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夫婦間の決まり事~その2~

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【GPSは常にON】

立川夫妻は互いにGPSアプリを活用しており、相手がいつ何処にどのくらいの時間滞在したのかを把握出来るようにしている。

桜の居場所が自宅から動くことはほぼ無いに等しいが、多忙を極める透はそうではない。

会社にいる時間は殆どなく、常に何処かしらへ移動しては暫く滞在するの繰り返し。

こまめに連絡を寄越す透だが出来ない時もあり、そんな時に限って思いもよらぬ場所に長時間滞在となると桜の不安は募るばかり。






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とある日の午後、透のGPSは繁華街近くにあるホテルで2時間ほど動かなかった。

ホテルと言っても如何わしいものではなく、会議室などの利用も可能なシティホテル。

交通機関が近い事で多くの企業がビジネス利用しており、桜もその事はもちろん透から聞いて知っていた…が、連絡もなしに2時間も何をしているのかと不安が抑えきれなくなる。

嫉妬深く束縛しがちと自覚している桜も流石に忙しい仕事の合間に全てを報告しろとは言わないものの、気になってしまいついつい携帯を触る時間が増えていた。


❝今何してるの?❞
❝どうしてホテルなの?❞
❝誰といるの?❞


面倒臭い事この上ない行為だと自覚しているが、もし万が一にでもプライベートで利用していたらと思うと嫉妬で頭がおかしくなりそうになる。

その不安と嫉妬を和らげたのは末っ子だった。


「まま、おもちろいね」


並んでアニメを見ていた末っ子が桜を見上げてニコリと笑い、けれど少し眠いのかポテッと頭を膝の上に預けてくる。

その小さい重みに落ち着きを取り戻し、父親譲りの淡い栗色をした髪を撫で梳いた。


「面白いね。くまたん好き?」

「ちゅき。くまたんあいたいな」

「じゃぁ会いに行こうか。もうすぐ赤ちゃんが産まれるから少し大きくなったらになるけど、それまで待っててくれる?」

「うん。あかちゃんたのちみ」


素直に頷き大きなお腹に顔を寄せて、まだ見ぬ赤ん坊に「はやくでておいで」と語りかけている。

透がよくそうしているから真似なのだろう。

夫は家族を裏切るような人ではない。

そう信じてはいるものの昔から言い寄る女性が後を絶たないのも事実であり、漫画やドラマにあるような避けられない状況に追いやられて、無理やり関係を迫られでもしたらどうしよう…と妄想に駆られ落ち込んでしまう。


「パパ、早く帰ってくるといいね」

「うん。ぱぱちゅき」

「ママもパパが好きよ」


小さい子特有の温かい体温を腕の中に閉じ込め、夫婦の絆が生み出した結晶を優しく揺する。

そうやっていると子供はやがてウトウトし始め、桜も冷静さを取り戻す事が出来た。


「……ほんと…早く会いたいな……」


しかし寂しさは拭いきれなかった。






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その夜、残業が立て込み遅い帰宅となった透を待ち構えていたのは不機嫌そうな妻ひとり。

