【完結】365日後の花言葉

Ringo

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プロローグ

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大陸一の大国であるラシュエル王国の筆頭貴族サンドリヨン公爵家嫡男フリードリヒ、それが私の大好きな婚約者。

背中まである輝く金髪を緩く纏め、切れ長の涼やかなエメラルド色の瞳を持つ美丈夫である彼は、幼い頃からご令嬢やご夫人から熱い視線を送られていた。

国内はもとより他国の王族からの求婚も多い中、彼が強く望んだからと言うシンプルな理由で婚約が結ばれたのは、家族に溺愛されてのびのびと領地で育ったプルミア侯爵家長女の私、ジュリエンヌ。

爵位も政略的にも申し分なく、父親同士が級友と言うことも手伝い滞りなく結ばれた私達の婚約。

初めてのお茶会で一目惚れした私は、6歳で出逢ったあの日から10年変わらず彼のことを愛し、やがて迎える結婚式を楽しみにしていた。

夢にまで見ていた結婚式を3ヶ月後に控えたある日、私達はモナクール公爵家で開かれた夜会に参加していて、最近覚え始めたワインに舌鼓を打ちながら心地よい時間を過ごし、それぞれの友人達と楽しいひとときを楽しんだ。

そろそろ帰ろうかな……そう思い彼の姿を探すもホール内には見当たらず、夜風にでもあたっているのかと公爵家自慢の庭園に足を運んだところで、人気のない奥の小さな四阿のベンチに座る愛しい後ろ姿を見付けられた。


「フリー……」


彼の名前を呼び掛けて、四阿に絡まる蔦に隠れていたもうひとりの存在に気が付く。

公爵家嫡男でありながらも鍛えられた彼の体に寄り添うように凭れる、淡い緑色のドレスを着た銀髪のご令嬢。

雲ひとつない空からは月の光が照らされており、まるでお伽噺に出てくる恋人同士のような雰囲気を醸し出しているふたり。


(ナチュリシア公爵家のマリーベル様…っ)


彼女の存在はラシュエル王国に住む令嬢や令息の憧れであり、その美貌と教養の高さは他国にも名を響かせているほど。

その彼女が今夜の夜会に選んだドレスは淡い緑…施された刺繍はゴールドとエメラルド色の小花だった。

誰が見ても一目で分かる……憧憬の淑女と呼ばれる彼女が誰を愛しており、誰の心を求めているのか。


(なに……してるの?)


ぴったりと寄り添い、腕を絡めて凭れるマリーベル様の頭に自身の頭を傾けて乗せている婚約者…その姿が信じられなくて、ズキズキと胸が痛み出して息が苦しくなる。


(なに…を……)


ただ寄り添い座っているだけだったふたりが…マリーベル様が少し身動ぎ……彼の頬に手を添えるのが分かった。


(…なに……やめて…)


まるでふたりの為に用意されたような柔らかな月明かりに照らされ、少しずつ近付くふたりの顔。


(やめて……やめて…っ)


胸の痛みは強くなり、もう息が出来ているのか分からないほどに苦しくて…駆け出したいのに足は動かず、劇の一幕を見ているような感覚に襲われる。


「……っ」


声にならない声を出した時、一瞬だけマリーベル様の視線がこちらに向き……少し驚いたような反応のあと、寂しそうに眉を下げ……


(やめてっ)


ピンクゴールドの潤んだ瞳のまま私に微笑み……彼の頬に両手を添えて口付けた。


「……っ!!」


止まる時間。


何が起こっているのか分からず、付き添いで来ていた侍女ミーシャに支えられたことで、その場にしゃがみこんでしまったことに気が付いた。


「ジュリエンヌ様っ!!……っ!なにをっ…!!」


私の視線の先を追ったミーシャの大きくないまでも低く響いた声に反応したのか、それまで口付けたままでいたフリードリヒが身動ぐ。


「………マリーベル嬢?……なにっ…」


至近距離で未だ両頬に添えられたままの手を振り払うも、勢いよく胸に飛び込まれて抱き止める形となったフリードリヒ。


「ちょ…マリーベル嬢っ……!!ジュリ……なんでっ!離してくれ!!違う!ジュリエンヌ!違うんだ!!…っ、マリーベル嬢!!離れてくれっ、、」


何が違うのか、何が起きているのか分からない。

私の婚約者が目の前でほかのご令嬢と口付けをし、今なお胸に抱き止めているのが真実ではないのか…

彼が何かを訴えるようにこちらへ向けて声をあげているが、深く傷を刻んだ心はそのすべてを拒絶した。


「…ミー……シャ…かえり……たい……」

「……っ、畏まりました」


体中の水分がなくなるんじゃないかと思えるほどに涙は止めどなく溢れ、ミーシャに支えられてゆっくりと歩みを進める。

幼馴染みの家でもあるモナクール公爵家、まだ人の多いホールは通らずに外に出る道は熟知しており、念の為に肌寒さを避けられるようミーシャが用意してくれていた薄いショールを頭から被り、待機していたプルミア侯爵家の馬車に乗り込んだ。


「…ミーシャ……っ」


幼い頃から仕えてくれている8歳年上のミーシャは私にとって姉のような存在で……帰り道の馬車の中、優しく抱き締めてくれるその腕のなかで私は泣き続けた。





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