2 / 3
レイピア使いの子爵令嬢
しおりを挟む
*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜
ある週末の騎士科鍛錬場、その中央サークルを囲むように設置されている観覧席は、騎士科の男子生徒達によってびっしりと埋められていた。
皆やたらと身嗜みを気にしてソワソワと落ち着きなく、中には正装している者までいる。
「おいっ、出てきたぞ!!」
黒い戦闘スーツを着用した15名の女性達が姿を現し、野太い声の歓声が一斉にあがった。
「キャサリン嬢~!!」
「ブリジット嬢~!!」
「メイベル嬢~!!」
「ポラリス嬢~!!」
多くの指笛も鳴り響く中で男達は思い思いの名前を叫ぶが、その名の持ち主である女性達…もとい淑女科特級クラスの女子生徒達は、一切の反応を見せない。
「これより剣技実習を始める!!」
声を張り上げ開始の宣言をしたのは、実技講師である現役の近衛騎士。
男達がより大きな歓声をあげる中、チョコレートブラウンの髪を高い位置でひとつに結んだ女子生徒が、1本の剣を手に中央へと進んだ。
「アメリア嬢だ!!しょっぱなから首席かよ!!」
「ヤバいって!!既に泣きそう!!」
「ほっせぇなぁ…折れちまうんじゃねぇの?」
アメリアの登場にざわめくが、当の本人に気にする様子は微塵もない。
「なんつぅか…こう……妙にクルんだよな、アメリア嬢って」
うんうんと頷く男達の熱い視線はアメリアへと注がれ…生々しく露わになっている体のラインを、じっくりと舐めるように観察した。
「胸はデカくないけど…形がいい」
「丁度こう…すっぽり収まる感じ…いいよな」
「ウエスト細すぎだろ…胃袋あんの?」
「腹筋割れてるって噂だぜ」
「マジか…ってか、どこの誰情報だよ」
「あのケツ、いいハリしてそう」
「叩きがいがあってイイね」
盛り上がる野獣達とは反対に、最前列中央を陣取る男からはドス黒い殺気が滲み出ている。
「……落ち着け、シュナイダー。アイツらの軽口や冷やかしはいつもの事だ」
「………………あとで潰す」
女性の体つきについてあ~だこ~だと好き勝手話す彼らの未来(後日の鍛錬)が決定したが、アメリアが剣を構えると無駄口が一斉に引いたのは流石と言えよう。
「お手柔らかに頼むよ、アメリア」
「こちらこそですわ、お兄様」
アメリアがニッコリと笑みを向けたのは、騎士科講師も務める近衛騎士のエリック。
子爵家嫡男で、アメリアの兄でもある。
「そのレイピア、新しく買ったやつか?」
「お小遣いをつぎ込んでしまいました」
「せいぜい折れないように励めよ」
意地悪い笑みを浮かべたエリックが動き出すのと同時に、アメリアも地を蹴った。
現在は他国との争いもなく、女性を狙う犯罪も少ない…が、あくまでも少ないだけで存在する。
その多くが陵辱を目的としたもので、力の弱い女性の被害は一向になくならない。
特にアメリア達のように年若い女性は狙われやすく、不幸にも身篭るケースも報告されていた。
女性の社会進出が持て囃される一方で、それを妬み蛮行に及ぶ者もおり、自身の身を守る術を持つべき…というのが特級クラスの教訓。
同じ淑女科でも【一般クラス】では護身用ナイフの取り扱いを学ぶに過ぎず、その抗議は教室にて淡々と行われ実技指導はない。
対する【特級クラス】は実戦形式で行い、今回のように剣術も履修科目となっている。
「……すげぇ…」
誰かがこぼした呟きに、アメリアを見守るシュナイダーは誇らしげな笑みを口元に浮かべた。
「アメリア嬢、相変わらずだな」
「あぁ……楽しそうだ」
ひとつに結ばれた髪は動きと共に揺れ動き、細くしなやかな体で積極的に攻める姿勢は、まるで舞を踊っているかのよう。
怪我をしないかと心配はするが、愛剣のレイピアを振るう姿は美しい。
『シュナイダー様に守られるだけの存在にはなりたくありませんの。わたくしだって貴方を守りたいわ…失いたくないから……』
真っ直ぐにシュナイダーを見据えてそう言ったのは、アメリアがまだ10歳の時。
必然的に出来てしまう剣ダコは痛々しいが、その数と硬さの分だけ『貴方を守れる力がついた』と喜ぶ姿は、かつて騎士を目指した幼き頃の自分と重なり微笑ましくもなってしまう。
「甘いっ!!」
エリックの声が響くと同時に弾かれたレイピア。
一瞬だけその行方を目で追ったアメリアの喉元には、エリックの剣先が突き出される。
「注意散漫だ…死ぬぞ」
「っ───すみません」
剣先でクイッと顎をあげられ、悔しげに拳を握るアメリア……を見るシュナイダーからは、またもドロドロした殺気が漏れ出てきた。
「シュナイダー…あれは実習だ。殺されない」
引き摺り込むような殺気に当てられた野獣達は息苦しくなり冷や汗をかいているが、肩を叩く親友だけは爽やかで何食わぬ顔。
(これだけ露骨なのに、何をどう見たらアメリア嬢を慕っていないと言えるのか)
幼馴染みでもある彼は、シュナイダーのことをよく理解していた。
ある週末の騎士科鍛錬場、その中央サークルを囲むように設置されている観覧席は、騎士科の男子生徒達によってびっしりと埋められていた。
皆やたらと身嗜みを気にしてソワソワと落ち着きなく、中には正装している者までいる。
「おいっ、出てきたぞ!!」
黒い戦闘スーツを着用した15名の女性達が姿を現し、野太い声の歓声が一斉にあがった。
「キャサリン嬢~!!」
「ブリジット嬢~!!」
「メイベル嬢~!!」
「ポラリス嬢~!!」
