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今世編 ※糖度高め、18禁要素濃いめ
誕生日とお引越し
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クレア十五歳の誕生日。
この日はいつもと意味合いが違っていた。
「クレア…やっぱりやめてもいいんだぞ?」
母親と共にきゃっきゃうふふと楽しみながら最後の荷造りをしている所に、どよん…と沈みきった父親が顔を出した。
その様子を見た母娘はキョトンとしたのち、互いに目を合わせて笑い合う。
「お父様、いつでもお城で会えますわ。王宮にお勤めなんですもの」
「そうよ。わたくしなんて、そうそう気軽に会えなくなるのよ?寂しいわ」
「いや、君はいつだって自由に王妃を訪ねてはお茶をしているじゃないか」
「あら、そうだったわね。これからはクレアも一緒にお茶しましょ」
「楽しみですわ、お母様」
「…………やっぱり俺だけ…」
除け者にされたような気分になった父親は、とぼとぼと歩いて立ち去った。
「お誕生日おめでとう、クレア」
「ありがとう」
エドワードの参加は例年通りであるが、今年は親しい間柄の人達も招いての祝宴。
次々とやって来る訪問者を、クレアはエドワードと共に並んで出迎えた。
「おめでとう、クレア。プレゼントはカイルと一緒に選んだの。気に入ってくれると嬉しいわ」
「ありがとう、シェイナ姉様。今日の装いも素敵だわ…これも隣国から?」
「あぁ。少数民族が作っている生地なんだが、滅多に出回らない希少なやつだ」
今まではエドワードがエスコートしていたシェイナだが、その隣には留学を終えて戻ってきた婚約者の姿がある。
節目節目で帰国していたものの、こうしてゆっくり過ごす事はごく稀にしかなかったので、最近ではふたりであちこち出掛けていた。
来月には結婚式も控えており準備は忙しいが、それすらも『ふたりだから楽しい』のだとシェイナが笑っていた事を思い出し、クレアは穏やかな笑みを浮かべる。
「だぁ!!」
突然、クレアの足元に現れた小さな男の子。
「あら、ヴァルト。また抜け出してきたの?」
「女性に突然抱きつくなんてダメだぞ」
「あっぷぅ」
エドワードがひょいっと抱き上げると、目線が高くなった事が嬉しいのか満面の笑みを浮かべ周囲にも愛想を振りまく。
「すっかり大きくなったわね」
「ちょこちょこ歩き回るから大変よ」
「あぶぅ」
一年前、伯爵夫妻の間に男児が生まれた。
それまではクレアの第二子を跡継ぎとして養子に迎える予定だったが、ヴァルトの誕生により後継者は変更となっている。
クレアによく似た男の子なので、エドワードが抱いているとさながらふたりの子供のよう。
「わたくしも早く子供が欲しいわ」
ヴァルトを見ながらシェイナがそう呟けば、カイルは組んでいた腕を解いて腰に手を回し抱き寄せ頬に口付けた。
「待たせてごめん…たくさん作ろう」
「たくさんって…頑張るわ」
頬を染めるシェイナを愛おしそうに見つめるカイルは、自分のせいで年上のシェイナが“行き遅れ”と揶揄されいた事に申し訳なく思っていた。
貴族としては珍しく同父母を親に持つ十人兄弟で育ったカイルは、自身も子供をたくさん作りたいと願っている。
その日、クレアを主役としたパーティーは始まりから終わりまで賑やかなものとなり、沢山の贈り物と祝いの言葉に囲まれた。
そして終盤に差し掛かったところで伯爵から挨拶となり、クレアがエドワードとの婚儀を迎える準備の為に王宮へ居を移す事も公表され、一番の盛り上がりを見せたのであった。
「じゃぁ、また明日」
「気をつけて帰ってね。寄り道しちゃダメよ」
「しないよ。明日は朝一番に迎えに来る」
招待客を家族全員で見送ったあと、最後となったエドワードは玄関で別れを惜しんでいた。
しかし明朝にはまた来る事になっており、クレア父は内心さっさと帰れと毒づいている。
「明日からはずっと一緒だ」
「えぇ、おはようもおやすみも言える」
「楽しみすぎて眠れそうにないけど、寝坊は出来ないから頑張って寝るよ」
クレア父は“起きなければいいのに…”と語弊のある物騒な事を内心で毒づいた。
