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第2章 林間学校&葵 編

いつも通りの日常

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昨日は返信疲れで熟睡していたようだ。
まだ、眠いし体が重いけど今日から学校にまた行けると思えるだけで嬉しいのでヘッチャラだ。

俺は朝ごはんを食べ、家を出る。
今日の天気が快晴で気持がいい。体を伸ばし、朝の新鮮な空気を味わう。

少しストレッチをしながら、門を潜ると……

「……おはよう、優馬。」
「お、おはよう……雫。」

いつも通りの場所に雫はいた。
いつもと変わらずスマホを見て待っていた雫は俺の事を見るとなんだか嬉しそうに笑う。

それを見て俺は顔を赤くする。瞬間的に……可愛いと思ってしまったからだ。

「……どうしたの?」
「いや、何でもないよ。」

そう誤魔化すが、すぐにバレるだろう。
……雫と目を合わせると顔が熱くなる。可愛いと思ってしまうし、病室でしたあのキスの事を思い出してしまう。

「し、雫は……もう大丈夫なの?」

なので話の話題を言って、これ以上顔を赤面させないようにした。

「……ええ、体は大丈夫。」
「それは良かった。」

一安心だ。

「……でもね、まだ少し1人で外に出るのは怖い。
だから守って欲しい……かな。」

雫は俺の制服を少し摘み、モジモジしながら言ってきた。あぁ……可愛いっ。頭の中が完全に“可愛い”で支配される。

瞬間的に抱きしめたい気持ちを抑えながら、話を続ける、俺。

「もちろん。俺も元からそのつもりだったよ。もう雫には絶対に怖い思いはさせないと約束するよ。」

それだけは自信を持って約束できる。
俺は雫を死んでも守る覚悟がある。男ならば当たり前だ!でも、この世界だと……俺が逆に守られてしまう事の方が多いかもしれないけど、できる限り頑張るつもりだ。

「……ありがと優馬。これから……ずっとよろしくね。」
「うん。ずっと、ずっと、ずうーっとよろしくな。」

そこで、俺の我慢のタガが外れたのだろう。
少しの間、ぎゅっと雫を抱きしめてしまった。

──数分後。

2人の顔は既に真っ赤っか。目を合わせて喋れないほどだった。でも、話は続ける。

「……それで……優馬。私達が付き合ってる事なんだけど、まだ皆には内緒にして置かない?まだ実感が無いし……それに、は、恥ずかしいから。」
「う、うん。わかってる。俺も雫と同じだよ。だからこれから少しずつ実感が湧くようにしていこうよ。いっぱいいっぱいイチャイチャしてさ。」

徐々に徐々に実感が湧くように雫とこれからもっと親睦な関係になれるように頑張っていく。
大丈夫だ……これからまだまだ時間があるんだから。雫と俺の青春は始まったばかりなのだから!

「よし、これからも勉強も委員会も部活も全部全部頑張るぞ!」

俺は拳を掲げて意気込む。

「……そうね。それで、聞きたいんだけど。結局、優馬は何部って部活動用紙に書いたの?私はテニス部だけど………」 

あぁ、やっぱりそうなんだ。雫はすごいプレイヤーだと前に聞いていたのでやっぱりそうなんだ。

「俺はサッカー部のマネージャーをする事にしたよ。」

部活の事は他言無用と奈緒先生に言われていたけど、雫の部活が決まっていたし、部活動用紙の提出はとっくに終わっているはずなので俺は深く考えることも無く雫に教えた。

「……なるほどね、わかった。じゃあ私もサッカー部のマネージャーになる。」
「──えっ!?」

雫はカバンから部活動用紙を取り出し、消しゴムでテニス部と書かれた文字を消した。そして素早い動きで、ボールペンでサッカー部マネージャーと大きく書き込んだ。  

「……よし。」
「な!なんで、雫はテニス部に入ったんじゃないの?」
「……私は別にテニス部に入ったとは言ってない。」

確かに雫は「書いたの?」と言った。「入った」とは一言も言ってない。

「それは……ズルいよ。卑怯だよ。
それに、雫。テニスはいいの?上手いんだろ?」

テニスの才能を使わないのは勿体ない。雫はテニスで輝けるのだから輝いて欲しい。
それに、俺は雫が精一杯全力でプレーする姿を見て応援してみたい。これは俺の願望である。

