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第2章 林間学校&葵 編
約束
しおりを挟むお馴染みの音と共に、俺が呼んだ救急車は到着した。俺はすぐに葵の怪我の状況を救急隊員の人に説明し、応急処置をした場所、方法など、俺が話せる事は全て話した。
救急隊員の人は、初めは男の俺に信じられないくらい驚いていたけれど、葵の怪我の状況を聞き、途中からは真剣に葵の処置について話し合っていた。
「では、葵の事をよろしくお願いします。
……じゃあ、またね葵。元気になったらまた会いに来てよ。」
「っ、はい!!本当に本当に……感謝し切れないほどです。ありがとうございました!!」
「お大事にね。」
俺も同行しようとは思ったけど「流石に幸せすぎます!!」と葵に断られてしまった。
葵は救急隊員の人に連れられ、救急車に乗る。
そろそろ、お別れである。
「──あ、そうだ。」
ふと、思った事だけど、葵には言っておかなければならない言葉があった。
俺は扉を閉めようとしていた救急隊員の人に「少しだけ、待ってください。言い忘れてた事がありました!」と伝え、俺は救急車に急いで乗り込む。
そして、葵の目の前に行く。
「ど、どうしたんですか?」
葵は少し驚き、首を傾げた。
「ちょっと、言いたいことがあってね。いいかな?」
「っはい!!全然大丈夫ですよ。」
葵の了承を確認した後、俺は少し間を開けながら話し始める。
「葵には俺と約束して欲しいことがあるんだ。」
「約束……ですか?」
「あぁ、俺との…………大切な約束だ。」
言葉の重みをしっかりと乗せつつ、俺は葵に話す。
葵は俺の真剣な表情を察し、真面目に聞く体勢を整える。
「──もっと自分を大切にして欲しい。葵は決して不幸体質なんかじゃない。ちゃんとした女の子だよ。
……だからね、もしも怖い時や恐ろしい事があったら、我慢せずにすぐに俺に助けを呼んでくれ。俺はどんな所にいようとも、それらすべてを差し置いて葵の事を助けに行くから。
だから約束して……どんな些細な事でもいい、気になった事がもしあったら俺に声を掛ける、って。」
俺は有無を言わさずに小指を差し出す。
指切りげんまんの合図だ。
拒否権なんて無い!
葵は俺の言葉に……潤んだ目のみで答えた。
「………………っ、はぁっ。」
言葉は……涙で掻き消されるのだ。
でも、葵の言いたい事はきちんと俺に伝わってくる。
「ちゃんと約束したからな。きちんと約束は守ってよ。」
……葵は高速で頭を縦に振る。
「それじゃあ、また。お大事にね、葵。」
そう言い、満足した俺は救急車から降りた。
救急車の荷台が閉まり、救急車が出発した。俺と雫は最後までそれを見送ったのであった。
☆☆☆
「ふぅ……なんだか、すごく疲れたなぁ。」
俺は何度か深呼吸し、凝り固まった筋肉達をゆっくりと解す。無理に解しを強めると、つってしまうかもしれないので慎重にする。
今日は多くの出来事があったが、その全てが恐らく終わりほっと一安心と……心の中で思うと、緊張が解れ、俺の中に溜まっていた疲れがどっと押し寄せてきたのだ。
「はぁ、もう。車で帰ろうかなぁ。かすみさんを呼んで……」
「……なに、甘ったれてるのよ。ここから家が近いくせに。いいから、行くよ。」
「えー、まぁ。俺も言ってみただけだよ。ちゃんと歩くから待ってよ、雫。」
俺の愚痴を軽くあしらい、雫は前を歩く。それを追いかける俺。そんな俺達は学校を下校するのであった。
外はもう完全に真っ暗闇。
車通り、人通りも少なく、電灯も少ない。それは高級住宅街だからであろう。
そんな中、俺と雫は今日の事について話しながらゆったりと歩く。疲れている俺の歩幅に雫が合わせてくれているのだ。
「…………っ。」
や、やばい……な。
雫は楽しそう、そんな中俺は冷や汗がタラりと垂らしていた。
