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②再会する男(前編) side夫
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交易を手掛ける家の息子として、周辺諸国を遊学して久し振りに帰国した。
侯爵家嫡男でありながら婚約者がいないと知れ渡ると、山のように届く釣書に辟易する。
結婚などするつもりはない。
適当にあしらい、期待などさせぬように冷徹な態度を貫けば、やがて釣書は減っていった。
「お前、そのキャラ勿体ないぞ。選り取り見取りなんだろ?デートくらいしてやればいいのに」
「別にいいだろ。興味ない」
「そんな態度だから、実は男が好きなんじゃないかとまで言われてるぞ?」
「それでもいいよ」
気の置けない友人達と過ごす時間は有意義で、自国での人脈作りの為に多くの夜会へ顔を出した。
始めこそ会場に着いた途端囲まれていたが、“女嫌い”とまで噂された事で諦めたのか、近付いてくる女も殆どいない。
だから油断した。
父の親友であり昔馴染みの公爵家主催の夜会で、
明らかに媚薬と思われる薬を盛られた。
一体いつ混入されたのか…そんな事を考えるも思考は纏まらず、強烈に火照る体をなんとかしようと休憩室へ向かう。
侍従が中まで付き添うと言ったが、ひとり慰めるところを見られるのが嫌で、放っておいてほしいと言い鍵を閉めた。
……はずだった。
「あぁっ!!アベルさま……っ!!」
突然見知らぬ女が現れ、抗おうにも体は痺れて言うことを聞かず…そんな俺を嘲笑うように、女は卑しい笑みを浮かべて俺を飲み込んだ。
一心不乱に腰を振り、愉悦に顔を染める女が気持ち悪いと思うのに、与えられる刺激は全て快楽へと変わってしまう。
突き飛ばしてやろうと持ち上げた手には力が入らず、いとも簡単に押さえ込まれた。
屈辱でしかない。
無理やり唇を重ねられ、舌が差し込まれた時は本気で噛み殺してやろうとさえ思ったが、世話になっている公爵家で殺人など醜聞になる。
いくら王家に重宝されている侯爵家と言えど、話が湾曲して流れてしまえば大打撃だ。
他国との交易に差し支えてしまう。
恥だろうがなんだろうが侍従に付き添わせれば良かったと後悔しても、時既に遅し。
女も薬を飲んでいるのか、尋常ではない動きで俺に精を吐き出させようとしている。
必死に耐えるが、どうしても抗いきれない。
「やめっ、、ろ…どけ……ッ!!」
劣情を抑え込もうとする理性を本能に捩じ伏せられ、無情にも俺の精は女の中へと流れ込んだ。
薬のせいかその量は大量で、卑しい女らしく蠢く肉襞に搾り取られる。
それでも尚、昂りは収まらない。
「これで貴方は私のもの」
嬉しそうに下卑な笑みを浮かべ、意味ありげに下腹部を撫でる女へ沸いたのは怒り。
それでも女を払いのける力はなく、衰える気配のない俺のものは次の吐精準備を始めてしまう。
女は再び腰を動かし始め、その後も俺は幾度となく高みにあげられ子種を搾り取られた。
それから始まった悪夢。
女と情を交わした事は箝口令を敷いたものの、やはり完全に封じることなど出来ない。
避妊薬を飲むことも拒否され、あまり無下にすると暴行を働いたと俺が罪に問われる。
女が薬を仕込んだ証拠は見つからず、むしろ破瓜と妊娠の可能性がある事に対して、責任を取る形で婚約を結んだ。
女は盛大な式を望んだが、どうして受け入れられると思えるのだろうか。
父親である伯爵はしきりに頭を下げていたが、どんな教育をしたのだと怒鳴り付けた。
顔色を失う家族の前で、女だけは笑顔。
「お腹が大きい状態を見せつけるのも、牽制になるからいいと思ったのに…でもまぁ、結婚式は生まれてからでもいいわ」
そう言っては腹を擦る姿に吐き気がした。
こんな女から生まれた子供など愛せない。