しかし父親がどんなに寂しがろうと仮病を使おうと娘は出ていく。
クレア父は小さな息子に「お前はずっとここにいてくれ」と言って抱きしめたのであった。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
王太子宮にある王太子妃用の部屋に引越しを終えたクレアは、その日から結婚式に向けた準備と同時進行で執務に取り掛かっている。
せめて結婚式が終わるまでは肩代わりをしたいとエドワードが申し出たが、それだと付け入る隙を与えるからと受け入れない。
「分からない事や困った時には必ず言うわ。だけど出来ることは自分でやりたいの…お願い」
クレアの上目遣い…プラス胸元で手を組む仕草には勝てないエドワード。
チラリと谷間を見てから誤魔化すように抱き寄せて、無理はしないでと背中をさすった。
ふたりは夫婦の部屋を挟んだ両端で生活しているが、バルコニーは全て続いている。
元はそれぞれだったものを、クレアと婚約した時にエドワードが頼み込んでひとつになった。
それはそれは長い距離なのだが、ふたりは中間地点…つまるところ夫婦の部屋に位置する場所で昼間にお茶をしたり、時には星空を眺めて過ごしたりしていた。
よく晴れた日、綺麗に光る三日月を見ながらバルコニーでひとつの毛布にくるまるふたり。
「最近、少し痩せたんじゃない?」
大きなカウチに座りクレアを後ろから抱き締めながら、ただでさえ細い腰がさらに細くなったのではと触って確かめる。
少し離れた位置に使用人はいるが、背中から毛布をかけてふたりごと包んでいるので、中で何をしようと外部からは分からない。
「少しだけね…でも、胸は減らなかったのよ。確認してみる?」
「……確かに」
直接触ることはないが、ドレスではなく部屋着なので感触は充分に伝わってくる。
例のごとくサイズ表で知ってはいるが、折角の申し出だからとばかりに胸に手をやり、やわやわと揉んで確認した。
この頃にはクレアもエドワードとの触れ合いを思い出しており、下腹部に感じる熱に頬を染めつつも初夜へ思いを馳せるようになっていた。
互いに“記憶”として残ってはいるものの、今世で体を繋げた経験はない為、実際にそうなるとどれだけの幸福感を得られるのか分からない。
「あとふた月だね…楽しみだ」
「うん」
向かい合わせに座り直し、クレアはエドワードの熱を…やはり薄い部屋着の布越しに感じながら、エドワードはクレアの柔らかい膨らみを胸元に感じながら、部屋に戻るべき時間が訪れるまで口付けを交わしたり強く抱擁したりを繰り返した。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
「クレア……やっぱりやめないか?」
「もう、お父様ったら」
結婚式を一週間後に控え、クレアの両親と弟も王宮に滞在して招待客を出迎え挨拶をする日々を送っていた。
二歳になった弟はお喋りもするようになり、可愛らしい姿に招待客を和ませている。
「おねしゃま、やめない」
「そうよ、やめないわ。私はエディのお嫁さんになるの。ヴァルト、葡萄は美味しい?」
「おいちぃ」
クレアの隣に座り、床に届かない足をぶらぶらさせながら葡萄を頬張っているヴァルト。
姉がここに住めば、美味しいおやつがたくさん食べられると幼ごころに算段しているのである。
「ドレスは仕上がったの?」
「えぇ、漸く。色々と注文をつけてしまったけれど、理想の形に仕上げてもらえたわ。夕食の時間までには届くから、お母様も見てね」
やはりここでも除け者扱いの父親であるが、当日は諸外国の王侯貴族も参列する挙式で愛娘をエスコートする大役がある。
その為に体を鍛え直していたのだが、まるで新婚時代に戻ったみたいと妻から絶賛され、夫婦の営みが格段に増えたことは嬉しい誤算。
結婚してから十八年、まだ三十代である。
最近では三十代の妊娠も増えてきており、医療体制も質が向上したことから安心して出産に挑めるようになった。
あとひとりくらい…と考えているクレア父であるが、実のところ既に宿っている事をまだ知らないでいる。
娘の結婚式のあと、必ず寂しがって気落ちするだろうからその時に…と妻は考えていた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
