【完結】鳥籠の妻と変態鬼畜紳士な夫

Ringo

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【おまけ】上司・駒場

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バツイチシングルファザーの駒場は、些か面倒くさい状況になっていた。


「お疲れ様です、駒場さん」

「…立川か…お疲れ。今日も残業になって悪かったな。家は大丈夫か?」

「大丈夫です。どうしました?項垂れちゃって」

「あ~……ちょっとな」


はぁぁ…と深い溜め息を吐き、部下に愚痴を漏らすべきかどうか悩む。

とは言え自分がどうするべきか答えは分かりきってもいて。


「実はな…元嫁が連絡を寄越してきんだよ」

「……は?」

「そんな露骨に嫌そうな顔するなよ。俺だってお前と同じ気持ちなんだから」


妻の浮気が原因で離婚し3年。

養育費は支払われていたものの、離婚と同時に浮気相手の所へ行った元嫁と会うことはなかった。

諸事情から面会は子供達が成長して本人が希望するまで無し…となっている為、連絡先だけを残している状態。

しかし特に連絡が来ることはなく、駒場からすることもなく過ごしてきた3年。

もうこのまま二度と会うこともない…と思い穏やかな日々を送れていたというのにここ最近になって連絡を寄越すようになり、その要件はどれも復縁や金銭的援助を求めるようなものばかり。