そもそも、生まれてくる子供が本当に俺の子とも限らないとなり、婚約はしたが婚姻を結ぶのは実際に生まれてから。
「婚姻は、確実に俺の子だと確認されてからだ」
遊学先の国で、親子の血縁関係を立証する仕組みが開発されていたのを思い出した。
出産の時期に合わせて来てくれるよう手配し、俺はひたすら、血縁関係のない子供である事だけを祈って過ごしていた。
それから月日は流れ、王宮内に構えている執務室へ届けられた出産の報せ。
そこには俺の子供だという旨の記載がされていたが、なかなか会う気になれなかった。
数日が経ち…曲がりなりにも自分の血を分けているのだから、子供にだけは会おうと帰宅し、女とは離れた部屋に連れてきてもらう。
「お連れ致しました」
乳母が連れてきた息子を抱いた時、それまで決して愛せないと思っていた気持ちが霧散した。
父親である本能なのだろうか。
小さくてか弱い存在が愛しくなり、俺の指を弱々しく握り締めてきた息子に愛情が沸いた。
「お名前はいかが致しますか?」
国の習わしで、子供の名前は父親が決める。
俺も幾つか候補を考えてはいた。
「……リディル」
遊学先の国にあった古からの伝承。
【幸福をもたらす神リディル】
腹の子さえいなければ…と思い、不幸のどん底に落とされた気分だった。
女の事は生涯許さないし憎いが、息子は違う。
「リディル様…よきお名前ですね」
「あぁ……ありがとう」
そう言って笑みを浮かべた側近の様子に、俺の頬は緩む。
ずっと心配と心労をかけてきた。
俺が油断し招いた結果だと言うのに、自分が側についていればと悔やみ続けてきたベントレ。
あの日は父からの命を受けて領地にいた。
代わりの者はいたが、俺がひとりにしてほしいと頼んで外させたんだ…ベントレに責任はない。
「本日はいかがなさいますか?」
かれこれ数ヶ月、まともに帰宅していない。
必要な執務を行うだけに戻り、とんぼ返り。
それもなるべく女に悟られないようにしていた。
妊娠しているというのに、体の関係をねだる様子が気持ち悪くて仕方なかったのもある。
「今日は王宮に戻る」
「畏まりました」
これからは、息子の様子を見る為だけに来よう。
*~*~*~*~*~*
「アベル、最近ご機嫌だな」
つい顔の筋肉が緩みがちなのを、執務補佐のハンスに揶揄われて思わず睨んだ。
「最近、息子が話すようになってな」
「もうそんなになったか。子供の成長は本当に早いよなぁ。あとで顔だしてみるか」
「喜ぶよ」
息子は殆ど俺の私室で過ごしている。
最近は、王太子殿下の末王子と仲良く中庭で遊んでいるとも報告があった。
言葉らしきものを発するようになった息子の可愛さは増しており、それに伴い俺の中に芽生えた愛情も大きくなっている。
しかし、あの女とは相変わらずだ。
昨夜は薄い夜着一枚で玄関先に現れ、思わず逃げるように屋敷を飛び出した。
「そういえば、聞いたか?アベルが遊学していたプラナ王国出身の侍女がいるって話」
「……知らない」
女性の話になど興味はないが、“プラナ王国”という言葉に反応をしそうになり、ぐっと堪えた。
【リディル神】の伝承がある国。
「なかなか可愛いらしい」
「……奥さんに言うぞ」
「いやいや、噂の話。綺麗なシルバーグレーの髪で、瞳は珍しく水色なんだと」
ひとりの女性が思い浮かび、ドキリとした。
シルバーグレーの髪はよく見かける。
だけど水色の瞳はそういない。
「華奢なのに女性らしい曲線をしているとかで、男共が騒いでるそうだ」
プラナ出身で水色の瞳……
違う……だって“彼女”の髪色は……
「名前はなんだっけかなぁ…マリ…いや違うな…そうじゃなくて…あっ!!リリアンヌだ」
今度こそ動揺した。
プラナ王国出身の“リリアンヌ”…水色の瞳。
「どうした?」
「……っ、、いや、なんでもない」
「なかなか気立てのいい子らしいぞ。独身の奴等が、婚約者や恋人がいるのか探りを入れてる」
“彼女”である確証もないのに、その情報に思わず怒りが沸いた。