「……いいの。私はテニスなんかより断然、優馬を選ぶから。」
「で、でも……部活動用紙の提出の期限はとっくに過ぎていて雫がそれを持っているのはおかしくないかな?」
「……はぁ、私はその時、誘拐されてたけど。」

雫はため息をして教えてくれる。

「あぁ、そっか、ごめん。ってそれでもずるいよ。誰にも教えるなって奈緒先生に言われたのに………」
「別にいいでしょ。恋人同士なんだし、私は優馬と一緒に頑張りたいの…………ダメ、かな?」

雫は俺にぐっと近づき、下から目線&可愛い声の合わせ技で訴えて来た。もちろん可愛かった。……ご馳走様です。

雫は自分が今している事に恥ずかしくなったのか、ぷいっと俺から離れ後ろを向いてしまう。

くっ、どうしようか。断りずらいな……というか断ったとしても、もう雫は部活を変えなさそうだし……ボールペンで書かれちゃったしなぁ。

雫と一緒の部活に入ることは正直嬉しいのが本音だから…………まぁいっか!

「分かったよ。同じサッカー部だねよろしくね。」
「……うん、よろしくね。」

雫は嬉しそうに振り返って微笑んだ。
ほんと……ズルい彼女だ。でも、俺だけにしか見せないその笑顔は俺だけが見れる特権で、誰にも渡せない俺の宝物だから……全然許せてしまう。

甘い彼氏だな……俺は。

☆☆☆

学校に無事登校した。数日休んでいただけなので、いつもの学校と変わらない。だけど、いつもより空気が重く、居心地が悪かった。

クラスに元気よく挨拶をして入ると、俺に気付いた女の子達はすぐに駆け寄ってきた。俺は逃げる暇もなく一瞬で囲まれる。雫は予め予想していたのか、すぐに俺の元を離れ、由香子と話をしていた。

「──優馬君何があったの?」
「──連絡がつかない時は本当に本当に心細かったんだよ!」
「──体は大丈夫なの?」
「──メール返信してくれたんだね。ありがとう。」
「──久しぶりに優馬君パワーの充電したいよ。」
「──1日空いたからか興奮が止まらないよ。」
「──私優馬君に何かあったのかと思って心配してたんだよ!」

俺は聖徳太子じゃないんだ。こんな大人数から一斉に話し掛けられたら受け答えすら出来ないよ。

しばらく……皆に捕まって質問の受け答えを1人ずつやっていった俺だけど、チャイムが鳴り朝休みが終わった事でようやく解放された。

朝っぱらから色々と大変で疲労した体を休めていると、前の席の春香がしれーっと俺に聞いてきた。

「優馬君、雫さんと何かあったの?」

な、なんで?
どうしてその質問が思い浮かんだのか、俺は不思議に思う。でも、雫との関係はまだ隠しておくので顔に出ないように必死に耐えながら俺は春香の質問を質問で返す。

「春香は、どうしてそう思ったのかな?」

春香は雫の事を指さして……

「だってね、雫さんの雰囲気が少し変わったなって思って。」
「え……っと。」

確かに雫は変わった。

「それにね、優馬くんと雫さんが同じ日に学校を休むなんてちょっと不可解だったからね♪」

中々鋭い。勘か?

「まぁ、うん。そうかな。」
「え、本当に?」

春香は俺の答えを聞き、テンションが急激に上がり、前のめりになる。こういう話……春香は好きなのかな?