遅い時間なので子供達は既に寝ている。


「……おかえりなさい」

「ただいま…何かあった?」


大きなお腹を擦りながら、何か言いたげに上目遣いで見てくるも理由を話す素振りは無い。

ひとまず鞄を足元に置いて抱き締めれば大人しく囲われるが俯いてしまい、どうにも見えない壁を感じて「どうした?」と様子を窺う。


「……本当に駒場さん?」


その質問で察した。

昼間届いた怒涛のメッセージには時間が出来てから返信したが、忙しさのあまり少々おざなりに感じても仕方ないものになっていた。

それでも残業に入る前には電話もして改めて説明もしたが、やはり納得はし切れていなかったのだと考え至って少し強めに抱き締める。


「本当に駒場さんだよ。電話でも言った通り最初の方は取引先も同席していたけど」

「……女の人も?」

「いた。50代の部長さんね。娘さんが早くに結婚したから、お孫さんもいる人だよ」


女性を年齢で判断するのは良くないと桜も分かっているが、漸く少しだけ溜飲が下がった。

とは言え、透は過去に50近い女性から猛烈な勘違いアピールを受けた事もある。


「旦那さんをとても大切にしている人で、退職後はふたりで全国を旅行する計画を立てているんだって。素敵だよね。俺達もする?」

「……する」


夫を大切に思う女性なら別。

飲み下せなかった不安がストンと落ちて、安心すると同時に甘えたい感情が湧いて出てくる。

下げたままだった腕を透の背に回し、首元に鼻先を擦り寄せてお揃いで愛用している香水の匂いを嗅ぎ、そのまま唇を寄せて弱く吸い付いた。

明日も仕事だから痕をつけない程度に。

けれど独占欲をハッキリ示す力加減で。


「……ご飯は後にしてもいい?」

「…うん」


妻からの強い執着を感じて空腹を満たすより先に昂った感情を解放する事にし、桜の手を取り寝室へと足早に向かった。






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「ぁぁっ……っ!!」


性急に及んだ行為にも関わらず桜は早くも達し、埋めた隘路から締め付けを食らった透は腹部に力を込める。

互いに衣服を脱がぬまま、しかも久し振りに避妊具なしとあって今にも暴発しかねない。


「っ……ごめん、ゴムつける…っ」

「やだっ…!!」


サイドボードに仕舞ってある避妊具を取ろうと手を伸ばしたところで腰に足を絡められ、目を潤ませ拒否する桜の様子に「っ、ぅぅ…」と堪えながら高速で思考を巡らせる。


「…っ、お腹の張りは?」

「ない…奥がいいの……お願い透くん…」


今にも溢れそうなほど眦に涙を溜めている目を暫し見つめ、やがて「ふぅぅ…」と息を吐いた。

桜はこれまでの出産でいずれも子宮口が硬いと言われ、陣痛を促すジンクスをこれ幸いと取り入れ予定日間近にあえて奥を刺激し中に出している。

直接的に其処を叩き、精子をかける事で子宮の収縮を促せると聞いたから。

今回の予定日までは1週間。

もういつ産まれても大丈夫だと医師からは太鼓判を押されるほど、お腹の子はスクスク育った。


「……中に出して…」


懇願するような細い声色には抗えない。


「っ……分かった…っ…中に出すよっ、」


途端にぶり返した吐精の込み上げも我慢しきれなくなり、避妊具に伸ばした手を引っ込め桜の腰を掴んで抽挿を開始した。


「あっ、とおるく…っ…」

「ヤバい…っ、気持ち良すぎるよ桜…っ…」


出産を間近に控えた隘路は柔らかく、ふかふかと真綿で包み込むように温かい。

つい奥を蹂躙しそうになる衝動を抑えながら力加減を調整し、あまり深くなり過ぎないよう配慮しながらまだ少し硬い奥を穿つ。


「あんっ、あっ…透くん…っ、あっ…!!」


溜まっていた涙を散らしながら抱き締めて欲しいと両手を伸ばすが、密着するとお腹を潰してしまうので透がそれに応えることはない。

しかしせめてと伸ばされた手に指を絡めて握り、見つめ合ったまま腰を振り続ける。

少々動きにくく思うように穿てないが、嬉しそうにはにかんだ様子に愛しさが込み上げた。


「とおっ…く……っイク…っ、イク…っ…!!」


少し腰を浮かせて締め付けられ、その甘い誘惑に抗うことなく強めに穿って奥へと勢いよく吐精。


「っ……すっげ…っ……気持ちぃ…っ、」


まだ閉ざしたままの子宮口が吐き出される精液を飲み込んでいくのを感じ、そこへピタリと押し付けるようにして射精が収まるのを待つ。


「っヤバ…凄い出てる…っ…ん……っ…今さらだけど…っ、今この瞬間に破水して出産することになったら…精子まみれ…?ってくらい出てる…」


