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第2章 動く運命の前兆
第21話 紅の賢者
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俺が店を後にすると、後ろからラルフルが追ってきた。
「ゼロラさん! さっきのゼロラさん、かっこよかったです!」
「あー。ただの屁理屈なんだがな」
「でも、大丈夫なんですか? このままじゃドーマン男爵が許さないと思いますが……」
「その時はその時だ。俺だって好きで従ってるわけじゃねえ」
おそらくドーマン男爵は俺に対して何かしらの報復は仕掛けてくるだろう。だが、これはいい機会かもしれない。貴族からの汚れ仕事の依頼をどうにか断れるように俺もイトーさんと相談しながら考えていくのも一つの手だろう。
「ありがとうな、ラルフル。お前のおかげで俺も生き方を考え直せそうだ」
「ふぇ? 自分、何かしましたか?」
「ハハッ。気にするな」
俺はラルフルの頭を軽くなでた。こいつの諦めないまっすぐな生き方を見て、俺も少しばかりまっすぐに生きようと考えられるようになった。無論、本人にその気はないだろうが。
「それじゃあ俺は帰るぜ。お前も遅くならないうちに帰るんだな」
「は、はい! よろしければまた稽古をお願いします!」
俺とラルフルはその日はその場で分かれた。
■
俺は歩いて宿場村まで帰っていた。すっかり日が暮れたこの時間は馬車の本数が少ないのもあるが、もう一つ気になっていたことがある。俺はそれを確かめるために一人で見晴らしのいい平原で足を止める。
「……おい。さっきから俺の後をつけてるやつがいるだろ? 姿を見せやがれ」
俺は店を出た後からずっと人の気配を感じていた。隠れるように俺とラルフルの様子をうかがっていたようだが、どうやら狙いは俺だったらしい。相手は一人。この隠れる場所もない平原ならば不意打ちもできまい。
「ハッハッハッ……。慧眼慧眼。卿は誠に思慮深い……」
少し離れた草陰から赤いローブを深くかぶって顔を隠した男が現れた。
「ドーマン男爵の手下……ってわけじゃなさそうだな。何者だ?」
もしこの男がドーマン男爵の手下ならば俺を雇ったりせずにこの男をサイバラ達にぶつけていただろう。気配、気迫、身のこなし方。それらを見ただけでこの男が只者ではないことは分かった。
「小生のことかね? そうだな……"紅の賢者"、とでも名乗っておこうか」
「"紅の賢者"とは大層な肩書だな。なんで俺の後をつけていやがった?」
"紅の賢者"と名乗る男の顔は見えないが、笑うような声で俺に語り掛けてきた。
「卿はこれまで"奪う側"としてこの二年を生きてきたのだろう? だが今日あのラルフルという少年と出会い、"守る側"で生きていきたいと思った」
「……何が言いたい?」
「気を悪くしないでくれ。小生は卿に可能性を見出したのだよ。ずばり言うと、卿は"従う側"の人間ではない。"従える側"といった表現も正しくはないか。"肩を並べて共に行く"……これが一番近いだろうか」
さっきからこの男は何を言っているのだ? 俺に何かさせたいのか?
「俺に用事があるならはっきり言いやがれ」
「小生から直接の要件はないよ。だが、小生は見てみたいのだよ。卿が"人々を結び"、"新たな時代"を築く、その姿を……なぁ」
"人々を結ぶ"? "新たな時代"? ますます意味が分からない。
だが、この男はまるで『俺のことを昔から知っている』ような口ぶりで話しているような気がした。
「あんた……まさかこの俺の過去を知ってるのか? 俺が何者なのか知ってるのか!?」
「ハッハッハッ……。今はまだ可能性があるだけゆえに小生の口から語りはしない。確証のないことを無暗に口にしては"賢者"とは呼べぬであろう?」
やはりこの男は俺の過去を知っている! たとえそれが可能性の話であっても俺はそれを知りたい!
「教えてくれ! 俺は誰なんだ!? お前は俺のこと知ってるのだろう!?」
「あくまでの可能性の話だよ。それに、今の卿には正しい話であってもまだ語る場面ではない。また別の機会に会おう。それまで卿は今日抱いた気持ちを胸に、向かう先を選ぶといい……!」
ボゥン!
"紅の賢者"がそう言い終わると突如として煙が巻き上がった。煙が晴れた先には"紅の賢者"の姿はどこにもなかった。
「くそ! なんだってんだ!? あいつは俺に何を望んでるっていうんだ!?」
急な出来事に頭が整理できない。だが、あの男は「俺が抱いた気持ちを胸に向かう先を選ぶといい」と言った。
上等だ。元々そうしようと考えていたところだ。俺のような記憶も魔力もない、腕っぷしだけの人間に何ができるかなんて分からねえが、それで行けるところまで行ってやるさ!
