記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

文字の大きさ
上 下
28 / 476
第3章 汚れ仕事からの脱却

第28話 侯爵邸突入戦①

しおりを挟む
 ガラララ……

 リョウ神官に言われた通り、俺は下水道を通ってガルペラ侯爵邸の裏庭に出ることができた。
 幸い辺りには誰もいなかった。物陰から正門の方を見てみると護衛の兵士がずらりと並んでいる。兵士達にはかなりの緊張感が走っており、とても正面から頭を下げて入れる様子ではなかった。
 抜け道を使って正解だったな。

「それにしても広い屋敷だってのに、異様に人の気配がないな……」

 人員を門の警備に回しているにしてもこの人気のなさはおかしい……。

 ボォオ!

 俺が疑問を抱いていると上空から突如火球が飛んできた。慌てながらもなんとか避ける。

「ちぃ!?」
「地下からこのガルペラ様のお屋敷に潜入するとは、中々に考えたものね」

 火球が放たれたと思われる屋敷のベランダを見ると、一人の女がこちらを見下ろしていた。

「……下手に言い訳しても無駄みたいだな」
「ええ。あなたのことは存じております。ドーマン男爵より我らが主、ガルペラ侯爵の殺害を命じられた、通称【零の修羅】。仮の名をゼロラ。見張りからあなたの姿が途絶えたと聞いて、こちらに戦力を割いて正解だったわ」

 女が語り始めるとこれまで隠れていたらしい屋敷の従者達が姿を見せて俺を取り囲んできた。
 依頼も俺のことも調べ済みって訳か。それに万が一屋敷に潜入された時の戦力配置。ガルペラ侯爵はやはりドーマン男爵よりもあらゆる面で上手だな。

「なあ、姉ちゃん。見たところあんたは結構な地位にあるみてえだが……」
「私はローゼス。侯爵、ガルペラ様の側近よ」
「なら話が早い。俺は別にガルペラ侯爵を襲いに来たわけじゃねえ。ただ、話を聞いてもらいてえだけなんだ」
「殺しの密命を受けた人間の話を簡単に信じるとでも?」

 そりゃあ信じないだろうな。俺を囲む従者たちがすぐにでも俺を襲えるように身構える。

「あなたの噂を聞く限り、このままただで返すわけにもいかないわ」
「だったら牢屋越しにでも話を聞いては……」
「聞けないわね」

 完全に聞く耳持たずか。仕方ないか。主を殺そうとしてる相手の話など聞くわけにもいくまい。
 ……できれば穏便に済ませたかったが、強硬手段に出るか。

「俺の話を聞いてもらえねえなら、ちょいと痛い目を見てもらうことになるぜ?」
「この状況でよくそんなことが言えるわね? 痛い目を見るのはあなたの方でしょう?」
「……警告はしたからな」

 従者たちが一斉に襲い掛かってきた。

 ドカァ! バキィ!

 数は十人ほど。一人一人の実力もそこそこあるが、俺一人で対処できないレベルではない。武器や魔法を使ってくる者もいたが、これぐらいの実力なら、この間戦ったサイバラのほうが手ごわかったぜ。

「くぅ……!? 想像以上に強いわね……」
「今やめてくれればこれ以上の危害は加えない。俺は本当にガルペラ侯爵に頼みがあってきただけなんだ」

 ベランダから様子をうかがっていたローゼスは俺をにらみつけながら少し考える。

「……全部隊に伝令するわ! 侵入者ゼロラを無力化しなさい! なんとしてもガルペラ様をお守りするのよ!」
「あくまで主の身が優先か。大した忠誠心だぜ」

 ここまで来たらもう力づくで行くしかねえな。頼みごとがある立場なのに失礼極まりないのは承知だが……。

「向かってくる以上、こっちも抵抗させてもらうぜ」

 俺は侯爵邸の中へと入っていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...