんと聞いておけばよかったのです!」
「私としたことがとんだ早とちりをして襲ってしまいすみません! なんとお詫びをすればよいか……」

 事情を話した俺に対してガルペラ侯爵とローゼスは必死に謝罪してきた。
 ……俺を椅子に座らせて、額を床にこすりつけながら。

「分かったから土下座はやめろ! あんたらが信じれないのも無理はなかった話だしな」
「いえ、こちらの不手際でゼロラさんにはケガまでさせてしまったのですから」

 顔を上げたガルペラ侯爵達は申し訳なさそうに話を続けた。
 確かにケガはしたがこのぐらいならかすり傷だ。特に問題はない。

「もう謝罪はいいからこっちの話を続けさせてくれ。……後、床の上で正座もやめろ」

 ここまで謝られるとこっちも辛くなってくる。俺はガルペラ侯爵達に椅子に座るように頼んだ。

「では、ゼロラさんの話を詳しくお聞きするのです。あ、そうです」

 ガルペラ侯爵は手をパンパンと叩いてメイドを呼び寄せた。

「ゼロラさんのためにお茶とお菓子を用意するのです。とびっきり高級な物を用意するのです」
「え、ええ……。かしこまりましたが、この光景はどういう……?」

 ガルペラ侯爵に呼ばれたメイドは困惑しながら訪ねた。

「椅子の上で正座するのもやめろ!」



「ふむふむ。ゼロラさんもこれまで汚れ仕事を請け負ってきたのは本意ではなかったのですか。ドーマン男爵と縁を切るのを機会に足を洗いたいのですね」
「そういうことだ。それも今後、俺やギルドマスターのイトーさんに被害が及ばないようにな」

 俺はこれまでの詳しいいきさつをガルペラ侯爵に説明した。

「なんといいますか……ゼロラ様は私達が思っていたよりも誠実な方のようですね」

 ローゼスは事前に俺のことを調べていたんだったな。

「確かに俺の経歴を調べたら真っ当な人間とは思えないだろうが、どんな人間だと思ってたんだ?」
「素手で向かってきた複数の相手を一瞬で返り討ちにする武術の達人」
「確かにそうだな」
「裏で貴族の悪事に加担している」
「それも間違ってないな」
「普段は色々なところで気に入った女性をナンパしている」
「それは別の奴だ!」

 なんでリョウ神官の噂まで俺の行いみたいになっちまってるんだ!? あいつとの付き合いを改めようかな……。

「なんにせよ、人間性というものは本人に直接会わないと測れないものなのです。反省なのです。それで相談事の件なのですが……」

 ガルペラ侯爵が真面目な顔をしながら話し始めた。

「ドーマン男爵と縁を切ることは私の権限でできると思うのです。ゼロラさんに依頼していた他の貴族も身分は男爵程度しかないのです。それなら爵位が上の私が王国に直接進言すればもう関与できなくなるのです」
「貴族の権力をさらに上の権力で押さえつけるってのはあんたには面白くない話かもしれないが、頼めるか?」
「権力は使い方次第で毒にも薬にもなるのです。権力を持った者は責任も背負わないといけないのです」

 ガルペラ侯爵はこれまで俺が関わってきた貴族達とはやはり違う。こんな少女で大丈夫かとも思ったが、貴族としての在り方をこの若さで十分に理解しているようだ。

「ところでゼロラさん。汚れ仕事を辞めた後の仕事は考えているのですか?」

 ガルペラ侯爵に尋ねられたところで俺は今後の生活のことを考えていないことに気付いた。

「そういや考えてなかったな」
「よろしければ私の元で働いてみないですか?」

 それは有難い話だ。こいつなら俺を無碍には扱わないだろうしな。

「ただ働くか決めるのは私の理想を知ってからにしてほしいのです。私には理想に向けたある計画があるのです。まずはそれを知ってほしいのです」
「理想?」
「ゼロラさんはこのセンビレッジの街をどう捉えているですか?」

 センビレッジについてか……。あまり来る機会はなかったが、ガルペラ侯爵の政策によって人々の生活が活気づいてきたという噂は少し見ただけでも理解できた。

「いい街だな。人々の生活と発展が第一に考えられている」
「そう言っていただけると嬉しいのです。では、王都の"壁周り"についてはご存じですか?」

 王都の"壁周り"……。以前少しだけ聞いたチャン老師の住んでる場所だったな。何か訳ありみたいだが……。

「話を聞いたことはあるが、あいにく王都にすら行ったことがないんでね」
「では一度見に行ってほしいのです。そこから先の話はその後にするのです」
「分かった。それなら今日はこれで帰らせてもらうぜ、ガルペラ侯爵」
「私のことは呼び捨てでいいのです。私よりすごく年上なゼロラさんに言われるとムズムズするのです」

 侯爵という身分を持ちながら、謙虚さも忘れないんだな。

「分かった。今度は正門から普通に入ってくるぜ、ガルペラ」
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