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最上級の恩情

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引き続き、マリウスの黒い部分が炸裂中
ヽ(´∀`)ノ



お覚悟よろしい方のみ、どうぞっ!!

(ヤンデレに始まりヤンデレに終わりますので、飛ばしていただいても『あ、犯人達はサヨナラされたのね?』で大丈夫です)













────────────────



「脱いで」

「え?」

「ほら、早く脱いで。それ一枚しか着てないんだから簡単だろ?さっさと脱いで裸になれ」

「あっ…はいっ」


僕の言葉の意味を勘違いしているであろう女は、囚人用に渡されている簡素なワンピースをいそいそと脱ぎ始めた。

パサリとワンピースを脱ぎ捨て、頬を染めて恥ずかしそうにしながらも隠すことなく醜い裸体を晒している。柵越しに。


「あのっ……マリウス様…」

「お前に名を呼ぶ許可などしていない」


ガチャリ──と牢の鍵を開けて中に足を踏み入れれば、分かりやすく女が体を震わせた。それが喜びと期待からだというのが…胸糞悪いほどに不快で堪らない。


「マリウ───」


汚らわしい手を伸ばしてきたところで、意識的に剣先を女の喉元に突き出した。


「何を驚いている?僕がお前ごときを抱き締めるとでも思ったか?誰の種だか分からない子を宿し、無様にも腹を膨れさせているお前を?ふざけるのも大概にしろ」

「子は間違いなくトビアスだぞ」

「あぁ、そうだった」

「ちがっ、、この子はマリ───」

「黙れ。僕の子をお前が孕むはずないだろう?僕が子種を注ぐのはラシュエルしかいないし、僕の子を孕むのもラシュエルだけなんだから」


剣先を喉元からツツツ──と下ろしていく。その過程は赤い筋となって僅かに膨れた腹まで続き、臍の下まできたところで動きを止める。

この時点で、女の震えが喜びから恐怖に変わったのが伝わってきたが今更だ。


「でもまぁ、本当に僕の子を孕んでいると言うなら、この腹の中にいるのは銀髪の子なんだろう」


確認してみようか───そう言ったところで、女がズザッと後退りして壁際に逃げた。それをゆっくりと追い詰めていく。

仮にラシュエルが僕の子を生んで銀髪の子ではなかったら、僕は王位から退くことになるだろう。それはそれで構わない。必要なのはラシュエルと共に生きていくことであり、王位はおまけみたいなものなんだから。


「どうした?僕の子を孕んでいるんだろう?もしも銀髪ではない子がうまれようものなら、その時点で僕の子とは認められないけれど…間違いなく僕の子なんだろう?」


本当は違う。不義を疑われるような女ならそれもあるだろうけれど、真実はとして認められないだけ。だから、この国では王太子のうちに銀髪の子を儲けないと譲位されないことになっている。


「いやっ、、ちが…この子は───」

「僕の子だろう?生まれてから違うなんて問題だから、今のうちに確認しておきたいんだ。お前みたいに不純で汚ならしい女と交わった記憶なんてないけれど、僕の子だと言い張り周りに吹聴していたんだから」


そう、僕の子を孕んでいるなど方々で言い触らしていたものだから、うっかりラシュエルの耳にまで届いてしまった。


『マリウス…あのね、単なる噂だし信じているわけじゃないんだけど…あの…あのね……っ』


僕がラシュエル以外に令嬢を抱いて、あまつさえ孕ませたなど…信じてはいないと言いながらも、僕に問うラシュエルは堪えきれずに涙を流した。

基本的にはべったりと傍を離れないけれど、公務や執務によっては丸一日二日と傍を離れることもあるせいで、寂しがるラシュエルの心につけこまれた結果だ。

まぁそのお陰でラシュエルをグズグズになるまで愛しても何ひとつ恥ずかしがらず、抵抗なんてなかったのは勿怪の幸いとでも言えるだろうか。

危うく最後までいきそうになったけれど。


「僕が与える快楽以外でラシュエルが涙を流すなんてことは許されない。そうだな、まだ嬉しかったり感動したり…そう言った類いの涙なら少しは許容できるけど、悪意をもって傷付けた挙げ句に泣かせるなんて許せるはずがないだろう?ラシュエルが感情を揺さぶられるのは僕のせいじゃなくてはならないし、僕を揺さぶれるのもラシュエルだけなんだから」


だから、余計な波風を立てようとする不穏分子は早急に排除しなくてはならない。トパーズ王国からも不要とされたトビアスの子を孕むこの女も、最上級の恩赦でもあれば命まで失うことはなかったかもしれない。でも───


「僕を誑かすだけならまだしも、ラシュエルを傷付けた罪は万死に値するんだ。知らなかった?」

「そんっ、な…わたしは…ひぃっ!!」

「揃いも揃って漏らすだなんて、お前とトビアスは実にお似合いだよ。お前の家は既に取り潰されているし、ここを出たところでお前に帰る場所なんてないからな…うん、僕からお前に最上級の恩情をかけてやろう」


剣先を喉元に戻して少しばかり突き刺せば、トビアスのようにみっともなく漏らして気を失った。


「…恩情?」


サミュエルが訝しげに僕の言葉を反芻しているが、何も言葉通りに優しく情けをかけるなんて僕がするはずないじゃないか。ラシュエルを泣かせたんだぞ?


