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下賜されない廃妃 side夫
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「王太子殿下とカロライナ妃の離縁を議会にて承認し、只今をもって王太子妃の称号を廃す。退去は一月後迄の猶予を与える。また、ミリナリア第一側妃を新たに王太子妃とし、称号授与の義は二月後とする」
議長の言葉に皆が頷く…ただ一人、只今をもって元王太子妃となったカロライナ嬢の父オークランド伯爵を除いて。
婚姻時の契約通り、王家融資で進めてきた事業の全権と収入は王家へ譲渡されるため、伯爵に残されたのは爵位と小さな領地のみ。
伯爵としては、まさかカロライナ嬢が長期に渡り執務を放り投げてまで、殿下に執着するとは想定していなかったのだろう。
皆が順々に席を立つなか、伯爵は椅子に座ったまま肩を落として無気力な様子を見せている。
今までも子が出来ずに廃妃となった例はあるが、その殆どが高位貴族へと下賜されてきた。
伯爵も最後まで離縁を回避すべく粘っていたが、限界だと分かるや否や貰い手を探し回り申し入れるものの、その全てから断られた。
王家が必ず下賜するとは限らない…その前例も歴史上あるにはあるのだから、カロライナ嬢にも起こり得るとは思わなかったのだろうか。
……娘可愛さというやつか?
王家が廃妃の下賜を誰にも命じないという事は、今後一切の関係を断つことを意味する。
つまりは【厄介払いされた女】なのだ。
そのような廃妃を受け入れようものなら、多くの貴族に付き合いを切られるだろう。
ミリナリア第一側妃が早々にご懐妊され、第二第三の側妃として娶られた女性達も続々とご懐妊されたことで、カロライナ嬢が不妊であるということも証明されてしまった。
加えて執務を放棄し横暴な振る舞いを続けていたことも、今では広く知られている。
カロライナ嬢に残されたのは実家に身を寄せ、表舞台から姿を消すことだけだ。
万が一にでも夜会や舞踏会に顔を出したとして、その相手をする者はいない。
そして渦中の人物でもある殿下とミリナリア妃だが…解散が告げられると同時に、仲睦まじくふたり揃って退出している。
ミリナリア妃の悪阻も治まり、医師から許可が下りたことで殿下のお渡りが再開された。
第二第三…いや、繰り上げで第一第二側妃か。
彼女達との許可が下りるまでは、殿下の寝室はミリナリア妃の部屋に固定されることだろう。
正直…ミリナリア妃達が懐妊したことで、まだ廃妃決定ではないしカロライナ嬢の元に通うのか?と邪推したこともあったが、そうはならず。
側妃達の懐妊とお渡り無しの状況に、カロライナ嬢の癇癪は悪化し酷いものだった。
何度か離宮を抜け出し殿下の元へ行こうとしたことで、今は監禁に近い軟禁をされている。
殿下は側妃こそ持つが浮気はしない。
そして、ミリナリア妃は他の側妃達とその使用人達をうまくまとめ後宮を掌握している。
徹底された王族教育を受けてきたからこその賜物なのだろうが、やはり殿下が他の側妃達の寝室に滞在されている時は寂しそうだった。
まぁ、だからと言って俺には何も出来ないしするつもりもないから、口を挟むことはしない。
妻以外に興味がないというのが一番の理由だが、俺にしてみれば、国の為になるなら誰が妃になろと構わない…としか思えないから。
それがひいては俺達家族の幸せにも繋がる。
「ハーネスト公爵」
人もまばらになってきたので俺もそろそろ退出しようと腰をあげた時、先程まで悲痛な面持ちで項垂れていた伯爵が声をかけてきた。
面倒な予感しかしない。
◇◇◇◇◇◇
「ベルエア!!」
滅多にない単騎での帰宅に驚く使用人達の視線を振り切りながら、外套も脱がず一目散に妻の部屋へと走り勢いよく扉を開け放った。
想定外であろう早い帰宅に、妻は目を真ん丸に見開き驚いている。
そんな姿も可愛い…と思うが、いやいやそれどころではないと抱き締める。
背中に手が回されるが、心はざわめいたまま。
「お帰りなさいませ。随分とお早いお帰りなんですね、お迎えも出来ず申し訳ありません」
「いいんだ、連絡していないのだから」
「どうかなさいました?」
優しく背中を擦られ、その気遣いに妻への想いが再燃する…と同時に怒りも再燃した。
忌々しいオークランド伯爵の顔と共に。
「ベルエア…何を言われた?」
ビクッ…という妻の反応に、頭に血がのぼった。
「……ぶっ殺す」
「っ、、待って、ダメ!」
妻から身を離し、部屋に置いてある剣を手に取り出ていこうとすると腕を引かれた。
いくら怒りに駆られようと、愛する妻の手を振り払うような事は出来ない。
だが、自分で落とし前をつけないと怒りを収められる気もしない。
「ベル…離して」
「ダメ、離さない。行っちゃダメ!」
言い終えると同時にぎゅっと抱きつかれ、この台詞が閨での事ならどれだけ幸せなことか…などふざけたことを考えてしまった。
そして妻の抱きつく力は思いの外強い。
「ベルエア…これは公爵としても許せない。俺を馬鹿にしているし、何よりベルエアの事を軽んじ過ぎている…それこそ許せない」
議会終了後にオークランド伯爵から言われた台詞が頭から離れない。
『帝国の皇太子がベルエア夫人を望まれているとお聞きしました。ベルエア夫人が帝国へ移られるなら、カロライナを後添えにするというのは如何でしょうか』
ダメだ、やはり殺す。
議長の言葉に皆が頷く…ただ一人、只今をもって元王太子妃となったカロライナ嬢の父オークランド伯爵を除いて。
婚姻時の契約通り、王家融資で進めてきた事業の全権と収入は王家へ譲渡されるため、伯爵に残されたのは爵位と小さな領地のみ。
伯爵としては、まさかカロライナ嬢が長期に渡り執務を放り投げてまで、殿下に執着するとは想定していなかったのだろう。
皆が順々に席を立つなか、伯爵は椅子に座ったまま肩を落として無気力な様子を見せている。
今までも子が出来ずに廃妃となった例はあるが、その殆どが高位貴族へと下賜されてきた。
伯爵も最後まで離縁を回避すべく粘っていたが、限界だと分かるや否や貰い手を探し回り申し入れるものの、その全てから断られた。
王家が必ず下賜するとは限らない…その前例も歴史上あるにはあるのだから、カロライナ嬢にも起こり得るとは思わなかったのだろうか。
……娘可愛さというやつか?
