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第2章 林間学校&葵 編
林間学校の準備
しおりを挟む班を組み終わり、実行委員会はすぐに終了した。
皆はかなり落ち込んているようで……トボトボと重い足を無理やり動かしながら、空き教室から出て行った。
空き教室に取り残された俺。更に同じ班の葵と夜依の2人。時間もまだあるし、少し雑談して行こうかな。そう思った俺は早速、話し掛ける。
「──ねぇ、2人とも今週の土曜日って暇かな?」
「私は空いてますよ!!」
俺の問の意味をすぐに理解した2人。葵はすぐに話に食らい付いて来たけど……夜依は、
「別に教える義務は無いですよね?それに私は忙しいんです。あなたと休日を過ごす時間なんて存在しません。」
そう、キッパリと断られてしまう。
まぁ、まだまだ夜依との関係は微弱。休日に会うのは少しハードルが高すぎたようだった。
「はぁ……林間学校の準備を一緒にしたかったんだけどなぁ。」
「そ、そうなんですか!?私はもちろん行きますよ。むしろ、行かせてください!!」
……と言う葵とは対称に夜依は行きたくない様子だ。態度でそれが分かった。まぁ、葵の言葉の後にダメ押しで「尚更、行きません!」と、言葉を付け加えられてしまったけども。
「あ、そうだ。言っておくけど、林間学校の準備って言うのは林間学校実行委員会の“仕事”でだよ。さっき、実行委員長から仕事を預かったんだよ。」
個人の買い物はあくまでついでで、“仕事”という言葉を強調した俺。今日は夜依と初めてまともに喋った日だ。そういうブーストもあり、今の俺は貪欲にそして、執拗に夜依を迫る事が出来た。
「…………それは、本当なんですか?」
夜依も仕事なら参加せざるを得ない。渋々、夜依は聞いてきた。流石、優等生で模範生な夜依だ。真面目である。
俺はすかさず、実行委員長から貰ったメモを2人に見せる。せっかく舞い込んで来たチャンスなんだ。絶対に逃すつもりは無い。
俺は気合を入れて説明をする。
今回、実行委員長に任された仕事とは、実行委員会と生徒会でそれぞれ使う用具の調達である。
・虫除けスプレー(数本)
・懐中電灯(予備用のを数本)
・懐中電灯の電池(なるべく多めに)
・トランシーバーの電池(全員分)
・熊よけの笛(全員分)
そうメモには殴り書きされている。
熊よけの笛、虫除けスプレーは森の中では必需品だし、懐中電灯も林間学校では重宝するので必須だ。
そして、トランシーバーを使うのは少しだけ驚いた。そういう物は高校生なんかには持たせてくれないと思ったのだ。だが流石天下の月ノ光高校生だ。
これで分担して仕事を受け持つ実行委員会と生徒会の連携が上手く行くはずだろう。
「ど、どうかな?結構な量もあるし、2人じゃ大変だと思うけど……?」
その内の1人は、そもそも売っている場所を知らない無知野郎だし、もう1人はちょっと非力で頼りがないし……
「…………っ。」
俺と葵は夜依を見つめる。夜依の力が必要であると。
「…………はぁ、分かりました、行きます。行けばいいんですね。」
よし!少し大変だったけど、夜依が折れてくれたようだ。それから葵と夜依と連絡先を交換し、俺達は解散した。
☆☆☆
「──ふぅ、いい天気だな。」
俺は青空を眺めながら、格好をつける。
今日は快晴の土曜日、絶好の買い物日和である。私服姿の俺は家を出て学校に向かった。
駅前集合にしても良かったんだけど、俺が駅まで辿り着けない可能性もあったので、無難な学校の校門前を待ち合わせ場所に指定した。
俺は雫が居ないと遅刻する可能性があるので、集合時間から大分早く家を出た。
「ふぅ……到着。」
俺は集合時間よりも30分程早く校門前に到着し、後から来る2人を待っている予定だった。だが、
「──あら?随分と早いんですね。てっきりいつも通り時間ギリギリで来るかと思いましたけど……」
そんな皮肉を言いながら、彼女は話し掛けて来た。
「あ!や、夜依っ!?」
なんと、俺よりも早くに夜依が待っていたのだ。
だが、そんな事はハッキリ言ってどうでもいい。
そんな事より……