俺の目の前には大きな関門があったのだ。それは50メートルほどある“暗闇”の道である。
……俺にはどうしても克服出来なくて悩んでいる事がある。それは“暗いところが昔からどうしても苦手”という所だ。子供くさいと思われるかもしれないが、本当の事なのでしょうがないのである。
うっ……だって、ほら……今にも電柱の影から狂気に狂った殺人者が出てきそう……なんて暗闇を見ると無意識に想像してしまって恐ろしいのだ。足がすくんでしまうのだ。
だからか、俺はいつもより明らかに雫に密着していた。
俺と雫の顔がいきなり近くなり、俺は照れるほどの余裕は無かったが、雫は違った。
「……どうしたの、優馬?」
少し照れ、そわそわしながら雫は聞いてくる。
「ちょ、ちょっとね。」
雫に事情を話して何とか対抗策を見つけたい。だけど、男としてそれは恥ずかしく思えた。情けなく思えた。だから勇気を持って言葉にするのが出来なかった。
「……しっかり言って。」
だが、雫は足を止め、近くで見つめられる……
「う、うん。ふぅ、分かったよ。話すよ。」
カッコ悪い事だけど……しょうがない。いつかは話さないといけない事でもあった訳だし、雫なら……いいか。
俺は雫の事を心から信頼している。
……だから、話した。
「実はね……」
正直に雫に話した。
“暗闇が苦手”だと。
だから無意識に雫にくっついてしまったと。
男なのに………カッコ悪いし、情けない。
だけど、羞恥よりも恐怖の方がが勝ってしまったので、俺にはどうすることも出来ないのだ。
「……へぇ。優馬にも怖いものがあったのね。」
雫は何故か嬉しそうに俺の話を聞いていた。
「ど、どうしてかな?」
「……いや、だって優馬って何でもかんでも完璧にこなすじゃない?だから超人なんじゃないかと思ってた。だけど、優馬。あなたはちゃんとした人間なのね。」
「んん……?」
ディスられてるのか、褒められているのかがよく分からなかったけど、まぁいいや。
「まぁ俺も人間だからね。怖いものの1つや2つあるさ。」
「……そうね。また1つ優馬について知れた。ただそれだけで私は嬉しい。」
「…………………………っ!」
なんだよ雫。可愛いぃじゃないか……っ!
そんなこと言われてキュンと来ない男は存在しない。くそっ!暗闇の恐怖さえなければ今頃俺は雫を抱き締めて、イチャイチャする所だったのに。
「……あなたは私の事を守ると前に約束してくれた。だったら私もあなたを守る。婚約者として。」
「その通りだよ。雫……ありがとう。勇気が出たよ。」
恐怖で竦んだ体に力がぐっと入る。こんな所で恐怖なんかに負けてられないと本能が叫んでいる。
「……っ、早く行くわよ。こんな所に長居はしたくないでしょう?」
そう言い、恥ずかしそうにしながら前を向いた雫。
もちろん、俺の手を引っ張ってくれる形でだ。
雫の手はほんのりと暖かく雫をより感じられる。
雫がそばに居てくれる。そう思うだけで、俺を取り巻く恐怖がかなり和らいだ気がする。
途中からは雫を信じ、目をつぶりながら歩いた。
「……着いたよ。」
数分。雫を信じ歩き続けると……雫の声で俺は目を開けた。
視界には明るい我が家が映った。
あぁ、帰って来れたんだな。
嬉しすぎてか、軽い涙すら出てくる。
「本当ぅぅにありがとう!助かったよ、雫。」
俺は雫の手を握り、感謝の言葉を永遠に言う。
制服を涙で汚すのは悪いと思ったので、抱き着くのは遠慮しておいた。
「……そう。なら良かったけど。」
雫も満更ではない表情をしていたのは俺だけの内緒である。
「……今日はお疲れ様、優馬。」
「うん、雫もお疲れ。」
「……じゃあ、また。」
「うん。じゃあね。」
俺は雫の姿が見えなくなるまで手を振り続けるのであった。
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