と同時に、疑問が浮かぶ。
だって“彼女”は……
プラナ王国の第二王子と婚約していたはずだ。
侯爵家嫡男でありながら婚約者がいないと知れ渡ると、山のように届く釣書に辟易する。
結婚などするつもりはない。
適当にあしらい、期待などさせぬように冷徹な態度を貫けば、やがて釣書は減っていった。
「お前、そのキャラ勿体ないぞ。選り取り見取りなんだろ?デートくらいしてやればいいのに」
「別にいいだろ。興味ない」
「そんな態度だから、実は男が好きなんじゃないかとまで言われてるぞ?」
「それでもいいよ」
気の置けない友人達と過ごす時間は有意義で、自国での人脈作りの為に多くの夜会へ顔を出した。
始めこそ会場に着いた途端囲まれていたが、“女嫌い”とまで噂された事で諦めたのか、近付いてくる女も殆どいない。
だから油断した。
父の親友であり昔馴染みの公爵家主催の夜会で、
明らかに媚薬と思われる薬を盛られた。
一体いつ混入されたのか…そんな事を考えるも思考は纏まらず、強烈に火照る体をなんとかしようと休憩室へ向かう。
侍従が中まで付き添うと言ったが、ひとり慰めるところを見られるのが嫌で、放っておいてほしいと言い鍵を閉めた。
……はずだった。
「あぁっ!!アベルさま……っ!!」
突然見知らぬ女が現れ、抗おうにも体は痺れて言うことを聞かず…そんな俺を嘲笑うように、女は卑しい笑みを浮かべて俺を飲み込んだ。
一心不乱に腰を振り、愉悦に顔を染める女が気持ち悪いと思うのに、与えられる刺激は全て快楽へと変わってしまう。
突き飛ばしてやろうと持ち上げた手には力が入らず、いとも簡単に押さえ込まれた。
屈辱でしかない。
無理やり唇を重ねられ、舌が差し込まれた時は本気で噛み殺してやろうとさえ思ったが、世話になっている公爵家で殺人など醜聞になる。
いくら王家に重宝されている侯爵家と言えど、話が湾曲して流れてしまえば大打撃だ。
他国との交易に差し支えてしまう。
恥だろうがなんだろうが侍従に付き添わせれば良かったと後悔しても、時既に遅し。
女も薬を飲んでいるのか、尋常ではない動きで俺に精を吐き出させようとしている。
必死に耐えるが、どうしても抗いきれない。
「やめっ、、ろ…どけ……ッ!!」
劣情を抑え込もうとする理性を本能に捩じ伏せられ、無情にも俺の精は女の中へと流れ込んだ。
薬のせいかその量は大量で、卑しい女らしく蠢く肉襞に搾り取られる。
それでも尚、昂りは収まらない。
「これで貴方は私のもの」
嬉しそうに下卑な笑みを浮かべ、意味ありげに下腹部を撫でる女へ沸いたのは怒り。
それでも女を払いのける力はなく、衰える気配のない俺のものは次の吐精準備を始めてしまう。
女は再び腰を動かし始め、その後も俺は幾度となく高みにあげられ子種を搾り取られた。
それから始まった悪夢。
女と情を交わした事は箝口令を敷いたものの、やはり完全に封じることなど出来ない。
避妊薬を飲むことも拒否され、あまり無下にすると暴行を働いたと俺が罪に問われる。
女が薬を仕込んだ証拠は見つからず、むしろ破瓜と妊娠の可能性がある事に対して、責任を取る形で婚約を結んだ。
女は盛大な式を望んだが、どうして受け入れられると思えるのだろうか。
父親である伯爵はしきりに頭を下げていたが、どんな教育をしたのだと怒鳴り付けた。
顔色を失う家族の前で、女だけは笑顔。
「お腹が大きい状態を見せつけるのも、牽制になるからいいと思ったのに…でもまぁ、結婚式は生まれてからでもいいわ」
そう言っては腹を擦る姿に吐き気がした。
こんな女から生まれた子供など愛せない。
そもそも、生まれてくる子供が本当に俺の子とも限らないとなり、婚約はしたが婚姻を結ぶのは実際に生まれてから。
「婚姻は、確実に俺の子だと確認されてからだ」
遊学先の国で、親子の血縁関係を立証する仕組みが開発されていたのを思い出した。
