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season2
元王女プリシラ
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「王位継承権を持つ元王女として、わたくし今でも影を動かす権利をもっておりましてね。夫人の標的とされた殿方に不利とならぬよう、それとなく素行や動向の調査をさせておりました」
ニコニコと、心なしか楽しそうに話すプリシラ様は、一瞬僕達の方に…柔らかな視線を向けて、だがすぐに鋭いものへと変え伯爵へと戻した。
「何人かは楽しんで関係を持ってらっしゃる方もおりましたが…そのような方はさっくりと証拠を取って早々に調査を切り上げさせました。非道徳的な事に溺れてどうなろうとわたくしの知るところではありませんし…けれどそのせいでその者の配偶者が心を痛めたり苦しんでいるのならば、その証拠を用いていくらでも助力させていただく所存ですわ」
にっこりと放たれたその言葉に、心当たりがあるのであろう数名の男性がハンカチで汗を拭う様相を見せ、伴っている奥方達は、強い決意を瞳に宿してプリシラ様を見据えている。
「続けますわね。拒絶の意思を示しているにも関わらずに執拗な付きまといに見舞われている殿方には、潔白であり無実であることを証明する為に調査を継続させておりました。王家の影が証明するとなれば、心を軽くして差し上げることが出来ると思いまして」
心を軽くするどころではない。
いつの間にか影に見張られていたなど…些かそら恐ろしさはあるが、ナディアに対して何ひとつ疚しいことのない僕としては有り難いし、これ以上の強い味方はいない。
「モリス子爵に関しましては、結果としてそれはそれは長期間に渡ることとなりまして…その期間は九年にも及びます」
会場が一気にざわつき、僕もあまりの長期間に驚いて思わず目を見開くと、それに気付いたプリシラ様が眉を下げて申し訳なさそうな表情を見せ、僕は慌てて冷静を装った。
「ごめんなさいね、モリス子爵…けれど、かつてコーレス夫人に執拗に付きまとわれ理不尽に断罪されたせいで…本来なら失われるべきではなかった命があったのです」
その場にいる年長者達が、ひゅっと息を飲んだ。
そして…どこからか聞こえてきた小さな嗚咽の元を辿ると、そこには夫婦とみられる二組の男女がそれぞれ寄り添うように並んで座っていた。
ふたりの夫人が手で顔を覆い、声を押し殺すように小さな嗚咽を漏らし、小刻みに揺れている肩を夫であろう男性が抱き寄せている。
その男性ふたりの視線は怒りを孕んだ非常に鋭いもので、真っ直ぐに伯爵を見据えていた。
その様子に、プリシラ様が口にした『失われるべきではなかった命』が、この二組の夫婦の家族であることを誰もが認識した。
「そのお話の詳細はここでは控えさせて頂くけれど…十三年前、そのことを切っ掛けにわたくしはコーレス夫人…当時はまだアレギラ伯爵令嬢の調査を開始したわ」
十三年前といえば、トレーシアはまだ十三歳。
そんな前から今回のようなことをしていたのかと思うと、もはや病気なのではないかとすら思ってしまう。
仮に病気だとして許すことなど出来ないが。
「そして九年前。アレギラ伯爵令嬢が十七歳を迎えた頃、婚約者であり既に爵位を継いでいたコーレス男爵に友人を紹介され…その人物こそがモリス子爵だった」
プリシラ様が僕とトレーシアの出会いを話始めたことで、ビノワとの出会いも思い出した。
お互いに存在くらいは知っている程度に過ぎなかった僕達は、たまたま同時に訪れた雑貨屋で強盗事件に巻き込まれ、それが親交を深めるきっかけとなった。
細身であまり筋力のないビノワは逃げまどう人波に飲まれてしまい、その結果逃げ遅れて人質となり、片や騎士に憧れ鍛えていた僕は強盗の捕縛に助力してビノワ救出に一役買い…後日そのお礼をしたいと誘われ食事に出掛けた。
その時はまだナディアと出会ってすらいなくて、何度目かの誘いを受けて赴いた先で、婚約者だというトレーシアを紹介された。
格上のご令嬢だけれど、天真爛漫で身分を気にしない気安さがあるのだと…そう聞いていたが、確かに初対面では僕もそう思った。
ただ……
『素敵な瞳の色ですね』
そう言っていきなり顔を近付けてきた時はギョッとしたし、
『やっぱり騎士なだけありますね』
と突然体を触ってきたり…
かと思えば、いくら婚約者でも人前だぞ!?とこちらが恥ずかしくなるほどビノワに絡み出したりと、なんとも不思議な女性だと思い、けれどやはりビノワを強く想っているのだと安堵していた。
