4 / 5
最終話 〜シーラside〜
しおりを挟む『お姉ちゃん…寒いよ……お腹空いた…』
雪が降り積もる中でミイラのように痩せた弟を抱き締めながら、助ける術も力もない自分が情けなくて涙が溢れ出た。
小さな体は痣だらけで、放り出される直前に殴られた顔は腫れ上がり、目は潰れている。
『怜史…っ……』
守りたかった。
自分はどんな目に遭おうと構わない。
父親の気を逸らす事が出来るなら。
何よりも大切だったのに。
親を選べなかった私達は、逃げ出す事も助けを求める事も出来ないまま……
『…おね……ちゃ…』
せめて降り積もる雪から守りたくて、覆い被さるようにして抱き締めていた弟が息を引き取り、私が感じたのは安堵感。
もう空腹に苦しむことも、誰かに傷付けられることもない。
『……怜史…大好きだよ……』
ずっと一緒だからね。
*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜
「しーら」
ポテポテと擬音が聞こえそうな雰囲気で駆けてきた男の子が、ぼふっと足元にしがみついた。
そして私を見上げると「んっ」と両手を広げ、抱っこをしろと強請る。
勿論、私に否はない。
「今日もご機嫌ですね、クリストフ殿下」
一気に視線が高くなった事が嬉しいのか、小さな殿下はキャッキャッとはしゃいでいる。
その容姿は父親である王太子殿下に瓜二つで、前世の弟には似ても似つかないのに…何故か懐かしさを感じた。
「クリスは本当にシーラが好きだな」
「妬けちゃうわ」
チビ殿下に遅れてやって来たふたりは相変わらず仲良しで、現在セリナ妃殿下は第二子懐妊中。
相変わらず巷では噂が蔓延り、最近では『実のところクリストフ殿下を産んだのはシーラ』というものまで一部で囁かれているらしい。
私の腹筋、見せたろか?
セリナが『憧れちゃう』と言ってアンディが嫉妬する、6つに割れた腹筋を!!
いつ私のお腹が膨れていたのかと問い質したいけれど、ふたりが『馬鹿馬鹿しい』と言って気にしていない様子なのと、真面な者達は相手にしていないので私も無視している。
「しーら、しゅき」
「私も大好きですよ、クリス様」
首筋にグリグリと顔を押し付ける甘え方が、前世の弟と同じで堪らなく可愛い。
ふっくらとした体は温かくて、大切に育てられている事が伝わってくる。
「殿下に出来るのは弟と妹、どちらでしょうね」
「いもーと」
間髪入れずの答えに、思わず私達は「え?」と声を出して膨らんだお腹に視線を集めた。
「いもーといる」
子供は大人に見えないものを見たり、感じたりすると聞くけれど…
「あら、じゃぁ今度はピンクでお願いね?」
愛らしい顔をコテンと傾げるセリナにおねだりをされ、自然と頷いてしまった。
腕に抱くチビ殿下が着ているのは黄色い子供服。
『黄色を身につける子供は幸せになる』
そんな噂がいつの間にか広がり、生まれた子供に黄色い産着を贈るのが流行りらしい。
今度はピンク色が流行るのだろうか…
「しーら、いっしょ」
嬉しそうにチビ殿下が交互に指差すのは、自分の服に施された刺繍と私の瞳。
同じ紫色。
「本当だ、一緒ですね」
これからもずっと。
あなた達が幸せでいられるように、私がこれからも傍で守り続ける。
95
お気に入りに追加
586
あなたにおすすめの小説

寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる