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最終話
しおりを挟む「お久し振りね、レイチェル」
王太子妃に声を掛けられたレイチェルはカーテシーを披露しようとするが、出産を間近に控えたお腹が大きく叶わない。
「無理をしなくていいのよ。順調なようね」
「妃殿下も」
「えぇ、漸く授かれたわ」
ミレイユと入れ替えでやって来た双子の妹エレノアは、そのまま“ミレイユとして”王太子妃の務めにあたることとなった。
マクシミリアンに一目惚れしたエレノアは積極的に房事を励み、あまりに瓜二つな容姿に初めこそ戸惑っていたマクシミリアンも“違い”に気付くと惹かれていき、目出度く懐妊。
「レイチェルに聞きたいのだけど…」
ふたりきりのお茶会の場。
頬を赤らめるエレノアがおずおずと尋ねたのは妊娠中の房事について。
医師からは負担がないようにすればしてもいいと言われているが、それはどの程度なのかと2人目を身篭るレイチェルに教えを乞うた。
「わたくしは……」
レイチェルもまた頬を赤らめ、セドリックに任せているので詳しいことは分からないと答える。
それでも定期的に肌を合わせていると聞き、エレノアはほぅ…と艶かしい息を漏らした。
「マクシミリアン様は心配だからと触れてくださらないのよ…どうしようかしら」
「……どうしましょう…」
王太子妃の力になりたいが、こればかりはレイチェルにどうにか出来る問題でもない。
落ち込んだ様子で帰宅するとセドリックに理由を聞かれ、王家の問題を軽々しく話せないと口を閉ざすも呆気なく陥落。
事情を聞いたセドリックは間もなく解決するから大丈夫だと笑った。
「どうして断言出来ますの?」
「だって兄上に相談されたから」
身篭る妻との房事について聞かれ、自分の場合に限るけれどと前置きして教えたという。
途端、レイチェルの顔が赤らんだ。
「っ~~~~~」
「大丈夫、僕がどうするかを話しただけ。それに対してレイチェルがどうなるかも聞かれたけど答えてないよ」
そういう問題ではない。
どう反応したかは分からずとも、どんな事をされているのかは知られてしまったのだ。
恥ずかしくて消えてしまいたくなる。
「どうすれば悦ぶか、どこが気持ちいいかを知るのは僕だけ。君の蜜がどんな味か知るのもね。こればっかりは誰にも教えてやらない」
レイチェルは失念していた。
セドリックは生粋の王族であり、房事について周知されることになんら抵抗はない。
裸を使用人に見られることも平気で、婿入りした時は新人メイドが目のやり場に困っていたものだと思い出して遠い目になった。
今は貴族も自分で湯浴みを済ませることが多い時代だが、伝統を守る王家では介添え専門の侍女が体の隅々まで洗うという。
勿論、大切な部分も丁寧に。
「………セドリック様、お務めに行かれていた際の湯浴みはどうされてました?」
当時はミレイユに対する嫉妬で満ちていたから考えもしなかったのに、今さら気付いてしまいメラメラと感情が滾ってくる。
「え?普通にしていたよ?」
王家の普通とはそういうこと。
基本的に彼女達は淡々と仕事をするだけだが中には邪な気持ちを抱えて介添えにあたっている者もおり、時にそのまま湯殿でコトに至る場合もあると聞いたことがあった。
セドリックの方からするとは思えない。
それだけは信じている。
「……何かされたりは……」
何が言いたいのか察したセドリックは、違う違うとレイチェルを抱き締めた。
「普通っていうのはここと一緒ってこと。ひとりで湯浴みしていたよ。誰の介添えも受けてない」
「………本当に?」
「兄上とは時々ね、勿論ふたりきりで」
ホッと安堵の息を漏らしたレイチェルだが、セドリックは嫉妬された事が嬉しくて堪らない。
妊娠中でなければ今すぐ押し倒し、手加減なく抱き潰せるのに残念…と内心で独り言ちた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
その後アンダーソン侯爵家にはレイチェルに瓜二つな娘が誕生し、妻を溺愛するセドリックは当然ながら娘のことも溺愛。
届く釣書を次々に暖炉へ投げ込み、5歳になった娘が自ら婚約者を見つけてくると拗ねて部屋に閉じこもった。
勿論、レイチェルを道連れにして。
最終的には6男1女の子宝に恵まれたアンダーソン侯爵家。
王位を継いだマクシミリアンもミレイユことエレノアとの仲は良好で2男2女が誕生。
フォルクス王国は繁栄を続けていった。
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