「モリス子爵の財力と容姿に惹かれたのでしょうね。モリス子爵に伺いますが…紹介を受けてからというもの、アレギラ伯爵令嬢と頻繁に出くわすと言う偶然が続かなかったかしら?」
「……はい、そのように思います」
「すでに始まっていたのよ」
憐れむような眼差しに、当時を振り返る。
いつからか赴く先々に偶然だと言っては現れるようになり、それが何度も続くとさすがに薄気味悪さを感じたりもした。
それに、やたら近い距離で…時には胸を押し付けるようにして腕を絡めてくることもあり、婚約者であるビノワの事を引き合いに出してはその都度やんわりと躱していたのだ。
「あなたがご両親を亡くして爵位を継ぎ、色々と疲れていた時でもあって…あいた心の隙をついて付け入ろうとしていたのでしょう」
「それは…今思えば確かにそうだったかもしれないと…そう思います」
「けれどあなたは一向に落ちる気配を見せない。そのうち市井で暮らす少女と出会って恋に落ち、熱烈なアプローチを続けて結婚するに至った」
そう…七年前、いよいよ疲れきって辿り着いた市井の一角に力なく座り込んで…そんな様子を心配したナディアに声をかけられた。
「その頃には相手にされないとみて他の男性に秋波を送って男女の関係を数多く築いていたアレギラ伯爵令嬢だったけれど、あなたが結婚して幸せそうに暮らしている様子を見て…大切にされている奥様を見て、嫉妬した」
僕達が結婚した時にはもう、カクラスを、子供を授かっていたはず。
「後継者である子息を生んだことで、家督に対する役目と責任は果たしたと思ったようね。次は自分の幸せを求めたくなった…そして、それは貴方と結ばれること」
「私にはそのつもりなど毛頭ございません」
思わず強い口調で否定してしまったが、プリシラ様は優しく微笑みを浮かべて向けてくれた。
「えぇ、分かっておりますとも。貴方の奥様は平民から貴族に嫁ぐ者として、一介のご令嬢ですら音をあげかねない努力を積み重ね、貴方はそんな奥様をこよなく愛しているわ」
「っ、、……ありがとうございます」
ナディアを誉めてくださったことが嬉しくて、思わず声が詰まってしまった。
平民出身だからと馬鹿にする者もいるが、プリシラ様のようにその努力を正確に見て判断してくれる方もいる。
そして、この場でその努力をプリシラ様が直接認めてくださったことは…これから先、ナディアの評価をガラリと変えるはずだ。
「夫の為、懸命に努力する妻と、その妻を大切に愛して慈しむ夫。そんなふたりの邪魔をしようとする者がいたら、許せるはずがないわ」
「それでは…もしかしてナディアのことも……」
冒頭、プリシラ様はナディアの無実も立証出来ると言っていた。
その言葉が意味するとすれば……
「ご推察通りよ。貴方の奥様であるナディア夫人にも影をつけさせてもらっていたの」
ごめんなさいね、と言われたナディアは恐縮して縮こまり、思わずだろうが僕に身を寄せた。
……可愛すぎて困る。
「ふふっ、可愛らしい人ね」
ナディアはそんなプリシラ様の言葉に、今度は頬を赤く染めてしまった。
「けれど、だからこそ。モリス子爵が婚姻前より不貞を続けている事実はありえないこと、ナディア夫人がアレギラ伯爵令嬢、もといコーレス夫人に対して嫌がらせなど行っていないことは、わたくしの名誉にかけて否定させていただきます」
強く、大きく、ハッキリとそう宣言された。
王位継承権を持つ王族としての名誉を自らかけられ、その異例すぎる事態に再びざわめきが沸き起こる。
「むしろ、コーレス夫人による嫌がらせが常軌を逸し始めたのを知りながら、何も出来ないことを心苦しく思っていたわ…けれど被害者からの訴えがない限り、こちらから勝手に動くことは出来なかった」
「お心を煩わせてしま────」
「貴方が謝ることではないのよ」
僕の言葉を遮ってそう言ったあと、それまで柔らかくなっていた表情を厳しいものに変え、王族たる者の威厳を醸し出した。
「アレギラ伯爵」
「はっ、はい!」
いつの間にか座り直し黙っていた伯爵が、突然自分に強い口調が向いたことで体を跳ねさせる。
「以上がモリス子爵夫妻の潔白を証明する証拠のすべてなのだけど、それでもあなたは変わらずにご息女の正当性を訴えるのかしら」
真実は誰の目にも明らかだった。
伯爵は項垂れながら小さく、蚊の鳴くような声で自分達に非があることを認め、トレーシアの施設への幽閉と慰謝料の支払いに応じた。
しかし、ただでさえ傾いている伯爵家の財政ではとても支払うことなど出来ず、爵位と領地を売却することでその罪を精算することになった。
そして、それらを買い取ったのは他でもないプリシラ様なのである。
ニコニコと、心なしか楽しそうに話すプリシラ様は、一瞬僕達の方に…柔らかな視線を向けて、だがすぐに鋭いものへと変え伯爵へと戻した。
「何人かは楽しんで関係を持ってらっしゃる方もおりましたが…そのような方はさっくりと証拠を取って早々に調査を切り上げさせました。非道徳的な事に溺れてどうなろうとわたくしの知るところではありませんし…けれどそのせいでその者の配偶者が心を痛めたり苦しんでいるのならば、その証拠を用いていくらでも助力させていただく所存ですわ」
にっこりと放たれたその言葉に、心当たりがあるのであろう数名の男性がハンカチで汗を拭う様相を見せ、伴っている奥方達は、強い決意を瞳に宿してプリシラ様を見据えている。
「続けますわね。拒絶の意思を示しているにも関わらずに執拗な付きまといに見舞われている殿方には、潔白であり無実であることを証明する為に調査を継続させておりました。王家の影が証明するとなれば、心を軽くして差し上げることが出来ると思いまして」
心を軽くするどころではない。
いつの間にか影に見張られていたなど…些かそら恐ろしさはあるが、ナディアに対して何ひとつ疚しいことのない僕としては有り難いし、これ以上の強い味方はいない。
「モリス子爵に関しましては、結果としてそれはそれは長期間に渡ることとなりまして…その期間は九年にも及びます」
会場が一気にざわつき、僕もあまりの長期間に驚いて思わず目を見開くと、それに気付いたプリシラ様が眉を下げて申し訳なさそうな表情を見せ、僕は慌てて冷静を装った。
「ごめんなさいね、モリス子爵…けれど、かつてコーレス夫人に執拗に付きまとわれ理不尽に断罪されたせいで…本来なら失われるべきではなかった命があったのです」
その場にいる年長者達が、ひゅっと息を飲んだ。
そして…どこからか聞こえてきた小さな嗚咽の元を辿ると、そこには夫婦とみられる二組の男女がそれぞれ寄り添うように並んで座っていた。
ふたりの夫人が手で顔を覆い、声を押し殺すように小さな嗚咽を漏らし、小刻みに揺れている肩を夫であろう男性が抱き寄せている。
その男性ふたりの視線は怒りを孕んだ非常に鋭いもので、真っ直ぐに伯爵を見据えていた。
その様子に、プリシラ様が口にした『失われるべきではなかった命』が、この二組の夫婦の家族であることを誰もが認識した。
「そのお話の詳細はここでは控えさせて頂くけれど…十三年前、そのことを切っ掛けにわたくしはコーレス夫人…当時はまだアレギラ伯爵令嬢の調査を開始したわ」
十三年前といえば、トレーシアはまだ十三歳。
そんな前から今回のようなことをしていたのかと思うと、もはや病気なのではないかとすら思ってしまう。
仮に病気だとして許すことなど出来ないが。
「そして九年前。アレギラ伯爵令嬢が十七歳を迎えた頃、婚約者であり既に爵位を継いでいたコーレス男爵に友人を紹介され…その人物こそがモリス子爵だった」
プリシラ様が僕とトレーシアの出会いを話始めたことで、ビノワとの出会いも思い出した。
お互いに存在くらいは知っている程度に過ぎなかった僕達は、たまたま同時に訪れた雑貨屋で強盗事件に巻き込まれ、それが親交を深めるきっかけとなった。
細身であまり筋力のないビノワは逃げまどう人波に飲まれてしまい、その結果逃げ遅れて人質となり、片や騎士に憧れ鍛えていた僕は強盗の捕縛に助力してビノワ救出に一役買い…後日そのお礼をしたいと誘われ食事に出掛けた。
その時はまだナディアと出会ってすらいなくて、何度目かの誘いを受けて赴いた先で、婚約者だというトレーシアを紹介された。
格上のご令嬢だけれど、天真爛漫で身分を気にしない気安さがあるのだと…そう聞いていたが、確かに初対面では僕もそう思った。
ただ……
『素敵な瞳の色ですね』
そう言っていきなり顔を近付けてきた時はギョッとしたし、
『やっぱり騎士なだけありますね』
と突然体を触ってきたり…
かと思えば、いくら婚約者でも人前だぞ!?とこちらが恥ずかしくなるほどビノワに絡み出したりと、なんとも不思議な女性だと思い、けれどやはりビノワを強く想っているのだと安堵していた。
「モリス子爵の財力と容姿に惹かれたのでしょうね。モリス子爵に伺いますが…紹介を受けてからというもの、アレギラ伯爵令嬢と頻繁に出くわすと言う偶然が続かなかったかしら?」
「……はい、そのように思います」
