【完結】失った妻の愛

Ringo

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8・ひと欠片の愛

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話の途中から流れ始めた涙を拭ってやりたくて、振り払われるかと思いつつも徐に伸ばした手は、そうならずに妻の柔らかい頬に辿り着いた。
思えば妻にそんなことをされた記憶はない。
拒絶されることを恐れ、触れなかったのは俺だ。

二十年…あまりにも長すぎた。
もっと早く気持ちを聞いてやるべきだった。
俺は自分の事しか考えていない大馬鹿者だ。
どんな行動なら喜ばれるか、どんな言葉なら今以上に嫌われないですむか…そんなことばかりに必死となり、その裏でどれだけの苦しみを抱えているのかなど…気付いてやれなかった。

二十年もの間、妻の顔色を窺うだけの俺はさぞ愚かしい男であった事だろう。

リリアナにとっての俺は、子を身籠らせるほどに深い関係の愛人をひた隠し…いつ追いやろうかと算段する鬼畜な夫。
そんな事実は一切ないが、もしかしたらと怯え続けたリリアナの二十年。

その長すぎる苦しみを思えば、俺にすべきことはひとつしかないのだと思う。

もう解放してやるべきだ。
もう俺に苦しめられるべきじゃない。
俺の傍にいることで、これ以上深い傷を負い続けるべきじゃない。

だけど…君が捨てきれなかったと言う想いにまだ縋ってもいいのなら。
その想いを欲しいと乞うても許されるなら。


「……リリアナ」


恋い焦がれて呼んだ名に、妻は僅かに顔を傾け添えている俺の手に頬を擦り寄せた。

触れる箇所から伝わる温もりに、抑えるべき感情が溢れ出てくる。

放せない。
傍にいてほしい。
二十年も苦しめてきた俺の傍で、いつまでも寄り添い…叶うなら笑っていてほしい。

君が心から笑える日が来るまで、決して離れず逃げることもしない。

君が望んでくれるなら、どんなことをしても君の心に寄り添い傷を癒してあげたい。


「リリアナ…君を愛しているんだ…君を傷付けた事を許してくれとは言わない。これからも苦しめてしまうと思う。辛くなったら、苦しくなったら幾らでも俺を詰ってくれて構わない…殴ってくれてもいいから…俺の傍にいて欲しいんだ」


リリアナは何も言わず、俺の手に頬を寄せたまま俺の本心を探るようにただじっと…涙を流す黄水晶の瞳を向けている。
こうして見つめ合うのはいつぶりだろうか。





あぁ………漸く気付いた。


リリアナの瞳には最初から…あの卒業式の時から【怒り】など孕んでいなかった。
ただひたすら【不安】【寂しい】【心が痛い】と訴えていたじゃないか。
俺はそんな訴えを感じとりながら、リリアナに捨てられる恐怖から目を逸らし続けてきた。


「リリアナ…君を不安にさせてごめん…寂しい思いを沢山させてごめん…心に傷をつけてごめん…愛することを…愛してほしいと望むことをやめられなくてごめん…愛してる」


どこまでも情けない俺の言葉にリリアナはふわりと微笑み…思わず引き寄せ抱き締めた。
リリアナの優しい香りが鼻先を擽り、恋い焦がれた温もりに心は歓喜に沸く。
腕の中に取り戻せたことに目頭が熱くなる。

リリアナを失いたくないと必死になるばかりで、心に付けた傷を放置してきた。
その贖罪は君が決めていい。
最初からそうすべきだった。
たとえそれがその時々で変わろうとも、その時それが君の心を救うなら…そうすべきだった。

まだ間に合うならそうしたい。
君の苦しみや悲しみに向き合い、ひとつひとつ積み重ねていくから。


「君が不安で寂しいと思う時は、何時間でも何日でも君を愛していると伝える。心が痛む時は…どうすれば君を楽に出来るのか教えて欲しい。それがどんな事でも受け入れるし努力する」

「貴方の顔なんて見たくない…声なんて聞きたくないと言うかもしれない…」

「それでも傍にいる。俺の事が許せない、顔なんて見たくないと詰ってくれればいい。気が済むまで叩いたって構わない」

「もう傍にいたくないと…家を飛び出してしまうかもしれない……」

「ついていく。君をひとりにはしない」

「……口汚く貴方を怒鳴り付け…すべて貴方が悪いのだからと…そう言うかもしれないわ…」

「どんな言葉だろうが受け止める。どんなに責められようと、リリアナの傍を離れない」


その全てが俺への想い故なのだから、なにひとつとして取り零したりしない。
全てを受け止め、受け入れる。

ゆっくりとリリアナの手が背中に回り、その感覚が懐かしく…胸を焦がし、涙が溢れそうだ。
俺が裏切るまでは、こうして応えてくれていた。
失ったものがどれだけ大切で大きかったのか、改めて思い知らされる。

バクバクと煩い心臓の音は、胸に耳をあてているリリアナにも伝わっていることだろう。
諦めなくて良かったという安堵感。
想われていたことへの幸福感。
もう間違えられないという緊張感。
複雑な想いが絡み合って鼓動を速める。


「リリアナ…」


見上げてくれたその眦にはまだ涙が残り、そこにそっと口付けると…目を閉じ受け入れてくれた。
この距離でしか見つけられない目尻にある小さな
皺に、寄り添えなかった長い時間を追想する。
十九歳になる年に結婚して二十年…その期間、向き合うことを恐れるばかりだった。

失いたくないと思っていたのはお互い様なのに、望まない結果となることに怯えて逃げ続けた。

表面上だけでもいい、義務でもいいからと距離を置いて断ち切れそうな糸を掴み続けた。

たとえ独り善がりでもいいと、愛する人とその子供達と過ごせる幸せに感謝した。

額、瞼、頬…とゆっくり口付け、開かれ姿を現した黄水晶の瞳と視線がぶつかり…二十年ぶりとなる閨事ではない唇への口付けを交わす。





【貴方がお捨てになられたのです】





そう言っていたリリアナ自身が、最後まで捨てきれず…持ち続けていた俺への想い。

小さな欠片ひとつだったけれど、それをリリアナは大切に残しておいてくれた。

ボロボロに傷付けられたリリアナの中に、大切に仕舞われていた。

壊れてしまったこころは元に戻らないけれど、そのこころを覆い包む愛情でリリアナを大切にしたい。

長い時間をかけて育てた妻の愛は失ってしまったけれど、もう一度、同じだけ…それ以上の時間と愛情をかけて育んでいきたい。





その後、四日に渡り互いの想いをぶつけあった俺達を迎えた長男は呆れた顔をしていた。

それでも、やはり嬉しそうでもある。

聡明な息子には、頭が上がらない。



「収まるべき所に収まったならいいのでは?まだまだお若いんですから、これからも仲良く互いの心を包み隠さずお過ごしください」







◇◇◇◇◇◇
※ここより(夫念願の)イチャイチャタイムです。
※苦手な方、やっぱりコイツ無理!って方はイヤな思いをしてしまうのでお逃げください!!
※R18に情熱をかける作者です(*_*)
※そんなん求めてねぇよ!って方も避難を!
※明日以降、番外編が三話続きます。
(長男編・後妻女編・その後のふたり編)
※読まなくとも番外編には無影響です。
※R18カモン!щ(゜▽゜щ)な方。お楽しみ頂けたら幸いです。
※勢いづいてしまい、本編最終話は長い…


では。
トニモカクニモどんとこい!な同志の皆様、本編最終話にして漸く?のR18解禁お楽しみ下さい。








──────────






八年ぶりに触れたリリアナの唇は記憶よりも柔らかくて温かい。

暫くは啄むように堪能し、やがて僅かにあいた隙間から侵入すれば拙いながらも応えてくれた。
子作りの時にも口付けはしていたが、俺が一方的に重ねたり絡めたりしていただけで応えてもらえたことは一度もない。
だからこれは二十年の結婚生活にして初めてのことで、その事実が体を熱くさせる。

心なしかリリアナの体温も上がっているような気がして…一層深く口付ければ必死で応えながら回された手に力が込められ…抑えられなくなった。

口付けを続けたままリリアナを抱き上げ、寝室に着くやいなやベッドに組み敷いてドレスを取り払い、自身のものも破り捨てるように放った。

痛いほどに反り勃っているモノの先からは待ちきれずに溢れてきた精が零れており、八年ぶりなのだから丁寧に解さなくては…と頭の片隅で思うものの、不意にリリアナの濡れた蜜口へ先端が触れるだけで暴発してしまいそうになる。


