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3・偽りの温もり
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『領地だとか当主についてだとか…息が詰まって仕方ないよ。マリナといると癒される』
『アルは充分頑張っているのに…淑女然としたリリアナ様じゃ労ってくれないわよね。いくらでも私で癒されてくれていいのよ』
『ありがとう』
貴族学院卒業を間近に控えていた頃、本格的に携わるようになっていた領地運営やリリアナとの結婚で継ぐ爵位のことで、それなりに小さくないプレッシャーを抱えていた。
領民を守る為にしなくてはならないこと。
家族を養う為にしなくてはならないこと。
その他にも嫡男としてしなくてはならない事が数多く、いつからか『息抜きがしたい』と護衛も侍従もつけずにひとりで街に足を運ぶようになり、そこで知り合ったのがマリナだった。
『貴方、アルビス・ハーネストよね?私も同じ貴族学院に通っているのよ!会えて嬉しい!』
貴族学院の同級生なのだと声をかけられたが俺には見覚えがなく、あまりの気安い態度と距離感に困惑して警戒した。
貴族の子であれば不用意に異性と近付いたり、ましてや触れてはならないなど常識の事。
俺にしてみれば初対面で素性も分からない女性に突然腕を絡められて嫌悪感しかなく、すぐにその手を引き剥がした。
頬を膨らませて口を尖らせる仕草も、幼い子供のようだと不快感しか感じない。
それでも離れようとしないマリナの一方的な話を聞いていれば、俺に見覚えがなくとも当然なのだと思えた。
一学年につき六つある教室は成績順で分けられているが、俺とリリアナは入学してから常に成績上位者が集まるAクラスに属しており、マリナがいるFクラスとは校舎すら違いこちらへの出入りも認められていないのだから知る由もない。
だが、学院の行事などで俺を見かけたことが多々あるらしく一方的に知っていたそうだ。
『素敵な人だなって思っていたの』
それまでの小煩い雰囲気から一転、しおらしく頬を染めながら…再度組まれた腕に当たる柔らかな膨らみに思わず早鐘を打った。
嗅ぎ慣れたリリアナのものとは違う香りと、リリアナからは向けられたことのない色欲を含む濡れた視線に、多忙さからすり減っていた心が満たされていく気がした。
リリアナに不満などない。
ただ、目の前にいる少女の温もりを逃したくないと思ってしまったのだ。
俺と共に多くの責任を背負うリリアナとは違い、無責任に甘やかしてくるマリナの愛に縋った。
今となればそんなものは愛と呼ばないのだと分かるが、その時はただただ甘やかされる心地よさに言葉通り身を溺れさせた。
リリアナの家で婚約者として過ごしたその足で、マリナの待つ場所へ赴き体を重ねた事もある。
リリアナと別れたいなど微塵も考えてはいない。
単なる憂さ晴らし…溜まっているストレスと精をマリナを抱いて吐き出すことで解消していただけにすぎず、既に処女ではなかった事もあって遠慮なく好きなように自分本意に攻め立てられるところも気に入っていた。
こうして経験したことが、リリアナとの夫婦生活にも足しになるとさえ考えて。
そんなマリナとの割り切ったつもりでいた関係に亀裂が入ったのは、卒業まであと一ヶ月…リリアナとの結婚式までは二ヶ月と差し迫った頃。
『私はどこに住むことになるの?あまり小さいのはイヤよ。料理人は王都で有名なレストランから引き抜いてほしいわ。買い物なんかの支払いは全て回す事になるけど、いざと言う時の為に纏まった現金は毎月ちょうだいね』
情事のあと、余韻に浸りながらいつものように肌を寄せて甘えるマリナにそう言われ、一瞬なんの事を言っているのか分からず固まった。
いや……分かったからこそ固まったのだ。
そこで初めてマリナはこの関係を割り切ったものと捉えていない事と俺の愛人を望んでいる事に気付き、血の気が引いた。
そもそも、マリナの事は何も知らない。
知ろうとさえしなかった。
何故なら俺はリリアナと結婚するし、この関係は学生の内だけ…そう思っていたから。
今だけ気持ちのいい現実逃避が出来ればいいと。
改めて聞けばマリナの家は没落寸前とも言える男爵家で元々婚約者などおらず、どこかに勤めるつもりでいたと言う。
『アルと出会えてよかった。奥さんになれないのは寂しいけど、私はそれでもいい。アルに愛されて暮らせるならそれだけで幸せだよ』
嬉しそうにそう言って抱きついてきて、萎えしぼんだ愚息を撫で擦られるが反応などしない。
慌てて裸のマリナを引き剥がし、そんなつもりなどなかったと伝えるも納得などしてくれるはずもなく、逃げるようにしてその場をあとにした。