「すでに始まっていたのよ」
憐れむような眼差しに、当時を振り返る。
いつからか赴く先々に偶然だと言っては現れるようになり、それが何度も続くとさすがに薄気味悪さを感じたりもした。
それに、やたら近い距離で…時には胸を押し付けるようにして腕を絡めてくることもあり、婚約者であるビノワの事を引き合いに出してはその都度やんわりと躱していたのだ。
「あなたがご両親を亡くして爵位を継ぎ、色々と疲れていた時でもあって…あいた心の隙をついて付け入ろうとしていたのでしょう」
「それは…今思えば確かにそうだったかもしれないと…そう思います」
「けれどあなたは一向に落ちる気配を見せない。そのうち市井で暮らす少女と出会って恋に落ち、熱烈なアプローチを続けて結婚するに至った」
そう…七年前、いよいよ疲れきって辿り着いた市井の一角に力なく座り込んで…そんな様子を心配したナディアに声をかけられた。
「その頃には相手にされないとみて他の男性に秋波を送って男女の関係を数多く築いていたアレギラ伯爵令嬢だったけれど、あなたが結婚して幸せそうに暮らしている様子を見て…大切にされている奥様を見て、嫉妬した」
僕達が結婚した時にはもう、カクラスを、子供を授かっていたはず。
「後継者である子息を生んだことで、家督に対する役目と責任は果たしたと思ったようね。次は自分の幸せを求めたくなった…そして、それは貴方と結ばれること」
「私にはそのつもりなど毛頭ございません」
思わず強い口調で否定してしまったが、プリシラ様は優しく微笑みを浮かべて向けてくれた。
「えぇ、分かっておりますとも。貴方の奥様は平民から貴族に嫁ぐ者として、一介のご令嬢ですら音をあげかねない努力を積み重ね、貴方はそんな奥様をこよなく愛しているわ」
「っ、、……ありがとうございます」
ナディアを誉めてくださったことが嬉しくて、思わず声が詰まってしまった。
平民出身だからと馬鹿にする者もいるが、プリシラ様のようにその努力を正確に見て判断してくれる方もいる。
そして、この場でその努力をプリシラ様が直接認めてくださったことは…これから先、ナディアの評価をガラリと変えるはずだ。
「夫の為、懸命に努力する妻と、その妻を大切に愛して慈しむ夫。そんなふたりの邪魔をしようとする者がいたら、許せるはずがないわ」
「それでは…もしかしてナディアのことも……」
冒頭、プリシラ様はナディアの無実も立証出来ると言っていた。
その言葉が意味するとすれば……
「ご推察通りよ。貴方の奥様であるナディア夫人にも影をつけさせてもらっていたの」
ごめんなさいね、と言われたナディアは恐縮して縮こまり、思わずだろうが僕に身を寄せた。
……可愛すぎて困る。
「ふふっ、可愛らしい人ね」
ナディアはそんなプリシラ様の言葉に、今度は頬を赤く染めてしまった。
「けれど、だからこそ。モリス子爵が婚姻前より不貞を続けている事実はありえないこと、ナディア夫人がアレギラ伯爵令嬢、もといコーレス夫人に対して嫌がらせなど行っていないことは、わたくしの名誉にかけて否定させていただきます」
強く、大きく、ハッキリとそう宣言された。
王位継承権を持つ王族としての名誉を自らかけられ、その異例すぎる事態に再びざわめきが沸き起こる。
「むしろ、コーレス夫人による嫌がらせが常軌を逸し始めたのを知りながら、何も出来ないことを心苦しく思っていたわ…けれど被害者からの訴えがない限り、こちらから勝手に動くことは出来なかった」
「お心を煩わせてしま────」
「貴方が謝ることではないのよ」
僕の言葉を遮ってそう言ったあと、それまで柔らかくなっていた表情を厳しいものに変え、王族たる者の威厳を醸し出した。
「アレギラ伯爵」
「はっ、はい!」
いつの間にか座り直し黙っていた伯爵が、突然自分に強い口調が向いたことで体を跳ねさせる。
「以上がモリス子爵夫妻の潔白を証明する証拠のすべてなのだけど、それでもあなたは変わらずにご息女の正当性を訴えるのかしら」
真実は誰の目にも明らかだった。
伯爵は項垂れながら小さく、蚊の鳴くような声で自分達に非があることを認め、トレーシアの施設への幽閉と慰謝料の支払いに応じた。
しかし、ただでさえ傾いている伯爵家の財政ではとても支払うことなど出来ず、爵位と領地を売却することでその罪を精算することになった。
そして、それらを買い取ったのは他でもないプリシラ様なのである。
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