【完結】妻至上主義

Ringo

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番外編(本編登場人物のその後)

《白薔薇姫》後編

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庇護欲を唆るか弱いご令嬢…と噂される筆頭公爵家のユリーシャ嬢だが、同居してから驚くことばかりだった。






「おかえりなさいっ!!」


帰宅すると、まるで何年も会っていなかったかのように満面の笑みを浮かべ、飛び込んでくる細く柔らかい体を受け止める。


「ただいま戻りました」

「ふふっ、レオン様の匂いがする」

「今日は終日鍛錬だったので…汗臭いですよ。一応、シャワーを浴びてはいますが」

「汗の匂いはしませんが、それでも構いません。いっそのこと、汗は流さないでおいて欲しいくらいですもの」

「さすがにそれは……」


女性で、しかも年齢のわりに背の高いユリーシャ嬢はヒールも履いているせいか、少し背伸びすれば俺の首筋に鼻先を寄せられてしまう。

なので帰宅するたび、こうしてクンクンと首やら耳の後ろやらの匂いを嗅がれており…どうしたって俺の体はよからぬ反応をしそうになる。


『当然だけど、一線は越えないでね』


団長の言葉が脳内に木霊し、同時に人を射殺せる視線を思い出しては冷静になる…の繰り返しだ。


「今日のお夕食、わたくしが作りましたの」


抱き着いたまま俺を見上げ、褒めてと言わんばかりにニコニコと頬を染めている。

俺の忍耐も知らず…少し詰めれば唇が触れそうな距離を、さも当たり前のようにして。


「………………」

「レオン様?」


なんだかムカッとしたから、


「? ───っ!!」

「楽しみです。行きましょう」


いつもは頬にする挨拶のキスを、わざと唇の端ギリギリ触れない場所にしてやった。

……本当は少し触れたけど。


「………………触れた…」


ぽやんとするユリーシャ嬢の言葉は聞かなかったことにして、腰に手を回してダイニングへ歩き出した。






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ユリーシャ嬢と同居するにあたり、住み込みの使用人を雇おうとしたが断られてしまった。

…を共に過ごしたいとの希望らしく、公爵家からは専属侍女だけが派遣されている。

とは言っても娘を溺愛する団長の事だから、周囲には公爵家の護衛騎士が配置されているのだろう。


「いい匂い…シチューですか。好物です」

「そ、そうなんですね…っ」


手際よくコンロに火をつけ、鍋の中のシチューをかき混ぜるユリーシャ嬢…の腰に後ろから手を回し、覗き込んでみれば体を硬直させた。

同居して2ヶ月…早々に覚悟を決めた俺の行動と態度に、今ではユリーシャ嬢の方がタジタジ。

正直なところ、自分でも驚いている。

今までそれなりに付き合った女性もいたが、こんな風に常にくっついたり…キスしたいと思ったことはなかった。

家にいる時は必ず手を繋ぐか腰を抱いて、仕事をしていても気になって仕方ないし、見ているだけで心が温かくなる。


「あの…っ…レオン様、擽ったい…です…」

「あぁ、すみません。料理をする貴女が可愛らしくてつい」


グルグルとかき混ぜているだけなのだが、思わずこめかみや首筋にキスしてしまった。

彼女には秘されているが、既に婚約を結ぶ方向で話は進められており、デビュタント前にプロポーズをする予定となっている。


「それにしても、上手に火をつけますね。見事な包丁捌きもそうですが、貴族のご令嬢では聞いたことがない」


耳まで真っ赤にしているのが可愛くて、耳朶を食みながらそう尋ねれば身じろいだ。

逃がさないけれど。


「っ…アリーシャが得意なんですの。あの子は不思議となんでも出来て、お魚の捌き方はアリーシャ仕込みですわ。幼少期には、薪割りも教わりました。またやってみようかしら」


