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最終話 〜シーラside〜
しおりを挟む『お姉ちゃん…寒いよ……お腹空いた…』
雪が降り積もる中でミイラのように痩せた弟を抱き締めながら、助ける術も力もない自分が情けなくて涙が溢れ出た。
小さな体は痣だらけで、放り出される直前に殴られた顔は腫れ上がり、目は潰れている。
『怜史…っ……』
守りたかった。
自分はどんな目に遭おうと構わない。
父親の気を逸らす事が出来るなら。
何よりも大切だったのに。
親を選べなかった私達は、逃げ出す事も助けを求める事も出来ないまま……
『…おね……ちゃ…』
せめて降り積もる雪から守りたくて、覆い被さるようにして抱き締めていた弟が息を引き取り、私が感じたのは安堵感。
もう空腹に苦しむことも、誰かに傷付けられることもない。
『……怜史…大好きだよ……』
ずっと一緒だからね。
*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜
「しーら」
ポテポテと擬音が聞こえそうな雰囲気で駆けてきた男の子が、ぼふっと足元にしがみついた。
そして私を見上げると「んっ」と両手を広げ、抱っこをしろと強請る。
勿論、私に否はない。
「今日もご機嫌ですね、クリストフ殿下」
一気に視線が高くなった事が嬉しいのか、小さな殿下はキャッキャッとはしゃいでいる。
その容姿は父親である王太子殿下に瓜二つで、前世の弟には似ても似つかないのに…何故か懐かしさを感じた。
「クリスは本当にシーラが好きだな」
「妬けちゃうわ」
チビ殿下に遅れてやって来たふたりは相変わらず仲良しで、現在セリナ妃殿下は第二子懐妊中。
相変わらず巷では噂が蔓延り、最近では『実のところクリストフ殿下を産んだのはシーラ』というものまで一部で囁かれているらしい。
私の腹筋、見せたろか?
セリナが『憧れちゃう』と言ってアンディが嫉妬する、6つに割れた腹筋を!!
いつ私のお腹が膨れていたのかと問い質したいけれど、ふたりが『馬鹿馬鹿しい』と言って気にしていない様子なのと、真面な者達は相手にしていないので私も無視している。
「しーら、しゅき」
「私も大好きですよ、クリス様」
首筋にグリグリと顔を押し付ける甘え方が、前世の弟と同じで堪らなく可愛い。
ふっくらとした体は温かくて、大切に育てられている事が伝わってくる。
「殿下に出来るのは弟と妹、どちらでしょうね」
「いもーと」
間髪入れずの答えに、思わず私達は「え?」と声を出して膨らんだお腹に視線を集めた。
「いもーといる」
子供は大人に見えないものを見たり、感じたりすると聞くけれど…
「あら、じゃぁ今度はピンクでお願いね?」
愛らしい顔をコテンと傾げるセリナにおねだりをされ、自然と頷いてしまった。
腕に抱くチビ殿下が着ているのは黄色い子供服。
『黄色を身につける子供は幸せになる』
そんな噂がいつの間にか広がり、生まれた子供に黄色い産着を贈るのが流行りらしい。
今度はピンク色が流行るのだろうか…
「しーら、いっしょ」
嬉しそうにチビ殿下が交互に指差すのは、自分の服に施された刺繍と私の瞳。
同じ紫色。
「本当だ、一緒ですね」
これからもずっと。
あなた達が幸せでいられるように、私がこれからも傍で守り続ける。
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