「やっぱりさ、子の親が離ればなれなんていけないと思うんだよね。新薬が妊婦にどのくらい影響するのか調べようがないって薬師長がぼやいていたし、協力してあげよう。様々な怪我に対応する薬の効能も調べたいようだから、この際まとめて試してもらえばいいんじゃない?国と民の為にもなるし」


妊婦にかかる負担が分かれば、いずれラシュエルが妊娠した時も安心して投薬してもらえるしね。うん、我ながらいい考え。


「あぁ…成る程」


聡いサミュエルは、僕の考えなどお見通しらしい。流石だよ。


「伯爵家からは新種の媚薬も押収されて、それに対する解毒薬も作るって意気込んでいたからトビアスの体も存分に活用してもらおうじゃないか」


そうと決まればふたりの身柄を薬師棟に移動させなくちゃ。女はまだ妊娠初期らしいから、治験も存分にこなすことが出来るだろう。うっかり殺さなくてよかった。


「さて、さっさと身を綺麗にして戻らなくちゃ。ここのところ忙しくてラシュエルに寂しい思いをさせているからね」

「それはそれは…」

「サミュエルもいい加減に覚悟を決めればいいのに。何も体を使わなくとも情報を仕入れるなんて容易いだろう?」

「まぁ…それはそうなんだけど……」


サミュエルが家庭を持たないのは、自分の身に何かあれば家族を残すことになるからってことも理由のひとつで…だからこそ躊躇しているなんてことは僕にだって分かること。


「はぁ……外の空気が美味しい」


今は戦争もなく落ち着いているけれど、いつ状況が変わるかなんて分からないし、今後も平和だとは限らない。


「僕はさ、民が憂いなく過ごせるようにしたいんだ。前線で戦う騎士は勿論、食を支えてくれている農家や生活を豊かにする為に動いてくれている商人。国の為に働く貴族から、彼らに仕える身分の者たち…皆が、家族を残すことに不安を抱かず邁進することが出来れば、今まで以上に豊かに出来るんじゃないかって」

「………」

「今はまだ理想だけど、理想論で終わらせるつもりはないよ。大切な家族を失う精神的な憂いは流石に拭えないにしても、主人を失っても生活を送れるのか…そんな不安だけでも払拭してあげたい」

「……それは…譲位されてから?」

「いや、譲位前には意見を汲み上げ纏めて議会に掛けるつもり。反対するとすれば…貴族としての甘い密を吸っているだけの者達だろうから、そこら辺も叩き潰すいい機会にしてやる。領地運営は必ずしも貴族でなくてもいい」

「そっか…」


住みやすくて治安もいいとされているこの国も、改善しなくてはならない箇所がまだまだある。それらをラシュエルと共に作り上げていくのは、なんだかんだと楽しみなところ。僕たちの子が育つ予定でもあるからね。


「じゃぁね、サミュエル。明日は久し振りの休みでしょ?今日はもうあがってくれて構わないよ。僕も明日の昼過ぎまでラシュエルと部屋から出ない予定だし」

「あ~…はい、それではここで」

「うん、また明後日」


サミュエルを帰して久し振りに訪れた部屋へと入れば、なんだかひどく冷たい空気を感じた。普段ラシュエルと過ごす仮の王太子夫妻用の部屋が恋しくさえ思える。

誰かを裁いたり手にかけたりすることに躊躇いがあるわけではないし、そもそもラシュエルが絡めば無意識にでも相手の息の根を止めている。だけど、僅か心に残る澱のようなものが残り…それは一人で取り除くことが出来ない。

だからと言って、身も清めずにラシュエルの元に戻ろうなど思えないけれど…


「はぁぁぁぁぁ」


湯に浸かると疲れが解れていく。それに、ラシュエルと同じ香りがする石鹸で身を清めるのも、まるでラシュエルが僕の汚れを取り除いてくれているような気がして…感慨深いものがある。

本音を言えばラシュエルに洗ってもらいたい。

こんな時しか使わないこの部屋は通称【浄化部屋】と呼ばれており、僕が手を汚した時にのみ訪れるからラシュエルもまだ知らない場所───


「マリウス」


え?