出産の時期に合わせて来てくれるよう手配し、俺はひたすら、血縁関係のない子供である事だけを祈って過ごしていた。
それから月日は流れ、王宮内に構えている執務室へ届けられた出産の報せ。
そこには俺の子供だという旨の記載がされていたが、なかなか会う気になれなかった。
数日が経ち…曲がりなりにも自分の血を分けているのだから、子供にだけは会おうと帰宅し、女とは離れた部屋に連れてきてもらう。
「お連れ致しました」
乳母が連れてきた息子を抱いた時、それまで決して愛せないと思っていた気持ちが霧散した。
父親である本能なのだろうか。
小さくてか弱い存在が愛しくなり、俺の指を弱々しく握り締めてきた息子に愛情が沸いた。
「お名前はいかが致しますか?」
国の習わしで、子供の名前は父親が決める。
俺も幾つか候補を考えてはいた。
「……リディル」
遊学先の国にあった古からの伝承。
【幸福をもたらす神リディル】
腹の子さえいなければ…と思い、不幸のどん底に落とされた気分だった。
女の事は生涯許さないし憎いが、息子は違う。
「リディル様…よきお名前ですね」
「あぁ……ありがとう」
そう言って笑みを浮かべた側近の様子に、俺の頬は緩む。
ずっと心配と心労をかけてきた。
俺が油断し招いた結果だと言うのに、自分が側についていればと悔やみ続けてきたベントレ。
あの日は父からの命を受けて領地にいた。
代わりの者はいたが、俺がひとりにしてほしいと頼んで外させたんだ…ベントレに責任はない。
「本日はいかがなさいますか?」
かれこれ数ヶ月、まともに帰宅していない。
必要な執務を行うだけに戻り、とんぼ返り。
それもなるべく女に悟られないようにしていた。
妊娠しているというのに、体の関係をねだる様子が気持ち悪くて仕方なかったのもある。
「今日は王宮に戻る」
「畏まりました」
これからは、息子の様子を見る為だけに来よう。
*~*~*~*~*~*
「アベル、最近ご機嫌だな」
つい顔の筋肉が緩みがちなのを、執務補佐のハンスに揶揄われて思わず睨んだ。
「最近、息子が話すようになってな」
「もうそんなになったか。子供の成長は本当に早いよなぁ。あとで顔だしてみるか」
「喜ぶよ」
息子は殆ど俺の私室で過ごしている。
最近は、王太子殿下の末王子と仲良く中庭で遊んでいるとも報告があった。
言葉らしきものを発するようになった息子の可愛さは増しており、それに伴い俺の中に芽生えた愛情も大きくなっている。
しかし、あの女とは相変わらずだ。
昨夜は薄い夜着一枚で玄関先に現れ、思わず逃げるように屋敷を飛び出した。
「そういえば、聞いたか?アベルが遊学していたプラナ王国出身の侍女がいるって話」
「……知らない」
女性の話になど興味はないが、“プラナ王国”という言葉に反応をしそうになり、ぐっと堪えた。
【リディル神】の伝承がある国。
「なかなか可愛いらしい」
「……奥さんに言うぞ」
「いやいや、噂の話。綺麗なシルバーグレーの髪で、瞳は珍しく水色なんだと」
ひとりの女性が思い浮かび、ドキリとした。
シルバーグレーの髪はよく見かける。
だけど水色の瞳はそういない。
「華奢なのに女性らしい曲線をしているとかで、男共が騒いでるそうだ」
プラナ出身で水色の瞳……
違う……だって“彼女”の髪色は……
「名前はなんだっけかなぁ…マリ…いや違うな…そうじゃなくて…あっ!!リリアンヌだ」
今度こそ動揺した。
プラナ王国出身の“リリアンヌ”…水色の瞳。
「どうした?」
「……っ、、いや、なんでもない」
「なかなか気立てのいい子らしいぞ。独身の奴等が、婚約者や恋人がいるのか探りを入れてる」
“彼女”である確証もないのに、その情報に思わず怒りが沸いた。
と同時に、疑問が浮かぶ。
だって“彼女”は……
プラナ王国の第二王子と婚約していたはずだ。
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