結婚式当日は雲ひとつない空が広がった。
歴史ある大聖堂には大勢の人が集い、外には招待されていない貴族や平民に至るまでもが王太子と妃の祝いに駆けつけている。
中に入れた令嬢はふたりと懇意にしている者のみであり、たとえ親が参列していようと招かれていない令嬢は入れない。
かなりの人数が立ち入りを拒否されたが、その内数名は白いドレスを身に纏っており、公爵令嬢カレンに至ってはベールまで付けている始末。
参列している父親に報告が入ると、すぐさま公爵家の使用人達によって自宅まで連れ戻され、後日カレンは海を半年ほどかけて渡る小さな島にある修道院へと預けられた。
「王太子妃になるのはわたくしよ!!」
そう言って船上で暴れていたが、いざ孤島に着くと絶望で言葉を失ってしまう。
全てが自給自足で賄わなければならず、修道院…とは名ばかりの“子捨て島”と呼ばれている場所である事に漸く気付いたのだ。
カレンの父親は、元娘が王太子夫妻に不敬を働いた事を深く謝罪した上で、即座に切り捨てた対応を見せることで立場を示した。
予てより公爵夫妻は娘の発言や行動に強く戒めていたこともあり、素早い対応が評価されて慰謝料のみのお咎めとなった。
幾人かの令嬢がそれぞれ連れ戻される騒動が起きたものの、大聖堂の中では粛々と結婚式が執り行われている。
クレアをエスコートした父親は涙を堪えるのに必死となり、傍から見れば鬼の形相。
「…………頼みますぞ、殿下。何かあれば命をかけて娘を取り返します」
眉間にくっきりと深い皺を刻んでいるのは泣くのを堪えているからなのだが、その姿はまるで威厳ある父親そのものである。
「泣かせません。必ず守ります」
なかなか娘から手を離そうとしない父親から、満面の笑みを浮かべてさりげなく強い力で奪い取ると、すかさず自分の腕に絡めさせた。
渋々と自分の席に戻るしかない。
「幸せにおなり、クレア」
「ありがとう」
そして威厳ある父親が席に着いたところで、神父による宣誓が始められた。
この日はいつもと意味合いが違っていた。
「クレア…やっぱりやめてもいいんだぞ?」
母親と共にきゃっきゃうふふと楽しみながら最後の荷造りをしている所に、どよん…と沈みきった父親が顔を出した。
その様子を見た母娘はキョトンとしたのち、互いに目を合わせて笑い合う。
「お父様、いつでもお城で会えますわ。王宮にお勤めなんですもの」
「そうよ。わたくしなんて、そうそう気軽に会えなくなるのよ?寂しいわ」
「いや、君はいつだって自由に王妃を訪ねてはお茶をしているじゃないか」
「あら、そうだったわね。これからはクレアも一緒にお茶しましょ」
「楽しみですわ、お母様」
「…………やっぱり俺だけ…」
除け者にされたような気分になった父親は、とぼとぼと歩いて立ち去った。
「お誕生日おめでとう、クレア」
「ありがとう」
エドワードの参加は例年通りであるが、今年は親しい間柄の人達も招いての祝宴。
次々とやって来る訪問者を、クレアはエドワードと共に並んで出迎えた。
「おめでとう、クレア。プレゼントはカイルと一緒に選んだの。気に入ってくれると嬉しいわ」
「ありがとう、シェイナ姉様。今日の装いも素敵だわ…これも隣国から?」
「あぁ。少数民族が作っている生地なんだが、滅多に出回らない希少なやつだ」
今まではエドワードがエスコートしていたシェイナだが、その隣には留学を終えて戻ってきた婚約者の姿がある。
節目節目で帰国していたものの、こうしてゆっくり過ごす事はごく稀にしかなかったので、最近ではふたりであちこち出掛けていた。
来月には結婚式も控えており準備は忙しいが、それすらも『ふたりだから楽しい』のだとシェイナが笑っていた事を思い出し、クレアは穏やかな笑みを浮かべる。
「だぁ!!」
突然、クレアの足元に現れた小さな男の子。
「あら、ヴァルト。また抜け出してきたの?」
「女性に突然抱きつくなんてダメだぞ」
「あっぷぅ」
エドワードがひょいっと抱き上げると、目線が高くなった事が嬉しいのか満面の笑みを浮かべ周囲にも愛想を振りまく。
「すっかり大きくなったわね」
「ちょこちょこ歩き回るから大変よ」