******



(ラシュエル視点)



今日は、ワンダーゲル公爵家三男とホルン伯爵令嬢の身柄をどうするのか…直接彼らに尋問して結論を出すのだとマリウスから聞いた。

王家の乗っ取り、国家転覆、王族への托卵……複数の罪に問われている彼らは、もう二度と日の目を見ることなく散るのだろう。

わたくしやマリウスを違法な薬物を使い害しようとしたことも鑑みれば、マリウスが簡単に甘い刑罰で終わらせるとも思えない。


『心が乱れるとひとりでゆっくり過ごすんだ』


かつてそう言っていたマリウスは、今夜もひとりでにいるはず。そして、その場所をわたくしには知られていないと思っている。

知らせずに過ごしているならばひとりにさせてあげるべき……そう思う反面、その場所を必要とする理由を考える。


「…行きましょう!!」



******



(戻ってマリウス視点)



「え?ラシュエル??」


あまりにもラシュエルを思い浮かべていたから、思わず幻聴を聞いて幻覚を見ているのか…なんて一瞬だけ思ったけれど、そんなわけもなく。

僕がここを使用することはごく一部の者しか知らなくて、少しばかり混乱している僕の視界に入ってきたのは───


「…ラシュエル……」

「ごめんなさい、勝手なことをして。ひとりになりたいって分かっているの…でも……」

「いいよ、こっちに来て。冷えちゃうから一緒に温まろう、おいで」


一糸纏わぬ姿で現れたラシュエルは、慣れない場所で少し恥ずかしそうにしながらもゆっくりと湯船に浸かり、すっぽりと僕の腕の中に収まった。

今夜は夜勤でパメラが付いているはずだから、きっと部屋の前で待機しているんだろう。サラは着替えを持って部屋のなか??

明後日、サミュエルに何か差し入れでもするか。


「あの……」

「ラシュエル、来てくれてありがとう」


僕の心に残る澱は、人を手にかけた後悔や罪悪感なんかじゃなくて…どこまでも非道になる黒く淀んだ薄汚い濁り。それが取り除けないままだと、いつか人としての自我を失うような気がして怖かった。

愛してやまなくて、決して失えないはずのラシュエルを…いつか自らの手で摘み取ってしまいそうで怖い。だから、せめて見える汚れをひとりで落としてから会いに行っていた。

でも…でも本当は、そんな僕でさえも認めて受け入れて欲しいと思っていて、澱が出来たらラシュエルに取り除いて欲しい。


「僕は人を裁くことに躊躇しない。必要とあれば命を取りあげることだって平気で出来る。まして、ラシュエルを傷付けたり害そうとされたら…自制なんて効かなくて無意識に、だ」


実際、トビアスを無意識に殺すところだった。


「必要なことだから後悔はしないし、罪悪感なんて微塵も感じないんだけど…自分は存外非道なんだって思うと堪らなくなるんだ」

「非道?」

「ラシュエルを愛してるし、絶対に失えない…そう思う反面で、誰かに拐われたり傷つけられてしまうなら…その前に僕自身の手で君のすべてを奪いたくなる。その思いはどろどろしてて、今日みたいな日にそれは止めどなく溢れ出てくるんだ」


すっぽりと収まっているラシュエルを少しだけ引き剥がし、湯で温まって上気しほんのりと赤くなっている肌に指を這わせる。


「ラシュエルが愛するのは僕だけでいいし、ラシュエルに触れることが出来るのも僕だけでいい。言葉を交わすのも目にするのも…全部全部、僕だけでいい。僕だけのものでいてくれないなら…そうすることが不可能なら…いっそ君を殺してしまいたい」

「マリウス…」


細くて、簡単に折れてしまいそうな首に手をかけてもラシュエルは抵抗しない。どこまでも僕を煽り、喜ばせてくれる。


「ラシュエル…僕は、きっといつか君を殺してしまう。それでも傍に居てくれる?」

「いいわよ」


そのあまりにも柔らかい微笑みに、心に生まれていた澱が涙となって流れていくのを感じた。

温かくて華奢なラシュエルの手が、今にも首を絞めようとしている僕の手に重なり…


「マリウスがそうしたいならそうしてくれて構わない。でも、ひとつだけ約束して?」

「…約束?」

「ひとりぼっちは寂しいから、その時はマリウスもすぐに追いかけてきて欲しい」


首から手を離し、少し乱暴にラシュエルを抱き締めた。愛してる…そう言って背に手が回されて、「マリウスが望むなら目も声も要らないわ」とまで言われ、裸で抱き合っているのに性欲なんて微塵も湧かなくて。


「わたくしだって、マリウスをどこまでも独占したいし束縛していたいの…マリウスがわたくしを殺すより先に、わたくしがあなたを殺してしまうかもしれないわ」

「ラシュエルに殺されるなら本望だよ」

「まぁ!わたくし達、似た者同士なんだわっ。わたくしもマリウスに殺されるなら本望ですもの」

「僕が殺すまで傍に居てね、ラシュエル」

「えぇ、もちろん」


互いに互いを殺したいと思っている未来の国王と王妃だなんて、一体誰が思うだろうか。いや、僕達を愛する彼らはきっと聡く気付いているんだろうな。それでも気付いた上で見守って支えてくれている。

だからこそ、僕は愛する人を殺すことなく未来に思いを馳せることが出来るんだ。




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