昔を思い出したのか、クスクスと楽しそうに笑っている…が許容しかねる案件だ。


「薪割りなどしなくていいです。怪我でもしたら心配で仕事に行けなくなってしまう」


木べらを持つ手の細い指に触れてそう告げれば、晒されている白い項が朱に染まり、自然と吸い寄せられるように口付けた。


「……わざと怪我してしまいそうですわ」

「何故?」

「…心配でお仕事に行かず…傍にいてくださるのでしょう?」


この少女は本当に15歳かと思ってしまう。

この2ヶ月で妙に艶めく雰囲気を醸し出し…他の女性から言われたなら煩わしい束縛も、ユリーシャ嬢からなら甘美なものに変わる。


「いつでも傍にいたいと思っていますよ」


結婚したらやはり住み込みの使用人を雇おう。

好きなことを無理には禁じないが、物理的に傷付くような事は避けたい。






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「……一緒に眠りたいです」


就寝の時間となりユリーシャ嬢に宛てた部屋へ伴うと、俺と寝たいと目を潤ませて懇願してきた。

そうしたいのは山々だが、団長との約束だし…何より自制出来る自信がない。


「婚前交渉をされる方も多いですわ」


そんな殺し文句を言いつつ抱き着かれると、薄い夜着越しに膨らみを感じて…もたげそうだ。

やんわりと引き剥がせば傷付いた顔をするから、そのまま寝室に引き摺り込みたくなる。


「貴族間の婚姻ではまだそんなに多くはないと思いますが…たとえそうだとしてもダメです」

「……わたくしではダメですか?やっぱり…子供としか思えない…とか…」


不安に瞳を揺らす様子に罪悪感が湧いた。

お試し期間の終了後に婚約することは、公爵家と伯爵家の当主…父親達に伝えて了承を得ている。

だから今は、実質的に親公認による婚約者同士の同棲状態。

知らぬはユリーシャ嬢のみ。

本当は決めた時点で告げるつもりだったが、しっかりとプロポーズしたくて先延ばしにした。


「レオン様は…どういった女性がお好──」


これ以上、溢れそうな涙を堪えながら言葉を続けさせたくなくて……顎を掬い唇を重ねた。

“一線”というのは体を繋げること…だよな?

専属の侍女は控えているが、流石公爵家お仕えの者…さっと視線を逸らす。

本音を言えばこのまま舌を絡めたいが、それこそ俺の理性が崩壊してしまう。


「…………ユリーシャ嬢」


ゆっくり唇を離すと、彼女は驚いたような顔をしつつも徐々に頬を染めた。


「あとでお伝えするつもりでしたが、デビュタントのエスコートは俺が務めます」

「…………え?」

「勿論、お父上である公爵には了承済みです」

「…………え?」


混乱しています!!と言わんばかりの表情に、愛しい気持ちが溢れてくる。


「今度の休みにでも、ドレスの下見に出かけましょう。俺から贈りたい」


デビュタントのドレスを男性が贈る…それは即ち婚約を結ぶことを意味するもの。

それを正確に捉えたのか、ユリーシャ嬢の大きな若草色の瞳から一筋、朝露のように美しい雫が頬を伝って流れ落ちた。


「貴女をお慕いしております」


もう一度、触れるだけのキスを…と思って唇を重ねたが、ぽ~っと薄く開いているそこから、少しだけ舌を入れて先端に触れた。

びくっ!!としたのがおかしくて、可愛くて。


「おやすみなさい」


言って軽くキスしてから部屋の中へと促した。










「オ…ッオリビア!!キス!!キスしたわ!!もう結婚してもいいんじゃないかしら!!」


閉められた扉の向こうからはそんな声が響いて、侍女が冷静に宥めているのが窺え小さく笑ってしまった。


「誰にも渡しませんわ!!レオン様はわたくしの旦那様になるお方です!!」


俺の奥さんになるのは貴女だけですよ。







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正式にプロポーズをして迎えたデビュタント。

婚約者の晴れ舞台とあって休みも得られ、彼女は俺の贈ったドレスを身に纏っている。


「あのドレス、独占欲の塊だね」


からかってくる義父(予定)の隣には、その言葉がそのままブーメランとなる奥方の姿。


「何はともあれ、娘が愛されているならそれでいいけど。少しでも余所見したら…ちょんぎられるから覚悟しておいた方がいいよ」

「………?」

「アリーシャが言い出した事なんだけどね…あの子達、もしも伴侶が浮気しようものなら、男性器を切り落とすつもりなんだって」


呆気に取られた…が、そんなつもりは更々ないので問題はない。

少々、アソコが縮み上がったくらいだ。











その後、「婚約しましたのよ!?」と迫る彼女をギリギリの理性で躱し続け…ながらもちょこちょこ触れ合い、本懐を遂げたのは初夜。

痛いやら嬉しいやらで泣きじゃくる愛しい妻を、夜通しこれでもかと貫いて愛した。

困ったことと言えば伽の最中、過去の相手に対して嫉妬を露に襲ってくるくらい。

すみません…童貞ではなくて。


「うぅ……過去は過去ですわ…だけど悔しいんです!!腹立たしいのです!!レオン様はわたくしの旦那様なのに!!15歳差が悔やまれますわ!!」


俺が閨の実技で童貞を卒業したのは14歳だから、ユリーシャ嬢はそもそも生まれてすらいない。


「俺は貴女のものだし、貴女は俺のものです」

「まぁっ…!!うふ、そうですわね。ではその証をつけさせて頂きますっ」


そう言って意気揚々と俺を押し倒し、首から下へ無数のキスマークをつけていく。

そのあまりの数に、シャワー室で見た同僚達はドン引きしたが。


「はぁ…素敵ですわ……わたくしの旦那様…」


びっしりとつけてご満悦の彼女に「明日から休暇なので首もいいですよ」と言えば、破顔して首筋に食らいついてきた。


「領地でゆっくり過ごしましょう」

「えぇ…早く会いたいですわね」


その言葉に自然と彼女の腹部へと視線がいく。

少しだけ膨らんだお腹には、命が宿っている。

休暇中は公爵家の傍系から譲り受けた王都近くの小さな領地に赴き、領主の子爵夫妻として挨拶をして回る予定だ。


……首にはマフラーを巻いていこう。季節が冬でよかった。


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