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押し売りヒーロー
しおりを挟む大流行している恋愛小説は、高位貴族男性と平民女性が身分差に悩みながらも苦難を乗り越え、運命に導かれて結ばれる物語。
僕に言わせれば現実離れしているとしか。
家同士が結んだ婚約を勝手に破棄するとかまず有り得ず、平民の浮気相手を選んでも立場が変わらないとか周囲に祝福されるとか…どれだけお花畑な内容なんだと作者を問い詰めたい。
だが、人気は高く舞台化もされている。
多くの女性は一途に追いかけられる側の立場に憧れ、望まぬ政略結婚から救い出してくれる…そんな貴公子が自分にもいたらどうしようと妄想を膨らませているそうだ。
で、ラシュエルが泣いた理由は直前に友人の婚約破棄を知らされたからなのだけど、僕が心を移したらどうしよう…悪役令嬢にされたらどうしよう…と不安に駆られたらしい。
「編入生のアイシャさんを支えてあげたいんですって…」
「そっか。ほら、これも食べて。美味しいよ」
友人の婚約者が小説に感化されて、婚約破棄を突きつけてきたという。
ラシュエルは友人の心情を思って落ち込んでしまい、膝の上での給餌も恥ずかしがるどころか甘えモード全開。口調も砕けている。
用意されたサンドイッチを小さくして口に運べば、僕に凭れながら素直に口を開く…これはこれで可愛くて楽しい。
「相手の編入生もそれを望んでるの?」
「ううん…ユリフィナはそんなはずないって言ってた。他のご令嬢達も、アイシャさんはそんな事を望む人じゃないって」
「じゃぁ、善意の押し売りをしてるだけ?なんとも厄介だし迷惑な話だな。はい、これも食べようね。美味しい?」
「……うん……おいし…」
ゆっくり咀嚼して飲み込むと、もうお腹いっぱいと言って肩口にぐりぐりと顔を埋めてきた。
三角サンドイッチを半分食べただけ。
甘えてくれるのは可愛いけど食欲が無いのは心配で、かといってこうなると頑ななのも知っているから無理強いはしない。
あとで甘いお菓子でも食べさせよう。
「……マリウス様……好き…」
「僕も大好きだよ」
ひたすら甘えてくるラシュエルを抱き締めポンポンしつつ、内心で盛大に不快な溜め息を吐く。
勿論、ラシュエルに向けてではない。
ヒーロー気取りがやらかしたなんとも身勝手な押し売りだけれど、ここまでラシュエルが落ち込む理由は他にもあった。
少し前からチェルシーの婚約者が病に伏しており、あまり良くない状況にあるという。
もし亡くなるような事があれば新しい婚約者を探す必要があり、チェルシーの母親が俺の妃にと今から申し出ているらしい。
僕じゃなくとも他にいくらでもいるじゃないかと思うけど、チェルシーの母親は強い選民思想持ちだった事を思い出してげんなりする。
「………わたくし…自分がこんなにも狭量な人間だとは思わなかった…辛い思いをしているのはチェルシー様なのに…マリウス様のお嫁さんになれないかもって思ったら…わたくし……っ…」
既に“王家の裏”を知るラシュエルが婚約者から外れたら、その先に待つのは死のみ。
けれどこうして泣いてるのはその事が原因ではなく、あくまでも僕と結婚出来なかった時の事を考えてのこと。
それが堪らなく嬉しい。
「大丈夫だよ、ラシュエル。僕のお嫁さんになるのは君以外にいないんだから」
「でも……」
「ラシュエルとの結婚を望んだのは他ならぬ僕だけど、それはラシュエルの事が好きで好きで仕方ないから。他の男に渡すくらいなら死んでやるって父上に宣言したんだ。知ってるよね?」
3歳の息子に死ぬと脅された父上は、一体どんな気持ちだったのか…今度聞いてみようかな。
「それにラシュエルとの婚約には政治的意味も含まれているし、誰よりもこの国に利益を齎してくれる婚約なんだよ。これも分かってるよね?」
「…………うん…」
「だから他の人を選ぶなんて有り得ない。傍にいて欲しいのもいたいのもラシュエルだけだよ。ふたりでこの国をより良くするんでしょ?」
ラシュエルが傷付いて「こんな国いらない」って言えば迷いもなく捨てるけど。
「まだ目元が赤い。冷やしておこう」
「ぃゃっ…」
冷たいタオルで覆おうとすれば振り払われ、僕の姿が見えなくなるのが嫌だと駄々をこねた。
可愛い…可愛すぎるんだけど、放置したら腫れが残ってしまうから認められない。
「大丈夫、僕はちゃんとここにいるから。こうして抱き締めてるから分かるでしょ?」
「…………やだ……マリウス様…キスして」
「可愛いけどダメ、ちゃんと冷やして。大人しく冷やさせてくれたらキスしてあげるから」
ポッと頬を赤く染めて、しずしずと自ら目元にタオルを乗せたので約束通り唇を重ねる。
激しくしてしまうとタオルが落ちてしまうから優しくゆっくり舌を絡めていると、ラシュエルの唇から甘く熱い吐息が漏れた。
指先ですっと腰をなぞればいつもより感度は抜群で、今度は目隠しで可愛がろうと決めた。
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