未だ脈打つ状態の分身を埋めたまま、透がそんな疑問を口にするので桜は思わず笑ってしまう。


「でもまぁ……両親が愛し合ってるって事で許してもらうしかないかな?それにしても…気持ちよくて止まらない…っ…」


繋がったまま次いでそう言うとお腹を優しく撫で擦り、「早く産まれておいで」と声をかけた。






この❝お迎え棒❞が功を奏したのか定かではないが、予定日を迎えた桜は無事出産。

めでたく立川家の新しい一員として可愛い女の子が誕生となった。






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「立川さん、4人目生まれたんだって」

「だからお休みなのかぁ…目の保養が足りない」

「来週いっぱいは休むらしいよ。今までもそうしたみたいだし」

「いいなぁ…カッコイイパパでカッコイイ旦那」






女子社員達が深い溜め息を吐いているとは知る由もない透は、短い育休を満喫中。

就業規則には育休取得も可能とあるが、携わっている業務の関係上それは叶わない。

けれど都合をつけて母子の退院後から2週間の休みをもぎ取り、新入りの娘と共に過ごしていた。


「可愛いなぁ…口元が桜にそっくり」

「目元は透くんが赤ちゃんの頃と一緒よね」

「そう?あ、うんちした」


1人目の時から育児に積極的だった透は、オムツ替えや沐浴などお手の物。

ミルクの作り方や消毒も難なくこなす。


「……透くんて、会社でもそうなの?」


ふと疑問に思って聞いてみた。

何をするにも手際が良く、困った事があると察して先に行動してくれる頼もしい夫。

職場でもそうなのかと思い、周りにいる女性達を手助けする姿を妄想して嫉妬してしまう。


「ん?そうって?」

「…女の子の手伝いとか……」


口ごもる妻の様子で何が言いたいのか察し、嫉妬深い妻を愛おしげに見つめると後ろからぎゅっと抱き締めた。

ベビー布団の上に寝かされた赤ん坊は新しいオムツにご機嫌である。


「特に手伝うとかはないかなぁ。俺が先回りして何かしてあげたいとか助けてあげたいとか、守りたいと思うのは今も昔も桜だけだし」

「……私だけ?」

「桜だけ。書類の作成とか協力してもらった時はありがとうくらい言うけどね」

「…言うんだ」


そりゃ言うだろうよ…と分かってはいても、笑顔で言われているであろう相手に嫉妬する。


「そこは人としてね。でも俺は会社で冷たい男って思われてるらしいからな…そもそも女性が近寄ってくることもないし」

「そうなの?」


パァッと嬉しそう笑んで振り向く桜に「そうだよ」と言って頬に優しくキスをした。


「それに俺が愛してるのは桜だけだし、愛してるって言うのも桜だけ。もちろん言われて嬉しいのも桜だけだよ」

「……私も」


桜が不安を払拭出来た様子に安堵すると同時に、機嫌よく「あぶあぶ」言っている赤ん坊を見ては自然と目尻が優しく下がる。


「そう言えばあの子…どうしてるかしら」

「連絡もないし、うまくやってるんじゃない?」


今まで末っ子として甘えただった二女が、赤ん坊を迎えると『わたちがおねえちゃんよ』と言って世話を焼きたがり、自ら幼稚園のプリスクールに入ることを希望した。

突然の申し出にも関わらず園側が対応したのは、やはり両家の父親達が『孫のやる気を叶えてやるのがじぃじの役目だ!!』と差し出した破格の寄付金が影響した事は言うまでもない。

なのでここ数日は親子3人で過ごしている。


「桜はあと何人欲しい?」


そう尋ねて大仕事を終えた体を労わるように優しく、妊娠の名残りを愛でるように撫でた。


「…まだブニブニしてるよね……お腹…」

「出てきたばっかりだもん。それに俺は好きだけどね…ここに居たんだなって思えて。それで?桜はあと何人欲しい?」

「あと2人…くらい?透くんは?」

「俺もあと2人は欲しいな。もし可能ならもっと欲しいけど」


まだ産後ひと月も経っておらず、セックスの解禁は告げられていない。

普段は3日と開けずに求め合うふたりも、この時ばかりは自然と落ち着きただ抱き合いキスするだけに留めている。


「じゃぁ…頑張って体型戻そうっと」

「なんで?頑張る必要なくない?それにまだこの感触楽しみたいんだけど」

「もうっ、揉むの終わりっ!!」

「いやだ。俺は揉む。桜のものは俺のものだ」


無駄にキリッとした表情でジャイアニズムな発言をする透に桜は笑い、触発されて赤ん坊も楽しげな声をあげた。




立川家は本日も平和である。







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