その二日後、怒りに任せたマリナがリリアナの元へ出向くなど微塵も思わずに。
『アルは充分頑張っているのに…淑女然としたリリアナ様じゃ労ってくれないわよね。いくらでも私で癒されてくれていいのよ』
『ありがとう』
貴族学院卒業を間近に控えていた頃、本格的に携わるようになっていた領地運営やリリアナとの結婚で継ぐ爵位のことで、それなりに小さくないプレッシャーを抱えていた。
領民を守る為にしなくてはならないこと。
家族を養う為にしなくてはならないこと。
その他にも嫡男としてしなくてはならない事が数多く、いつからか『息抜きがしたい』と護衛も侍従もつけずにひとりで街に足を運ぶようになり、そこで知り合ったのがマリナだった。
『貴方、アルビス・ハーネストよね?私も同じ貴族学院に通っているのよ!会えて嬉しい!』
貴族学院の同級生なのだと声をかけられたが俺には見覚えがなく、あまりの気安い態度と距離感に困惑して警戒した。
貴族の子であれば不用意に異性と近付いたり、ましてや触れてはならないなど常識の事。
俺にしてみれば初対面で素性も分からない女性に突然腕を絡められて嫌悪感しかなく、すぐにその手を引き剥がした。
頬を膨らませて口を尖らせる仕草も、幼い子供のようだと不快感しか感じない。
それでも離れようとしないマリナの一方的な話を聞いていれば、俺に見覚えがなくとも当然なのだと思えた。
一学年につき六つある教室は成績順で分けられているが、俺とリリアナは入学してから常に成績上位者が集まるAクラスに属しており、マリナがいるFクラスとは校舎すら違いこちらへの出入りも認められていないのだから知る由もない。
だが、学院の行事などで俺を見かけたことが多々あるらしく一方的に知っていたそうだ。
『素敵な人だなって思っていたの』
それまでの小煩い雰囲気から一転、しおらしく頬を染めながら…再度組まれた腕に当たる柔らかな膨らみに思わず早鐘を打った。
嗅ぎ慣れたリリアナのものとは違う香りと、リリアナからは向けられたことのない色欲を含む濡れた視線に、多忙さからすり減っていた心が満たされていく気がした。
リリアナに不満などない。
ただ、目の前にいる少女の温もりを逃したくないと思ってしまったのだ。
俺と共に多くの責任を背負うリリアナとは違い、無責任に甘やかしてくるマリナの愛に縋った。
今となればそんなものは愛と呼ばないのだと分かるが、その時はただただ甘やかされる心地よさに言葉通り身を溺れさせた。
リリアナの家で婚約者として過ごしたその足で、マリナの待つ場所へ赴き体を重ねた事もある。
リリアナと別れたいなど微塵も考えてはいない。
単なる憂さ晴らし…溜まっているストレスと精をマリナを抱いて吐き出すことで解消していただけにすぎず、既に処女ではなかった事もあって遠慮なく好きなように自分本意に攻め立てられるところも気に入っていた。
こうして経験したことが、リリアナとの夫婦生活にも足しになるとさえ考えて。
そんなマリナとの割り切ったつもりでいた関係に亀裂が入ったのは、卒業まであと一ヶ月…リリアナとの結婚式までは二ヶ月と差し迫った頃。
『私はどこに住むことになるの?あまり小さいのはイヤよ。料理人は王都で有名なレストランから引き抜いてほしいわ。買い物なんかの支払いは全て回す事になるけど、いざと言う時の為に纏まった現金は毎月ちょうだいね』
情事のあと、余韻に浸りながらいつものように肌を寄せて甘えるマリナにそう言われ、一瞬なんの事を言っているのか分からず固まった。
いや……分かったからこそ固まったのだ。
そこで初めてマリナはこの関係を割り切ったものと捉えていない事と俺の愛人を望んでいる事に気付き、血の気が引いた。
そもそも、マリナの事は何も知らない。
知ろうとさえしなかった。
何故なら俺はリリアナと結婚するし、この関係は学生の内だけ…そう思っていたから。
今だけ気持ちのいい現実逃避が出来ればいいと。
改めて聞けばマリナの家は没落寸前とも言える男爵家で元々婚約者などおらず、どこかに勤めるつもりでいたと言う。
『アルと出会えてよかった。奥さんになれないのは寂しいけど、私はそれでもいい。アルに愛されて暮らせるならそれだけで幸せだよ』
嬉しそうにそう言って抱きついてきて、萎えしぼんだ愚息を撫で擦られるが反応などしない。
慌てて裸のマリナを引き剥がし、そんなつもりなどなかったと伝えるも納得などしてくれるはずもなく、逃げるようにしてその場をあとにした。
その二日後、怒りに任せたマリナがリリアナの元へ出向くなど微塵も思わずに。
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