「雫さんとは……一体どこまで進んだの♪教えて優馬くん?」

どこまで進んだって…………キスをして恋人まで。
なんて言えるはずが無い。

「内緒。」
「えー♪♪聞きたい、聞きたい♪♪教えてよ!」

そう春香が頼んで来たが教える事は出来ない。雫との約束だからな。

「ダメ、内緒だよ。でも、いつかわかる時がくるから。」 
「えーそうなの、気になるなぁ♪」

そんな会話で俺は朝休みの時間、春香と盛り上がっていた。

──優馬は気付いていなかったが、優馬と春香の会話はクラスのほとんどの人間が耳を傾けていたとか……
そして雫は顔を真っ赤にして俯き、由香子に冷やかされていたとか……

☆☆☆

廊下を駆ける音がし、そのすぐ後に大声で俺の名前が呼ばれた。

「優馬君ーっ!今すぐ来てください!」

担任の奈緒先生が声を張り上げて教室に入って来たのだ。先生の声は響き、ざわついていた教室を一瞬で静まらせた。そしてキョトンと座っていた俺の腕を掴んで無理やり引っ張る。

「ちょ、どうしたんですか奈緒先生?」

俺が聞いても奈緒先生は必死なのか答えてくれない。

教室を出て生徒指導室まで連れてこられた俺は、席には座らせて貰えず壁際まで追い込まれていた。

「あのー。ど、どうしたんですか?」
 「優馬君、体は大丈夫なんですか?あの時、急に学校から飛び出して行って、その後電話で命の危険があると連絡を貰った時は本当に心配しましたよ!」
「あぁ、それは……迷惑かけてすいません。体の方は問題無いです。」

俺は心を込めて謝った。

「そうでしたか……」

奈緒先生はほっと、ため息を付き肩の力が抜けたようだった。

「これでやっと一安心ですよ。これで全ての問題が解決で、ようやく“安眠”出来ます。」

奈緒先生が安眠などという変なワードを言ったことを俺は聞き逃さなかった。不思議に思い、俺はもう一度ちゃんと奈緒先生を見てみる。

そして……気付いた。

奈緒先生の目元はクマまみれ、目は充血し、髪もボサボサ、服もヨレヨレで、まともに立てないほど満身創痍な状態だということに。

「な!俺の体なんかより、自分の心配してくださいよ!」

気が抜けたせいか、倒れそうになる奈緒先生を俺は両手で受け止める。

「私は担任の先生なんですよ!自分の事なんかよりも、生徒の安全の心配を優先するに決まってるじゃないですか!」

正しく、奈緒先生は先生の鏡みたいな事を言うが……

「まず、寝てくださいよ。体調管理も仕事の内でしょう。すぐに、保健室に連れて行きますからね!」

有無は問わない。強制連行だ。
俺は奈緒先生の手を引っ張り、生徒指導室から出る。

ここからだと保健室は少し距離がある。急ごう。

「ちょっ、私はこれから授業もあるんですよ!」

先生としてのプライドがあるのだろう。そんな満身創痍な状態だというのに授業をしようとしている。本当に鉄人だな。

でもな、

「そんな状態でまともに教壇に立てるわけがないじゃないですか!それに中途半端な授業なんてしたら生徒達に失礼ですよ。今は休むべきなんです。」
「うぐっ………………はぁ、分かりましたよ。では、少しだけ休ませてもらいます。」

すぐに素直になってくれて良かった。

「じゃあ運びますね。」

そう言って俺はお姫様抱っこを奈緒先生にする。
奈緒先生は小さく、体重が軽いため楽々にお姫様抱っこをする事ができた。

足元がふらつく奈緒先生は危険だ。お姫様抱っこをした方が安全に運べる。

「ちょっ、優馬君!?」

初めは恥ずかしさと大人としてのプライドで嫌がっていた奈緒先生も少ししたら疲れが最高潮に達したのか眠ってしまった。

「ふぅ……やっと、寝てくれたか。
……お疲れ様です。俺はあなたが担任の先生で本当に良かったです。」

俺はお姫様抱っこのまま保健室まで運び、保健の先生の菊池先生に後を任せた。

菊池先生からは初めは変な勘違いをされたけど、先生と生徒の禁断の恋は無いと証明するために時間がかかり、1時間目に遅刻して先生に注意される俺であった。
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