上 下
5 / 12

元妻《前編》

しおりを挟む
 𓂃𓈒𓏸︎︎︎︎



 紗也加と再婚してからの翔太郎はご機嫌続き。



「......可愛いなぁ.........」


 今日も今日とて、ふと目を覚ました時に愛する女性が腕の中にいることが嬉しくて仕方ない。

 昨夜は休み前夜だからと深く愛し合い、そのまま眠ってしまったふたりは何も纏っておらず、肌が直接触れ合えば余韻と熱がぶり返す。


「紗也加」


 小さく声をかけてみるが反応はなく、時計を見ればまだ明け方。

 生理現象も手伝って下半身は元気一杯。

 そっと紗也加の秘所に手を伸ばせばくちゅりと音が響いて、それが昨夜散々に吐き出したものだと分かり体が熱くなる。

 幸いにも娘は友人宅に泊まりがけで不在にしており、朝から夫婦でのんびり過ごそうと誰に迷惑をかけるでもないのだから。

 しかも裸のまま。

 そう出来るのもオマセな友人に影響を受けた娘が『あたしもひとりでねる!!』と言い出したからで、そんな娘に感謝しつつ愛し合う日々。

 幼いながらに元妻との離婚前は不穏な空気を察してあまり笑わなかった娘も、紗也加と交流を持つようになってからはよく笑うようになり、今では子供らしい笑い声が響く家庭となった。

 『まだ幼い子供には母親が必要』『離婚は考え直した方がいい』と言う者もいたが、あのまま元妻と婚姻関係を継続し続ける方が悪影響だったのだと断言できる。


「...ん......」


 色々と思考を巡らせながらもついつい悪戯に手を動かしていると、静かに寝息を立てていた紗也加がもぞもぞと身じろいだ。


「………...なんじ...?」

「起こしちゃったね、ごめん。まだ5時前だよ」

「...そぅ...」


 このままあわよくば...と思ったが、微睡みながら身を寄せ再び寝息を立て始めた紗也加。

 その甘えるような仕草に心は温かくなり、悪戯はやめて翔太郎も再び夢の中へと落ちていった。






 ★・。・゚゚・*:.。..。.:*・゚






 二度寝から目覚めたのは9時を過ぎた頃。

 軽めの朝食をとってのんびりコーヒーを飲んでいる時、携帯に届いたメッセージ通知を見て翔太郎の表情は曇る。

 表示されている送り主の名は“灰原はいばら円香まどか”で、その名は元妻の旧姓。

 接近禁止命令を出してはいるが、一切の連絡手段を無くすと逆に何を仕出かすか分からない人間性であり、弁護士の勧めもあって電話番号の登録だけは残していた。

 滅多に届くことのない元妻からのメッセージ内容には「話しがしたい」とだけ記され、聞かずとも何が目的か察してしまう。

 自然と眉間に皺が寄るのは、これまでも同様の連絡が何度か届き、その度に同じやり取りを繰り返してきたから。

 今の勤め先は教えていないし自宅を知られてはいないと思うが、地元に戻っていることは人伝に聞いて知っている為、無視をすればどんな行動に移るか分からない。

 探偵を使って相手の住居を突き止め、それが傷害や殺害事件に発展したニュースもある。

 自分ひとりであれば如何様にも対応出来るけれど、守るべき存在がいる以上は対応をせざるを得ないと判断し、キッチンで洗い物をする紗也加に声をかけた。


「紗也加…少し出てくる」


 突然の申し出に「え?」と反応するが、神妙な面持ちの翔太郎に事態を察して「分かった」とだけ返した。


「……すぐ戻るから…ごめん」


 申し訳なさそうに謝る翔太郎にふるふると首を振って応え、大丈夫だよと言い抱き締める。

 単なる元カノが相手なら到底容認出来ないが、訳ありの元妻となれば話は別。

 離婚に至るまでの経緯やその人間性を知っているからこそ、複雑ながらもやり取りを繰り返す翔太郎を見守ってきた。


「………愛してる」

「私も」


 かつては愛した相手で子供を儲けた“元妻”という立場に嫉妬心がないわけではなく、可能ならばもう2度と関わらないで欲しいとも思う。

 実際そう出来ないかと弁護士に相談したこともあるが、相手は何事も自分に都合よく解釈するような思考の持ち主で話が通じない。

 無理に関係を絶つより適当にあしらう方が得策と判断され、現在のような対応になった。

 けれどいつもはメッセージのやり取りが主で、稀に電話で話す事はあれど会うことはなかったのに…と紗也加の心に黒い靄が生まれてしまう。


「行ってくる」


 玄関で見送る翔太郎は明らかに不機嫌で、今さら元妻とどうこうなるとは思っていないし信じてもいるがやり切れず、腕を引いて振り向かせると唇を重ねた。

 掻き抱くように抱き締められ、絡まる舌の動きは行為の最中を思わせるような激しさで、湧き上がってきたのは猛烈な独占欲。

 濃厚な口付けのせいで翔太郎の股間は硬くなっており、その状況で元妻に会わせるわけにはいかない…と足元にしゃがみ込んだ。






 ★・。・゚゚・*:.。..。.:*・゚






 自家用車ではなくタクシーで向かった先にいたのは、露出度の高い装いをした元妻。

 翔太郎の姿に気付くと満面の笑みを見せ、弾んだ声で名を呼び駆け寄ってくる。


「翔太郎!!久しぶり!!」


 その甘ったるい声音が耳障りに思えた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

処理中です...