俺は夜依の姿を見て、すぐに言葉を失ってしまったのだ。
「っ……?何ですか。まじまじ見ないで下さい。」
無意識のうちに夜依の事を見詰めてしまっていたらしい。夜依に注意されるまで俺は気が付かなかった。
「っっ、ごめんごめん。俺、夜依の私服姿は初めて見たからさ。」
「そう……ですか。」
「すっごく綺麗だよ!ビックリしたよ。」
「お世辞は別にいいですよ。」
「いや、お世辞なんかじゃないよ。」
夜依は紺色のワンピースを着ていて、一瞬地味と思えてしまう服装でも上手く着こなしていて、クールな夜依にはピッタリな服装だった。制服でもすごく美人なのに、私服で1段階レベルが上がっている。
「──はわわっ、も、もう2人いる!!わ、私も、早く来たと思ったんですけど……」
どうやら葵も来たようだ。葵も俺達同様、早く来たのだろうけど俺達の方が早く来ていたので驚いたらしい。
葵も制服だとあまり目立たない女の子、という感じだったけど……やはり私服姿だと心機一転し、すごく明るいイメージに変わっている。葵も相当気合いが入っているようだ。
黄緑色のブラウスに、ピンク色のスカートでいつもの葵とは見違えるほどに明るく、そして可愛いかった。
「ど、どうですか?優馬君……ちょっと今日は自分が持っている服の中で1番明るめの服を着て来たんですよ!!」
葵は、ゆったりと回転して俺に服を見せると、ボソボソと聞いてきた。
俺はグッジョブを連打しながら、
「すーっう、ごく可愛いよ。正直びっくりした。」
「本当ですか!!頑張って…………良かった。」
葵はほっと一安心したようで、最後の方はよく聞き取れなかったけれど、嬉しそうなので良かった。
「あ、もちろん優馬君もすごくカッコイイですよ!!」
「ありがとう、葵。」
今日の服は珍しく自分で選んで着てきた服だったので、少し不安だったのだ。だけど、葵に褒められて少し自分に自信を持てた様な気がした。すかさず褒めてくれる葵は本当に立派で、周りから好かれるタイプだな。
「それじゃ、行こっか。」
「──は!?ちょっと待ってくださいよ。」
俺と葵が早速歩き始めようとした時、珍しく焦った様子の夜依からに呼び止められた。
「あ、あなたは、そんな格好で街に行くつもりなんですか?嘘でしょ?」
「え、俺の服装、おかしかった!?」
も、もしや、葵の褒め言葉はお世辞だったって言うのか?夜依に注意され、冷や汗がドバドバ出る俺。
「いいえ、別にあなたの服装がおかしい……くは、あるのですが……悪く言っている訳では無いんです。ただ……あなたは“男”なんですよ?そんな男感丸出しの姿で街なんか出歩いたら、街中大パニックになります!」
どうやら、夜依は俺が変装なしで歩く事をおかしいと言ったようだった。
ふぅ……良かった良かった。
「あー、大丈夫だと思うよ。
でも……まぁ、確かに雫とデートをした時もずっと人が集まってたっけな。」
確か、かなり邪魔されたような気がする。
「少しは変装をして欲しいです。せめて顔を隠すとか、目立たない服を着るとか……やれる対策は沢山あるはずです。」
そう言って夜依は自分のバッグからマスクを取り出し、俺にくれた。
「これで……他にサングラスでも身に付けられれば、素顔を晒して歩くより大分マシになるでしょう。よく見たら男だとバレると思いますけど、多少は誤魔化せると思います。」
「あ、ありがとう夜依。」
「別に。あなたの為じゃないです。せっかくの買い物をあなたのせいで台無しにはしたく無いので。」
俺の感謝に少しだけ夜依は照れているようだった。
でも……夜依のその言動的に、案外今日の買い物を楽しみにしてくれていたのかもな。
そんな夜依が楽しみにしているかもしれない買い物を俺一人のせいで台無しに……なんて絶対にしたくはない。なので今日の俺は一日中、極力目立たないようにしようと決めた。
「…………よし、気を取り直して行くとしますか。」
「はい!!」
「ええ。」
マスク姿になった俺。その隣に葵、夜依が並んだ。俺達は横一列になって歩き出すのであった。
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