「あぶぅ」
一年前、伯爵夫妻の間に男児が生まれた。
それまではクレアの第二子を跡継ぎとして養子に迎える予定だったが、ヴァルトの誕生により後継者は変更となっている。
クレアによく似た男の子なので、エドワードが抱いているとさながらふたりの子供のよう。
「わたくしも早く子供が欲しいわ」
ヴァルトを見ながらシェイナがそう呟けば、カイルは組んでいた腕を解いて腰に手を回し抱き寄せ頬に口付けた。
「待たせてごめん…たくさん作ろう」
「たくさんって…頑張るわ」
頬を染めるシェイナを愛おしそうに見つめるカイルは、自分のせいで年上のシェイナが“行き遅れ”と揶揄されいた事に申し訳なく思っていた。
貴族としては珍しく同父母を親に持つ十人兄弟で育ったカイルは、自身も子供をたくさん作りたいと願っている。
その日、クレアを主役としたパーティーは始まりから終わりまで賑やかなものとなり、沢山の贈り物と祝いの言葉に囲まれた。
そして終盤に差し掛かったところで伯爵から挨拶となり、クレアがエドワードとの婚儀を迎える準備の為に王宮へ居を移す事も公表され、一番の盛り上がりを見せたのであった。
「じゃぁ、また明日」
「気をつけて帰ってね。寄り道しちゃダメよ」
「しないよ。明日は朝一番に迎えに来る」
招待客を家族全員で見送ったあと、最後となったエドワードは玄関で別れを惜しんでいた。
しかし明朝にはまた来る事になっており、クレア父は内心さっさと帰れと毒づいている。
「明日からはずっと一緒だ」
「えぇ、おはようもおやすみも言える」
「楽しみすぎて眠れそうにないけど、寝坊は出来ないから頑張って寝るよ」
クレア父は“起きなければいいのに…”と語弊のある物騒な事を内心で毒づいた。
しかし父親がどんなに寂しがろうと仮病を使おうと娘は出ていく。
クレア父は小さな息子に「お前はずっとここにいてくれ」と言って抱きしめたのであった。
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王太子宮にある王太子妃用の部屋に引越しを終えたクレアは、その日から結婚式に向けた準備と同時進行で執務に取り掛かっている。
せめて結婚式が終わるまでは肩代わりをしたいとエドワードが申し出たが、それだと付け入る隙を与えるからと受け入れない。
「分からない事や困った時には必ず言うわ。だけど出来ることは自分でやりたいの…お願い」
クレアの上目遣い…プラス胸元で手を組む仕草には勝てないエドワード。
チラリと谷間を見てから誤魔化すように抱き寄せて、無理はしないでと背中をさすった。
ふたりは夫婦の部屋を挟んだ両端で生活しているが、バルコニーは全て続いている。
元はそれぞれだったものを、クレアと婚約した時にエドワードが頼み込んでひとつになった。
それはそれは長い距離なのだが、ふたりは中間地点…つまるところ夫婦の部屋に位置する場所で昼間にお茶をしたり、時には星空を眺めて過ごしたりしていた。
よく晴れた日、綺麗に光る三日月を見ながらバルコニーでひとつの毛布にくるまるふたり。
「最近、少し痩せたんじゃない?」
大きなカウチに座りクレアを後ろから抱き締めながら、ただでさえ細い腰がさらに細くなったのではと触って確かめる。
少し離れた位置に使用人はいるが、背中から毛布をかけてふたりごと包んでいるので、中で何をしようと外部からは分からない。
「少しだけね…でも、胸は減らなかったのよ。確認してみる?」
「……確かに」
直接触ることはないが、ドレスではなく部屋着なので感触は充分に伝わってくる。
例のごとくサイズ表で知ってはいるが、折角の申し出だからとばかりに胸に手をやり、やわやわと揉んで確認した。
この頃にはクレアもエドワードとの触れ合いを思い出しており、下腹部に感じる熱に頬を染めつつも初夜へ思いを馳せるようになっていた。
互いに“記憶”として残ってはいるものの、今世で体を繋げた経験はない為、実際にそうなるとどれだけの幸福感を得られるのか分からない。
「あとふた月だね…楽しみだ」
「うん」
向かい合わせに座り直し、クレアはエドワードの熱を…やはり薄い部屋着の布越しに感じながら、エドワードはクレアの柔らかい膨らみを胸元に感じながら、部屋に戻るべき時間が訪れるまで口付けを交わしたり強く抱擁したりを繰り返した。