「ゼロラさん! さっきのゼロラさん、かっこよかったです!」
「あー。ただの屁理屈なんだがな」
「でも、大丈夫なんですか? このままじゃドーマン男爵が許さないと思いますが……」
「その時はその時だ。俺だって好きで従ってるわけじゃねえ」
おそらくドーマン男爵は俺に対して何かしらの報復は仕掛けてくるだろう。だが、これはいい機会かもしれない。貴族からの汚れ仕事の依頼をどうにか断れるように俺もイトーさんと相談しながら考えていくのも一つの手だろう。
「ありがとうな、ラルフル。お前のおかげで俺も生き方を考え直せそうだ」
「ふぇ? 自分、何かしましたか?」
「ハハッ。気にするな」
俺はラルフルの頭を軽くなでた。こいつの諦めないまっすぐな生き方を見て、俺も少しばかりまっすぐに生きようと考えられるようになった。無論、本人にその気はないだろうが。
「それじゃあ俺は帰るぜ。お前も遅くならないうちに帰るんだな」
「は、はい! よろしければまた稽古をお願いします!」
俺とラルフルはその日はその場で分かれた。
■
俺は歩いて宿場村まで帰っていた。すっかり日が暮れたこの時間は馬車の本数が少ないのもあるが、もう一つ気になっていたことがある。俺はそれを確かめるために一人で見晴らしのいい平原で足を止める。
「……おい。さっきから俺の後をつけてるやつがいるだろ? 姿を見せやがれ」
俺は店を出た後からずっと人の気配を感じていた。隠れるように俺とラルフルの様子をうかがっていたようだが、どうやら狙いは俺だったらしい。相手は一人。この隠れる場所もない平原ならば不意打ちもできまい。
「ハッハッハッ……。慧眼慧眼。卿は誠に思慮深い……」
少し離れた草陰から赤いローブを深くかぶって顔を隠した男が現れた。
「ドーマン男爵の手下……ってわけじゃなさそうだな。何者だ?」
もしこの男がドーマン男爵の手下ならば俺を雇ったりせずにこの男をサイバラ達にぶつけていただろう。気配、気迫、身のこなし方。それらを見ただけでこの男が只者ではないことは分かった。
「小生のことかね? そうだな……"紅の賢者"、とでも名乗っておこうか」
「"紅の賢者"とは大層な肩書だな。なんで俺の後をつけていやがった?」
"紅の賢者"と名乗る男の顔は見えないが、笑うような声で俺に語り掛けてきた。
「卿はこれまで"奪う側"としてこの二年を生きてきたのだろう? だが今日あのラルフルという少年と出会い、"守る側"で生きていきたいと思った」
「……何が言いたい?」
「気を悪くしないでくれ。小生は卿に可能性を見出したのだよ。ずばり言うと、卿は"従う側"の人間ではない。"従える側"といった表現も正しくはないか。"肩を並べて共に行く"……これが一番近いだろうか」
さっきからこの男は何を言っているのだ? 俺に何かさせたいのか?
「俺に用事があるならはっきり言いやがれ」
「小生から直接の要件はないよ。だが、小生は見てみたいのだよ。卿が"人々を結び"、"新たな時代"を築く、その姿を……なぁ」
"人々を結ぶ"? "新たな時代"? ますます意味が分からない。
だが、この男はまるで『俺のことを昔から知っている』ような口ぶりで話しているような気がした。
「あんた……まさかこの俺の過去を知ってるのか? 俺が何者なのか知ってるのか!?」
「ハッハッハッ……。今はまだ可能性があるだけゆえに小生の口から語りはしない。確証のないことを無暗に口にしては"賢者"とは呼べぬであろう?」
やはりこの男は俺の過去を知っている! たとえそれが可能性の話であっても俺はそれを知りたい!
「教えてくれ! 俺は誰なんだ!? お前は俺のこと知ってるのだろう!?」
「あくまでの可能性の話だよ。それに、今の卿には正しい話であってもまだ語る場面ではない。また別の機会に会おう。それまで卿は今日抱いた気持ちを胸に、向かう先を選ぶといい……!」
ボゥン!
"紅の賢者"がそう言い終わると突如として煙が巻き上がった。煙が晴れた先には"紅の賢者"の姿はどこにもなかった。
「くそ! なんだってんだ!? あいつは俺に何を望んでるっていうんだ!?」
急な出来事に頭が整理できない。だが、あの男は「俺が抱いた気持ちを胸に向かう先を選ぶといい」と言った。
上等だ。元々そうしようと考えていたところだ。俺のような記憶も魔力もない、腕っぷしだけの人間に何ができるかなんて分からねえが、それで行けるところまで行ってやるさ!
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