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第2章 林間学校&葵 編
優馬キレる
しおりを挟む「──何してんの?」
俺はドスの効いた声で言い放つ。
まさか、隣のクラスでこんな事になってるとはな。
俺は鋭く、葵を暴力を奮っていた3人を睨みつける。
「ゆ、ゆ、優馬君っ!!」
葵が泣きながら俺の名前を叫んだ。
「大丈夫か、葵?」
「あ、ありがとうございます。大丈夫……と言いたい所ですがちょっとだけ、厳しいです……でも、嬉しいです。」
3人に警戒しつつ、葵の状態を俺は気に掛ける。
ボロボロに傷付いた葵。今すぐ病院に連れて行ってあげなきゃな。
「もう大丈夫だから、後は俺に任せて休んでいて。」
「はい……っ……ありがとうございます!!」
俺は葵をお姫様抱っこで持ち上げると、すぐに病院へと行こうとする。
「ちょ、ちょっと待って優馬君。これはね、違うの。信じて!」
「そうだよ。うち達は何もしてない。」
「そーそー!」
だが、俺と葵の前に憎ったらしい3人が立ち、邪魔立てする。
「どけよ。」
一言。強く……普段の俺とは全く違う声色で言う。
だが、3人はどかない。むしろ、俺と葵に近付いて来ようとする。
何がなんでも状況説明をしたいのだろう。だが、コイツらの話なんて聞く必要すらない。コイツら3人は葵に暴力を奮っていた。ただ、それだけだ。
「待って優馬君。この女なんかに騙されちゃダメだよ。この女はネコ被ってるんだから。」
……はぁ、何言ってんだコイツは?
俺は怒りが限界を迎えそうだった。
大声で怒り散らかしても良かった。だが、今はとにかく葵の怪我の具合を病院で見てもらわなければならない。
歯を食いしばり、怒りを何とか収めると……
一応これだけは言っておく。
「これから……もしお前達が葵に何かしたら俺が許さないからな。よく覚えておけよ!!!」
これは言葉の楔だ。
拘束力はあまり無いかもしれない。だが、言っておかないと気が済まなかったのだ。
俺は2組を後にする。3人は……もう、追っては来なかった。
☆☆☆
「──あの……優馬くん。助けてくれて、本当に本当にありがとうございます。私……すごく怖かったです。」
葵はお姫様抱っこをされたまま俺の胸に顔をうずめ、わんわんと泣きじゃくる。そして感謝の言葉を何度も言い続けていた。
俺は2組から離れた場所まで移動し、近くの空き教室の椅子に葵を座らせた。そして優しく葵の頭を撫でて、葵を落ちつかせた。
「うっ……うぅぅ。」
数分、泣きじゃくっていた葵はようやく落ち着いたようで……目は赤いが泣き止んだようだ。
「もう……大丈夫か?」
「はい。お陰様で……見苦しい姿を見せましたね。」
「問題無いよ。じゃあ今から救急車を呼ぶけど、構わないね?」
「…………はい、お願いします。ありがとうございます。」
葵の了承を貰い、俺は救急車をすぐに呼んだ。
「よし、すぐ来るってさ。じゃあ、すぐに救急車に運んで貰えるように昇降口で待ってよっか。」
「そ、そうですね。でも、すみません。まだちゃんと歩ける気がしなくて……」
葵は片目をつぶり、歯を食いしばる仕草をする。
……痛みを必死に我慢しているようだ。
「分かった。じゃあ、またお姫様抱っこして行くよ。」
「あ、あ、ありがとうございます!!」
「ありがとうございます?あ、うん。任せて。」
なんだが、葵の「ありがとうございます」が別の意味のように聞こえたような……聞こえなかったような。
まぁ、いいか。深く考える意味も無い。
「よし……じゃあ行くよ。しっかり捕まっててね。」
「は、はい。お、お願いします!!」
俺は再び葵をお姫様抱っこすると、空き教室を出た。
さっきは怒りの感情が頭から抜けず、余り気にならなかったけど、今は……葵の呼吸音や心臓音。女の子特有の甘い香り。それに、葵のえげつない胸……
その全ての魅力がダイレクトに俺を攻めてくる。
「っ……」
──精神滅却。心頭滅却。無心だ。無心であれ。
修行僧の様に心の中でそう唱え続け、欲を断った。
そして一歩一歩慎重に、警戒して進んだ。
外は既に暗い。電灯も続々と付き始めていて、先生や人の気配はまるで無い。暗闇に弱い俺は翻弄されそうになりつつも、葵の為に恐怖にと頑張り……遂に昇降口前まで葵を運び切る事が出来た。
「はぁはぁ……疲れた。」
息切れする俺。今日は本当に疲れっぱなしだ。
「す、す、すいません。やっぱり私……重かったですよね。」
「いやいや、重くはなかったさ。むしろ、軽かったぐらいだよ。単純に俺の運動不足さ。」
なーんて、意地を張る俺だが……内心では心底疲れ果てていた。心を無にすることはそれほどまでにしんどいのだ。やはり……葵の胸は破壊力がすごいと言うことだ。
そんな、息を切らす俺。そこに早足で近付く足音がする。もしや、あの3人か!?咄嗟に葵を守る形で陣取った俺は……その足音がする方向を睨む。
固唾を飲む俺達。そして遂にその足音の正体が明らかとなった。
「……優馬!一体何分待たせるのよ。心配したじゃない!」
正体。それは雫だった。
雫は俺の事をずっと昇降口付近で待っていたようで……中々来ない俺に大変ご立腹のようだった。
「……早く来てって私、言った……よ、ね……?」
雫は俺の目の前に来るまで、葵の存在には気が付かなかったようだ。葵の存在に気づいた雫は思考が固まっていた。状況判断が上手く出来なかったのだろう。
「……これってどういう状況なの?説明して。」
少しだけ暗い声で雫は言った。葵の目に見えて分かる怪我の状態を見て、少しだけ焦りの感情も含まれている様な気もした。
「わかったから。今説明するから。」
俺はこれまでの経緯を事細かに雫に説明した。途中で葵にも説明してもらったりもしたが、救急車が来るまで雫の事情聴取は続いたのであった。
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