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「クレア……やっぱりやめないか?」
「もう、お父様ったら」
結婚式を一週間後に控え、クレアの両親と弟も王宮に滞在して招待客を出迎え挨拶をする日々を送っていた。
二歳になった弟はお喋りもするようになり、可愛らしい姿に招待客を和ませている。
「おねしゃま、やめない」
「そうよ、やめないわ。私はエディのお嫁さんになるの。ヴァルト、葡萄は美味しい?」
「おいちぃ」
クレアの隣に座り、床に届かない足をぶらぶらさせながら葡萄を頬張っているヴァルト。
姉がここに住めば、美味しいおやつがたくさん食べられると幼ごころに算段しているのである。
「ドレスは仕上がったの?」
「えぇ、漸く。色々と注文をつけてしまったけれど、理想の形に仕上げてもらえたわ。夕食の時間までには届くから、お母様も見てね」
やはりここでも除け者扱いの父親であるが、当日は諸外国の王侯貴族も参列する挙式で愛娘をエスコートする大役がある。
その為に体を鍛え直していたのだが、まるで新婚時代に戻ったみたいと妻から絶賛され、夫婦の営みが格段に増えたことは嬉しい誤算。
結婚してから十八年、まだ三十代である。
最近では三十代の妊娠も増えてきており、医療体制も質が向上したことから安心して出産に挑めるようになった。
あとひとりくらい…と考えているクレア父であるが、実のところ既に宿っている事をまだ知らないでいる。
娘の結婚式のあと、必ず寂しがって気落ちするだろうからその時に…と妻は考えていた。
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結婚式当日は雲ひとつない空が広がった。
歴史ある大聖堂には大勢の人が集い、外には招待されていない貴族や平民に至るまでもが王太子と妃の祝いに駆けつけている。
中に入れた令嬢はふたりと懇意にしている者のみであり、たとえ親が参列していようと招かれていない令嬢は入れない。
かなりの人数が立ち入りを拒否されたが、その内数名は白いドレスを身に纏っており、公爵令嬢カレンに至ってはベールまで付けている始末。
参列している父親に報告が入ると、すぐさま公爵家の使用人達によって自宅まで連れ戻され、後日カレンは海を半年ほどかけて渡る小さな島にある修道院へと預けられた。
「王太子妃になるのはわたくしよ!!」
そう言って船上で暴れていたが、いざ孤島に着くと絶望で言葉を失ってしまう。
全てが自給自足で賄わなければならず、修道院…とは名ばかりの“子捨て島”と呼ばれている場所である事に漸く気付いたのだ。
カレンの父親は、元娘が王太子夫妻に不敬を働いた事を深く謝罪した上で、即座に切り捨てた対応を見せることで立場を示した。
予てより公爵夫妻は娘の発言や行動に強く戒めていたこともあり、素早い対応が評価されて慰謝料のみのお咎めとなった。
幾人かの令嬢がそれぞれ連れ戻される騒動が起きたものの、大聖堂の中では粛々と結婚式が執り行われている。
クレアをエスコートした父親は涙を堪えるのに必死となり、傍から見れば鬼の形相。
「…………頼みますぞ、殿下。何かあれば命をかけて娘を取り返します」
眉間にくっきりと深い皺を刻んでいるのは泣くのを堪えているからなのだが、その姿はまるで威厳ある父親そのものである。
「泣かせません。必ず守ります」
なかなか娘から手を離そうとしない父親から、満面の笑みを浮かべてさりげなく強い力で奪い取ると、すかさず自分の腕に絡めさせた。
渋々と自分の席に戻るしかない。
「幸せにおなり、クレア」
「ありがとう」
そして威厳ある父親が席に着いたところで、神父による宣誓が始められた。
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✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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