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今世編 ※糖度高め、18禁要素濃いめ

伯爵令嬢vs公爵令嬢

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父親にお説教をされたエドワードであるが、人目を盗んではクレアと深い口付けを楽しみ、けれど決してそれ以上を求める事はしなかった。





しかし時は流れて三年後。

エドワード十八歳、クレア十三歳になると、本格的に煩悩との戦いが始まった。






「……また胸のサイズが変わってる」


クレアが身につける者は全て把握していたいエドワードは、ドレスや夜着、下着に至るまでを自ら手配し定期的に届けており、勿論こと細かいサイズを熟知している。


「ウェストは…むしろ先週に比べて少し細くなってるな。暑くて食欲が減っているせいか…料理長と相談しなくては」

「………………」


ひとりブツブツと呟きながらクレア付き侍女より届けられた“報告書”を読んでいると、王太子宮の執事が生暖かい目でお茶をテーブルへ置いた。

婚約が結ばれてから十三年…つまりクレア誕生の日から一日と欠かさず記入されてきた報告書…という名の五年日記帳(三冊目)には、クレアがその日食べた物や読んだ本など、日常について細かく書かれている。


「先週は確か……やっぱりそうだ。なぁジョナサン、クレアの引越しを早められないか?」

「無理でございますね」


容赦のない返答に眉を寄せて不満を表すが、執事は無視して手際よく書類をまとめ始めた。

生まれた時から傍にいる執事は父親のような気安さがあり、それでいて冷静沈着に意見を述べてくれる頼もしい存在。

テーブルマナー講習の日に宿泊出来るようになったのも、執事が根回しをしたお陰でもある。


「でも…一週間でこんなにサイズ変わるなら、ひと月後にはどうなっちゃうんだよ…もういっそ外出禁止にしたい」

「そうなると登城も出来ませんね」

「…………冷たいぞ、ジョナサン」


揚げ足を取られて不貞腐れたまま、改めて報告書にあるサイズに目を通した。

週の始めに行う全身のサイズ確認が記入されているのだが、その目的は表向き“衣装作成の為”であり、本音は“全てを把握しておきたい”から。

そんな“本音と建前”だが、エドワードの周囲は言われずとも察している。

ちなみに【就寝・睡眠・起床の時間】や【月のもの周期】も当然ながら把握済み。

当初は様々な思いを抱えていた周囲だが、十三年以上も続いている今となっては呆れつつも見守っている…生暖かい目で。


『クレアの事が心配だから全て知っておきたいんだ。いざと言う時、すぐに対応出来るだろ?』

『エディは優しいのね。ありがとう』


こんなやり取りをして熱い口付けをしたほど、対象者のクレアが喜んで受け入れているのも、周囲が何も言わない要因でもあった。






さて、サイズ表の中でエドワードが何より注視しているのが胸囲なのであるが、その数字が表すようにクレアは見た目にも同年代の少女達と比べて明らかに豊かな膨らみをしている。


「ねぇ、エディ…女の子は胸が大きい方がいいと思う?それとも…ほら…手のひらに収まる位がいいと思う?エディはどっちが好き?」


ある日、そんな事を口にしながら徐に自分の胸元に視線を落としたクレア…につられ、エドワードも胸元を見やった。

そこには十三歳の少女にしては綺麗な谷間が存在しており、それが他の女性にあっても食指など微塵も動かないのに、クレアのものとなると途端に下心が全力で顔を出そうとする。


「………僕は、クレアの胸なら小さくても大きくても好きだよ。硬くても柔らかくても好き」

「……たぶん…柔らかい……と思う…」

「へぇ…そうなんだ……楽しみだな」

「…確認してみる?」

「え……じゃぁ、ちょっとだけ…」


その晩、エドワードは指先に残る感触を頼りに徹夜でナニかをして寝不足となった。






「なんだよ…なんなんだよ、あのふわふわ」


その日以降、エドワードは疲れが溜まったりクレアと会えない寂しさげ募ると、無意識に「ふわふわ」と口にしながら人差し指を見つめる…という奇行が、夫婦となる日まで続いたのである。






✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼






エドワードは日々煩悩と戦っているが、クレアもまたある意味戦いの日々を送っていた。


「あら、ご機嫌よう」


王宮で王太子妃教育を受けていたクレアは、休憩をエドワードと過ごす為に専用サロンに向かって歩いていると、ひとりの令嬢と鉢合わせた。


「ご機嫌よう、ビーブル公爵令嬢様」


王宮を歩くには少々露出の高いドレスを着た、クレアより三つ年上の公爵令嬢。

仲良しのシェイナと同じ“公爵令嬢”だが、家格や本人の質は比べ物にならない…当然、シェイナの圧勝。

この露出令嬢カレンは予てよりエドワードの近くを彷徨いており、大臣を担う父親に付いて登城しては執務室の周囲を徘徊している。

勿論、エドワード本人や執務室には護衛が鉄壁の守りを敷いているので接触は不可。

“偶然”を狙って徘徊を続けていた。

そんなカレンがクレアより優位に立てるのが“お茶会の主催”と“夜会への出席”であり、ことある事に絡んでくるのでクレアは苦手意識がある。


「わたくし、今度我が家で開く夜会でエドワード様と踊る予定なんですの」


突然カレンが脈略もなしに話し始めたが、これはいつもの事であり、内容は常にエドワード絡み。


「左様でございますか、ビーブル公爵家での夜会は素敵なものなのでしょうね」

「当たり前よ。まぁ、あなたのような子供や伯爵家風情には分からないでしょうけど。お酒も楽しめるし、エドワード様はお泊まりになるんじゃないかしら」


ちなみにカレンは“エドワード様”と呼ぶ事を許可されていないにも関わらず、まるで得ているかの振る舞いで口にしている。

エドワード本人からも何度か注意を受けたが、それ以降は伯爵位以下の令嬢の前でだけ口にするようになっており、そう簡単に告げ口が出来ないよう警戒している事が窺えた。

現在は“公爵令嬢”と“伯爵令嬢”であり、今の段階ではカレンの方が立場が上。

殆どの子女が“未来の王太子妃”として接してくるのだが、カレンのような人間が一定数存在しているのも確か。

さらにカレンはいずれ王太子妃の立場を自分のものにするつもりなので、クレアに傅き敬うつもりなど微塵もない。


「お子様のあなたには分からないと思うけれど、大人には大人の関係というものがあるのよ」


暗にエドワードと何かしらの関係を持っている…もしくは持つ予定であるといった言い草だが、カレンの願望なだけで確証などない。

夜会へ招待されている事はエドワードから聞いて知っており、主催側の家に独身でかつ婚約者のいない令嬢がいる場合、独身の王族が参加した暁にはダンスパートナーとなる習わしがあるのも承知いている。

予定されている日はシェイナが不在であり、双方の婚約者が申請し許可されている“婚約者代理”がいない状況。

なので、そうなるであろうが…


「まぁ、あなたは精々読書でもしてひとり寂しく夜を過ごせばいいわ」


ふんっと勝ち誇ったように言い放ってカレンはその場を立ち去ったが、クレアに背を向けたところで顔を歪ませた。

何故ならクレアが今から向かおうとしている場所は王太子専用のプライベートサロンであり、今しがた接近を注意されたばかり。

そこへ堂々と足を向けられるクレアが羨ましく、激しい憎悪を感じずにはいられなかった。






✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼






クレアが些か気落ちした面持ちでサロンに到着すると、既にエドワードが椅子に座りうたた寝をしていた。


「……エディ…」


いつもならクレアを迎えに来て共にサロンへ向かうのだが、今日は執務が立て込んでいるから遅れると言われていての別行動だった。

静かに寝息を立てているエドワードに近付くと、少し疲れの見える様子に心配が募り、そっと頬に触れ…伝わる温もりに胸が締め付けられた。


「エドワード……あなたは誰のもの?」


先程のやり取りで心を乱され、渦巻く嫉妬から小さくそう尋ねると…


「僕はクレアのものだよ」


頬に触れていた手を握られそう返された。


「起きていたの?」

「寝ていたけど、クレアの気配で目が覚めてた」

「……エディ…ぎゅってして…」

「いいよ、おいで」


飛び切り優しい笑顔で両手を広げられ、その中へ躊躇なく飛び込み抱きついた。

クレアの背を撫でながら専属の次女に視線をやると、申し訳なさそうな顔をしており何があったのかは察するに容易い。

いつもは気丈なクレアが落ち込むのは、総じてエドワードに絡んでくる女性達が原因。

その殆どが“自分こそが王太子妃”だと勘違いしていたり、“側妃にならなれる”と思い違いをしている者ばかり。


「クレア、今後は迎えに行くまで部屋から出ないで待っていて欲しいな」

「……それだと負けた気がするんだもん…」


意外に負けん気が強い。


「クレアがいいならそれでもいいけど…こうして慰める役目も貰えるし」

「そうでしょ?しっかり慰めて」

「よしよし、頑張ってくれてありがとう」

「エディは誰にも渡さない」

「渡さないで。返品は不可でお願いします」

「永久保証付きよ」

「僕も永久に保証する」


今後、たとえ夫婦になろうと心配することや不安になることは尽きないと分かっている。

それでも傍にいる為の努力は怠らないし、付け入る隙など与えるつもりは無い。

情勢次第で側妃問題が出てくるとしても、解決の為に代案を突きつけ納得させるだけの実力をつけようとふたりは考えていた。


「クレアは僕のものだ」

「エディは私のものよ」


互いに誰かへ譲る気はない。






そして件の公爵家主催で開かれた夜会だが、その日はあいにくな事に隣国から王太子を尋ねて使者が急訪しており、代理で独身(妻は病死)の大叔父が参加したのであった。

ちなみにその晩、幼馴染み四人が久し振りの再会に食卓を囲んで大層賑やかな時間をすごしていたことをカレンは知らない。





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