王家が廃妃の下賜を誰にも命じないという事は、今後一切の関係を断つことを意味する。
つまりは【厄介払いされた女】なのだ。
そのような廃妃を受け入れようものなら、多くの貴族に付き合いを切られるだろう。
ミリナリア第一側妃が早々にご懐妊され、第二第三の側妃として娶られた女性達も続々とご懐妊されたことで、カロライナ嬢が不妊であるということも証明されてしまった。
加えて執務を放棄し横暴な振る舞いを続けていたことも、今では広く知られている。
カロライナ嬢に残されたのは実家に身を寄せ、表舞台から姿を消すことだけだ。
万が一にでも夜会や舞踏会に顔を出したとして、その相手をする者はいない。
そして渦中の人物でもある殿下とミリナリア妃だが…解散が告げられると同時に、仲睦まじくふたり揃って退出している。
ミリナリア妃の悪阻も治まり、医師から許可が下りたことで殿下のお渡りが再開された。
第二第三…いや、繰り上げで第一第二側妃か。
彼女達との許可が下りるまでは、殿下の寝室はミリナリア妃の部屋に固定されることだろう。
正直…ミリナリア妃達が懐妊したことで、まだ廃妃決定ではないしカロライナ嬢の元に通うのか?と邪推したこともあったが、そうはならず。
側妃達の懐妊とお渡り無しの状況に、カロライナ嬢の癇癪は悪化し酷いものだった。
何度か離宮を抜け出し殿下の元へ行こうとしたことで、今は監禁に近い軟禁をされている。
殿下は側妃こそ持つが浮気はしない。
そして、ミリナリア妃は他の側妃達とその使用人達をうまくまとめ後宮を掌握している。
徹底された王族教育を受けてきたからこその賜物なのだろうが、やはり殿下が他の側妃達の寝室に滞在されている時は寂しそうだった。
まぁ、だからと言って俺には何も出来ないしするつもりもないから、口を挟むことはしない。
妻以外に興味がないというのが一番の理由だが、俺にしてみれば、国の為になるなら誰が妃になろと構わない…としか思えないから。
それがひいては俺達家族の幸せにも繋がる。
「ハーネスト公爵」
人もまばらになってきたので俺もそろそろ退出しようと腰をあげた時、先程まで悲痛な面持ちで項垂れていた伯爵が声をかけてきた。
面倒な予感しかしない。
◇◇◇◇◇◇
「ベルエア!!」
滅多にない単騎での帰宅に驚く使用人達の視線を振り切りながら、外套も脱がず一目散に妻の部屋へと走り勢いよく扉を開け放った。
想定外であろう早い帰宅に、妻は目を真ん丸に見開き驚いている。
そんな姿も可愛い…と思うが、いやいやそれどころではないと抱き締める。
背中に手が回されるが、心はざわめいたまま。
「お帰りなさいませ。随分とお早いお帰りなんですね、お迎えも出来ず申し訳ありません」
「いいんだ、連絡していないのだから」
「どうかなさいました?」
優しく背中を擦られ、その気遣いに妻への想いが再燃する…と同時に怒りも再燃した。
忌々しいオークランド伯爵の顔と共に。
「ベルエア…何を言われた?」
ビクッ…という妻の反応に、頭に血がのぼった。
「……ぶっ殺す」
「っ、、待って、ダメ!」
妻から身を離し、部屋に置いてある剣を手に取り出ていこうとすると腕を引かれた。
いくら怒りに駆られようと、愛する妻の手を振り払うような事は出来ない。
だが、自分で落とし前をつけないと怒りを収められる気もしない。
「ベル…離して」
「ダメ、離さない。行っちゃダメ!」
言い終えると同時にぎゅっと抱きつかれ、この台詞が閨での事ならどれだけ幸せなことか…などふざけたことを考えてしまった。
そして妻の抱きつく力は思いの外強い。
「ベルエア…これは公爵としても許せない。俺を馬鹿にしているし、何よりベルエアの事を軽んじ過ぎている…それこそ許せない」
議会終了後にオークランド伯爵から言われた台詞が頭から離れない。
『帝国の皇太子がベルエア夫人を望まれているとお聞きしました。ベルエア夫人が帝国へ移られるなら、カロライナを後添えにするというのは如何でしょうか』
ダメだ、やはり殺す。
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