多くの指笛も鳴り響く中で男達は思い思いの名前を叫ぶが、その名の持ち主である女性達…もとい淑女科特級クラスの女子生徒達は、一切の反応を見せない。
「これより剣技実習を始める!!」
声を張り上げ開始の宣言をしたのは、実技講師である現役の近衛騎士。
男達がより大きな歓声をあげる中、チョコレートブラウンの髪を高い位置でひとつに結んだ女子生徒が、1本の剣を手に中央へと進んだ。
「アメリア嬢だ!!しょっぱなから首席かよ!!」
「ヤバいって!!既に泣きそう!!」
「ほっせぇなぁ…折れちまうんじゃねぇの?」
アメリアの登場にざわめくが、当の本人に気にする様子は微塵もない。
「なんつぅか…こう……妙にクルんだよな、アメリア嬢って」
うんうんと頷く男達の熱い視線はアメリアへと注がれ…生々しく露わになっている体のラインを、じっくりと舐めるように観察した。
「胸はデカくないけど…形がいい」
「丁度こう…すっぽり収まる感じ…いいよな」
「ウエスト細すぎだろ…胃袋あんの?」
「腹筋割れてるって噂だぜ」
「マジか…ってか、どこの誰情報だよ」
「あのケツ、いいハリしてそう」
「叩きがいがあってイイね」
盛り上がる野獣達とは反対に、最前列中央を陣取る男からはドス黒い殺気が滲み出ている。
「……落ち着け、シュナイダー。アイツらの軽口や冷やかしはいつもの事だ」
「………………あとで潰す」
女性の体つきについてあ~だこ~だと好き勝手話す彼らの未来(後日の鍛錬)が決定したが、アメリアが剣を構えると無駄口が一斉に引いたのは流石と言えよう。
「お手柔らかに頼むよ、アメリア」
「こちらこそですわ、お兄様」
アメリアがニッコリと笑みを向けたのは、騎士科講師も務める近衛騎士のエリック。
子爵家嫡男で、アメリアの兄でもある。
「そのレイピア、新しく買ったやつか?」
「お小遣いをつぎ込んでしまいました」
「せいぜい折れないように励めよ」
意地悪い笑みを浮かべたエリックが動き出すのと同時に、アメリアも地を蹴った。
現在は他国との争いもなく、女性を狙う犯罪も少ない…が、あくまでも少ないだけで存在する。
その多くが陵辱を目的としたもので、力の弱い女性の被害は一向になくならない。
特にアメリア達のように年若い女性は狙われやすく、不幸にも身篭るケースも報告されていた。
女性の社会進出が持て囃される一方で、それを妬み蛮行に及ぶ者もおり、自身の身を守る術を持つべき…というのが特級クラスの教訓。
同じ淑女科でも【一般クラス】では護身用ナイフの取り扱いを学ぶに過ぎず、その抗議は教室にて淡々と行われ実技指導はない。
対する【特級クラス】は実戦形式で行い、今回のように剣術も履修科目となっている。
「……すげぇ…」
誰かがこぼした呟きに、アメリアを見守るシュナイダーは誇らしげな笑みを口元に浮かべた。
「アメリア嬢、相変わらずだな」
「あぁ……楽しそうだ」
ひとつに結ばれた髪は動きと共に揺れ動き、細くしなやかな体で積極的に攻める姿勢は、まるで舞を踊っているかのよう。
怪我をしないかと心配はするが、愛剣のレイピアを振るう姿は美しい。
『シュナイダー様に守られるだけの存在にはなりたくありませんの。わたくしだって貴方を守りたいわ…失いたくないから……』
真っ直ぐにシュナイダーを見据えてそう言ったのは、アメリアがまだ10歳の時。
必然的に出来てしまう剣ダコは痛々しいが、その数と硬さの分だけ『貴方を守れる力がついた』と喜ぶ姿は、かつて騎士を目指した幼き頃の自分と重なり微笑ましくもなってしまう。
「甘いっ!!」
エリックの声が響くと同時に弾かれたレイピア。
一瞬だけその行方を目で追ったアメリアの喉元には、エリックの剣先が突き出される。
「注意散漫だ…死ぬぞ」
「っ───すみません」
剣先でクイッと顎をあげられ、悔しげに拳を握るアメリア……を見るシュナイダーからは、またもドロドロした殺気が漏れ出てきた。
「シュナイダー…あれは実習だ。殺されない」
引き摺り込むような殺気に当てられた野獣達は息苦しくなり冷や汗をかいているが、肩を叩く親友だけは爽やかで何食わぬ顔。
(これだけ露骨なのに、何をどう見たらアメリア嬢を慕っていないと言えるのか)
幼馴染みでもある彼は、シュナイダーのことをよく理解していた。
6
お気に入りに追加
555
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました
お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

【完結】円満婚約解消
里音
恋愛
「気になる人ができた。このまま婚約を続けるのは君にも彼女にも失礼だ。だから婚約を解消したい。
まず、君に話をしてから両家の親達に話そうと思う」
「はい。きちんとお話ししてくださってありがとうございます。
両家へは貴方からお話しくださいませ。私は決定に従います」
第二王子のロベルトとその婚約者ソフィーリアの婚約解消と解消後の話。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
主人公の女性目線はほぼなく周囲の話だけです。番外編も本当に必要だったのか今でも悩んでます。
コメントなど返事は出来ないかもしれませんが、全て読ませていただきます。

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる