【完結】妻至上主義

Ringo

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番外編(本編登場人物のその後)

《砂糖菓子と王女様》前編

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貴族嫡男の結婚式は、基本的に本邸のある領地で挙げられる事になっている。

リリーチェとアルバートも多分に漏れず公爵領で挙式する事が公表され、領地では様々な準備がされ始めた。

その中のひとつ、公爵家…特にリリーチェの御用達として知られる製菓店では、依頼されたウエディングケーキの他に、結婚式に合わせて訪れるであろう観光客に向けた商品をどうするか、パティシエ達が連日頭を悩ませる。


「やっぱり、日持ちがする物ですよね」


観光客は馬車で数日、遠いと1週間以上の時間をかけてやって来るので、製菓店など食べ物を扱う店は土産物購入の対象外とされてしまう。


「そうだな…焼き菓子はそれなりに購入されるだろうが、帰りの馬車で食べる用に少し手に取るくらいだろう」


折角の祝いであるが、やはりそこは商売。それなりの売上をあげたいのが本音である。

とは言え、比較的日持ちのする焼き菓子でもせいぜい4~5日がいいところ。


「やはり…砂糖菓子しかないのか…」


オーナーパティシエの呟きに弟子達も頷いた。






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結婚式までひと月と迫り、リリーチェとアルバートの瞳の色を表現した砂糖菓子を販売することが決まり、その準備を始めた頃。

ひとりの少女が店を訪れた。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは」


ふわりと笑う笑顔が可愛らしい少女は質素な装いをしているが、接客のプロであるオーナー夫人には高貴な家柄の娘であることが分かった。


(どちらのご令嬢だったかしら)


筆頭公爵家の領地に店を構えている夫人は抜群の記憶力を持っており、脳内にある貴族名鑑をペラペラと捲るが該当者がおらずに首を捻る。

しかし間違いなく貴族令嬢…そうであればひとりのはずもないので、近くに控えているはずの使用人や護衛を視線で探した。

貴族のお忍びには、平民の振りをしたお付きの者がそれとなく待機しているもの。


(うまく隠れているのかしら。見当たらないわ)


何処にもその存在を見つけられず、深追いはせずに少女へ意識を戻した。

甘いものが好きなのか、少女は目を輝かせてショーケースのケーキを「どれも美味しそう」と言いながら選んでいる。

まだ幼さの残る雰囲気に、今は嫁いでしまった娘の幼少期を思い出して夫人の表情は和らぐ。


「宜しければ、こちらをご試食されませんか?」

「え?」


本来であれば、毒味役のいない貴族令嬢に試食など勧めることはしない。

まして立ったままなど言語道断。

けれど可愛らしい様子の少女に娘の姿を重ね、かつて娘にそうしていたように、新作を食べさせてあげたくなった。


「新作の砂糖菓子です。近くご結婚なされる領主様ご子息と、そのご婚約者様の瞳をイメージしてお作り致しました」

「綺麗…宝石みたいだわ…」


少女は勧められるままに、立ったまま小さな砂糖菓子をパクりと口に含んで、その甘さに頬を緩めて蕩けるような笑みを浮かべた。

つられて夫人も微笑む。


「美味しい」

「味も違うんですよ。今召し上がられたグリーンはグレープフルーツ味で、こちらのパープルは葡萄味なんです」

「……そちらもいただけますか?」


キラキラと目を輝かせる様子に、夫人の慈愛に満ちた笑みはますます深まった。

幼かった娘も、こうしてねだった事を思い出す。


「もちろんですわ」


この日、少女は店内にある喫茶スペースでケーキをひとつ食べ、お土産に砂糖菓子を購入。

そして翌日またひとりで来店し、それ以降も連日訪れるようになり、夫人と世間話をするほどに親交を深めていった。






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何度目かの来店以降、少女がケーキを食べる時は夫人も同席して一緒にお茶をするようになり、その美しい所作に“やはり高位貴族令嬢”と確信するものの、本人が言わないのだからと何も聞かないでいた。


「この砂糖菓子、本当に綺麗だし美味しい。お土産で買って帰れますか?」

「えぇ、それは大丈夫ですわ。けれど…ご自宅までどのくらいかかります?あまり日持ちはしないので…もって1週間でしょうか」

「そうなんですね」


少女は何やら考え始め、おずおず…といった様子で夫人に問いかける。


「もし…その“日持ち”を延ばす事が出来たら、追加も送って下さいますか?」


何を言っているんだろう…と首を傾げながらも、そんな事が本当に可能なら送ると頷けば、少女は嬉しそうに破顔した。


「本当ですか!?こんなに美味しい砂糖菓子は私の国にはないから、きっと家族やお友達も喜んでくれます」

「それは有り難い事だけれど…でもどうやって延ばすのでしょう?」

「ふふっ。オーナーを呼んでくださいます?」


少女が来店するのは決まって客の引いている時間帯であり、“ご贔屓の令嬢”が呼んでいるとあってオーナーパティシエはすぐにやって来た。






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念の為…と少女に言われた夫人は喫茶スペースの扉に内鍵をかけ、夫であるオーナーパティシエと並んで座り向き合う。

それを確認した少女が「少しお待ちくださいね」と笑みを浮かべて指を“パチンッ”と鳴らすと、暖かい風がそよぎ…そこにいたはずの少女が消えて、女神の如く美しい女性が姿を現した。


「改めてご挨拶させていただきますわ。わたくしはエリザベス。シャルドネ王国から参りました」


その自己紹介に、オーナー夫妻は大きく目を見開いて驚き言葉を失ってしまう。

この世界にシャルドネ王国を知らぬ者はおらず、その中でも“エリザベス王女”は幼い子供ですら知っている存在。

つい先日も、孫娘にねだられて王女を題材にした絵本を買い与えたばかり。


「……シャルドネ王国の…エリザベス王女…」


あまりの衝撃に固まっていた夫人だが、ポロリと零した自身の言葉で我に返って立ち上がり、夫もそれに続いて王族に対する挨拶の姿勢をとって頭を下げた。


「顔をあげてくださいな。話を続けましょう」








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