「大丈夫だから…っ……」


そう言って昂りに触れられたことで理性の糸が切れ、しとどに濡れている事を言い訳にして、狙い定めると一気に奥へと穿ち挿れた。


「っ……!!…リリアナ……ッ…」


八年ぶりに繋がれた事による歓喜とまとわりつく襞から得た快感に抗えず、先端が奥地にピタリとついたと同時に勢いよく子種が流れ出てしまい、恥ずかしいやら嬉しいやらと複雑な気持ちになり誤魔化すように華奢な体を抱き込んだ。

ぎゅっと抱き締め肩口に顔を埋めればリリアナの匂いがして、バクバクと胸は高鳴りそれに合わせるようにどくどくと子種も放出されていく。


「ごめっ、、止まらない……っ…」


リリアナの中へ出している…子作りではなく、純粋に愛し合う為だけに繋がっている…そう思うと興奮し、即座に充填された子種がリリアナの奥地へ目掛け追撃していった。

八年ぶり…しかも背中にはリリアナの手が回されていて、夢にまで見ていた念願の状況に泣きそうになってしまう。


「リリアナ、、リリィ…ッ……」


久し振りだからか隘路はとても狭く感じ、リリアナも少し苦しそうな顔をしている。
それでも粒々とした襞は生き物のように纏わりついて俺を歓迎し、根元から締め上げるような動きで奥へと奥への吐精を誘導してきた。

誘われるままに進めば、迎えてくれた蜜穴が先端に吸い付き子種を強請る。
腰が砕けそうになるほどの快感に痺れつつ、もっと深く口付けたくて押し付けた。
もっともっと…リリアナの奥に入り込んで繋がりたくて、何度も腰を押し進める。

腰の振りも始めはなるべく優しく…徐々に振り幅を大きく力強いものに変えて、リリアナの感度も少しずつ高めた。
硬さの残っていた隘路は柔らかさを取り戻し、包み込む肉壁の動きも激しさを増していく。

途中から、何も考えられなくなった。
ただリリアナが愛しくて。
ただリリアナの中が気持ちよくて。
ただリリアナの中へ出したくて。

先端が少し埋め込まれた所で限界を迎えた。
襞にある無数の粒が根元から先端にかけて纏わりつき絞りあげるような動きをみせ、ゾワゾワと強烈な快感が体を走り抜けると同時に勢いよく子種が駆け出していく。


「あっ…ぁ…………リリ…ッ……」


ごくごくと飲まれるような感覚に腰は蕩け、染み渡らせるように緩く抽挿して余韻を味わう。
普段のひとり処理でも一度や二度では済まない昂りは、まだまだ硬く芯を保っている。


「…あぁ……っ……アル……ッ……」


俺の下で啼いていたリリアナは頬を染め、とろんとさせた瞳からは涙が流れ落ちていて、開かれた口からは甘い吐息と共に…俺の名が呼ばれた。
途端に愚息がグワッと質量を増す。

二十年ぶりだ。
二十年ぶりに愛するリリアナから名を呼ばれた。
この二十年、たとえ誰であろうと女性に名を呼ぶことは認めなかった。
俺の名を呼べるのはリリアナだけ。
リリアナだけに呼ばれたい。


「リリィ…もう一度呼んで」

「あっ、、、アル……」


軽く突けば可愛らしい声が漏れる。
これも子作りでは叶えられなかったことだ。
どんなに激しく穿とうと、いつも手の甲で口を塞いでは声を抑えていた。
その姿は苦しそうで…それだけ俺との行為は苦痛なのだと思い、だけど子供を望まれているからと見ない振りをしてはリリアナを抱き続けた。


「リリアナ…気持ちいい……?」

「あっ、あっ、、そこ……ッ、や……っ…」


反応がいい所をコツンコツンと突いてやれば、そのたび甘く啼いて睨んでくる。
だけどその目に孕んでいるのは情欲と…俺を喜ばせる熱い恋慕で、眦には過ぎる快感のせいで溢れた涙が溜まっている。


「ごめんね…すごく可愛い、愛してる」


愛してると言うたびリリアナがきゅっと締め付けてくるのが気持ちよくて嬉しくて、何度も繰り返し告げてしまう。
緩く律動しながら甘い締め付けを味わい、その合間に滑らかな肌に唇を這わせてあらゆる場所に赤い印をつけていく。
ひとつ…またひとつと増えていく様子に独占欲は満たされ、それを見るリリアナも嬉しそうに微笑むから俺まで嬉しくなってしまう。
気が付けば、凄い数の痕が残されていた。


「………俺だけのリリアナ…」


独占欲に指を這わせれば、きゅん…と締め付けられ喜んでくれていることが伝わってくる。


「……貴方は…?」

「リリアナだけのものだよ」


そう告げるとリリアナは顔を綻ばせ、同時に痛いくらいに締め付けられ、思わず奥を穿った。
そのあとは、未だ残るリリアナの不安を払拭させるかの如くがむしゃらに腰を打ち付け、幾つも体制を変え、何度もリリアナの中へ吐き出し、何度も愛を囁いた。

長く続いた営みもリリアナが疲れて眠りに落ちたことで終わりを迎え────


「湯浴みは…起きてから一緒にしよう」


温かいタオルで互いの体を清め、そのまま初めてふたり一緒の眠りについた。





◇◇◇◇◇◇






緩やかに意識が浮上し、目が覚めたのだと分かったが…こんなにグッスリと深く眠れたのはいつぶりだったかと思う。
少なくともこの二十年では感じていなかった。
頭も視界も晴れ晴れと冴え渡る。

そして左側に感じる温もりに、昨夜の出来事が夢ではなかったのだと目頭が熱くなった。


「…んん……」


もぞもぞとすり寄ってくるリリアナを抱き締めると、嬉しそうに頬を緩めている。
爵位を退いているからいくらでも自由に時間を使うことが出来る為、このままリリアナとのんびり寝て過ごすのもいい。

初めて見る朝の妻を眺めていると、睫毛がふるりと震えてゆっくりと目蓋が開く。


「……おは…ようございます…」


一瞬この状況に戸惑いを見せたが、すぐに思い出したのか頬を染めて…少し枯れた声で告げられたのは朝の挨拶に、愛しさが込み上げる。


「おはよう、リリアナ。愛してるよ。喉が枯れるほど啼かせてごめん」

「………仰らないで…」


耳まで赤くする様子が可愛くて、その耳元で何度も『リリアナ』と呼んでいたら怒られた。
こんなに表情豊かなリリアナも久し振りだ。
それだけ我慢させ、苦しめてきた。


「ねぇ、リリアナ。昨夜はふたりして疲れて寝てしまったから、湯浴みしていないんだ。どうしたらいいと思う?」

「もうっ!!そ、、そんなこと…っ…アルがお決めになればいいことですわ!」


反応が可愛くてついついからかいたくなる。
そして、リリアナもそれを楽しんでくれている。


「じゃぁ、ふたりで一緒に入ろう」

「……ふたり?侍女は連れていかないんですの?浸かるだけですの?」

「ふたりきりだよ。侍女は連れていかない。初めてでうまく出来るか分からないけど、俺がリリアナを綺麗にしたい…ダメ?」

「っ…ダ、ダメでは……ないです…」


早速向かおうとベッドから降りたらリリアナの足に力が入らず、恥ずかしがる妻を横抱きにした。


「……ごめんなさい」

「俺のせいだし」

「なっ……もうっ!」


顔を真っ赤にして肩口に顔を埋めてしまったけれど、リリアナが見せる仕草全てが愛しい。

そして何よりリリアナが頬を緩めたのは、俺が誰かと湯浴みを共にするという事実だった。
自分のことは済ませられるが、女性を洗うなど初めてで覚束ない手付きに納得したらしい。


「……本当にわたくしが初めてなのですね」


小さく聞こえたその声に、長く苦しめてきた棘が少しは取れただろうかと心配になる。
こうやって少しずつ、リリアナの心を俺の想いで包んでやりたい。





湯浴みのあと、いつもひとりで過ごしていた夫婦の居室で朝食をとった。
向かいに座ろうとするのを『イヤだ』と拒絶し隣に座らせ、食べさせ合いたいと強請れば『お行儀が悪いですわ』と言いながらも楽しそうに笑うリリアナが可愛くて、食後は再び寝室へと籠った。

寝室では寄り添いながら色んな話をして、そのままどちらからともなく口付けを繰り返し…気付けば四日も経過していた。



まだ四十手前の俺達の仲の良さに、再び子が出来るのではと広く囁かれるようになるまで、そう時間はかからなかった。











───────────────

※色んな思いを抱えながらお読み下さってありがとうございました🙋
これにて本編完結ですが番外編が三話ほど公開されますので、気になる方は引き続きよろしくお願い致します✨



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