「どうせ思ったような生活ではなかったんでしょう。相手の男、自称絵描き…でしたっけ?」

「…よく覚えてるな」

「家族の為に身を粉にして働いてる夫より、稼ぎもないくせに夢だけはでっかく語り出来るのは性欲を満たすセックス三昧だけの男を選ぶなんて結末は見えてましたけどね」


鼻息荒い透の様子に「そうだったっけ…」と遠い目になりそうになって苦笑した。


「辛辣だなぁ…確かにそうなんだけど」

「まさか駒場さん、復縁する気ですか?」

「有り得ない。それだけはないよ」


流石にそれだけは無理だと断言する駒場の様子に透も「良かった」と嘆息する。


「でも、早いところ弁護士にでも頼んだ方がいいんじゃないですか?追い込まれた人間は何するか分かりませんよ。お子さんへの接触、確かきんしされてるんですよね?」

「あぁ…そうだな」


離婚時に揉めたので弁護士を挟んだ。

子供達への接触があるかもしれないと言われ、久し振りに連絡を取ることを決めた。






✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼






浮気の理由はよくある話で『寂しかった』『構って欲しかった』というもの。

朝早くに出社し帰宅は深夜になることも多く、その上で出張ばかりの夫との生活では心が満たされなかった…と元嫁は語った。

不倫関係は1年にも及び貯蓄を浮気相手との逢瀬や生活費に注ぎ込んでいた事も発覚し、再構築ではなく離婚を要求したが元嫁は拒否。

度重なる話し合いで離婚は納得させるも親権は渡さないと主張し裁判までもつれ込んだが、最終的に子供の安全と意思が重要視されて駒場が持つことになった。

決定打となったのは、まだ3歳だった息子が泣きながら話した内容。


『ママはきらい。しらないおにいちゃんとぶつんだ。そのおにいちゃんとなかよしなのもきらい』

『パパにいったら、もうパパとはくらせないっていわれたんだ。パパにすてられるって。パパはぼくたちをすてるの?』

『パパとぼくと、いもうととくらしたい』


現在の法律では3歳の子供の意思を取り入れられる事はなく、たとえ母親側の有責だろうと親権はそのまま母親にいくことが多い。

けれど子供の前で浮気相手と行為に及んでいた事が性的虐待にあたるとされ、専門家からも父親に親権を渡すべきだと強い申し出がなされた。

しかし元嫁は不可抗力で仕方のない事だったと呆れた言い訳を繰り返す。


『違うっ!!あれはっ…あの時はそうするしか仕方なくて!!そうしないと彼があの子達に何をするか分からなかった!!あの子達を守る為だったの!!』


当然ながらそんな言い訳が通用するわけもなく、それも1度や2度ではなかった事も明るみになった事で親権に大きな影響を齎した。


『だって…寂しかったの……私だって女なのよ…愛されたいと…求められたいと思うのに…』


そう言うがセックスレスだったわけでもない。

出産後は結婚当初に比べれれば減ったものの、それでも週に1回以上は営んでいた。

確かに互いの体調が優れない時や、出張が続いた時期は月に1度と極端に少なくなった事もある。

けれど同じベッドで眠り、疲労が蓄積され機能せずとも丁寧に愛撫を施し果てさせ、肌を触れ合わせてスキンシップはとっていたのだ。

けれど元嫁は不足していたと言う。


『それだけじゃ足りないのよ…忙しいのは分かっていたけど…セックスが出来ないと女としての魅力や存在価値がない気がして…』


だから浮気相手に慰めて貰っていたのだ…と。

一回り年上の駒場とは違い、まだ23歳と若い浮気相手は精力も旺盛でセックスの回数も段違い。


『彼は会えば必ず求めてくれて…何度も続けて求めてくれて…私は女なんだ…まだ魅力はあるんだって再認識出来たの…』


そして最も悪印象を付けたのは、別居後の離婚裁判中に発覚した元嫁の妊娠。

夫婦間での肉体関係は既になく、父親は浮気相手であるのは間違いない。

それでも婚姻期間中なのだから養育の責任は駒場にあるのだと訴えだした。


『私達はまだ夫婦なのよ!?夫婦の間に出来た子ならあなたに責任があるでしょう!?』


DNA検査の末に不倫相手の子だと分かればその責任はなく、認知も養育義務もないのだと弁護士から説明されて血の気を引かせた。


『そんな…彼が言ってたのに…愛してるから子供が欲しいけどお金もないし…それなら夫の子だってことにすればいいって…夫婦の間に生まれた子は夫が責任をとるものだって…』

『どうすればいいの…?この子だってあの子達と同じわたしの子なのに…それなのにあなたは殺せって言うの?いらないって言うの?』

『あの子達の前でのセックスだって私はちゃんと嫌だと言ったわ…子供が見ている前ではしたくないって…でも彼は俺のことを愛してるなら出来るだろうって…子供より俺を愛してなきゃ結婚なんか出来ないって…』

『愛し合ってる姿を見れば子供達も分かってくれるはずだって言ったの…必ず4人で新しい家族になれるって…父親から養育費をたくさん貰えば生活にも困らないからって…』


息子が浮気相手に初めて殴られたのは、子供の前での行為に僅かな抵抗を見せた母親を守ろうとして止めに入った時。

それ以降も嬌声を悲鳴と思い止めに入り、その都度手を出されていたという。

駒場が気付けなかったのはそれが長期出張中の出来事であり、帰る頃には痣も消えていたから。

ただ帰宅後、母親に対してどこか怯えた態度を取ることには気付いており、けれど何故なのかは聞いても答えないので把握出来なかった。


『私があの子を叩いたのは…彼のことが嫌いだと言ったから…彼のことをパパとは呼べないって言うから…だってそれじゃ…困るから…』


その後、離婚が成立すると元嫁は地元へ逃げた浮気相手を追いかけて姿を消す。

それでも養育費…と言っても月に1万だが支払っていたので、母親として子供達への愛情と責任が僅かにでも残っていたのだと思っていた。






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「相当苦しい生活みたいですね」


弁護士から渡された書類に目を通して、駒場は眉間に寄った皺を伸ばすように揉み込んだ。

探偵からあげられた書類には、離婚後の様子が事細かく記されている。


「離婚時に身篭っていた子は結局流産したみたいですね。それからも2度妊娠していますが、いずれも中絶しているようです」


嫡出否認の手続きをしようにも行方知れずとなってしまい、出産の報告も戸籍への記載もなく、流れたか堕ろしたかしたのだろうとは思っていた。


「……相手は拘留中ですか…」

「今までは注意のみで終わっていたようですが、流石に包丁で刺したとなれば傷害ですからね」


報告によれば元嫁は浮気相手と再婚しており、収入のない夫に代わって朝から晩まで働き詰めの生活を送っていたらしい。

しかしいつまで経っても男が変わらないことで喧嘩が増え、暴力を受けたと何度も警察沙汰になっていたのだという。

そして今回、激昂した相手に刺されて元嫁は入院する事態となり、現場を抑えられた男はそのまま逮捕されて拘留中。


「贅沢も出来た専業主婦の生活が忘れられず、不満を募らせていたようですよ。離婚なんてしなければ今も幸せに暮らしていたのにと、事ある毎に相手を責め立てていたようで」

「それを放棄したのは…壊したのはあいつです。自業自得としか思えません」

「元奥様はご両親を亡くされておりますから、退院後の身元引受けと生活をどうするかですが…如何致しますか?」

「…治療にかかる費用と当面の生活費はこちらで都合をつけます。ですがそれだけだ。今後一切の関わりを持たないと約束させて欲しい」

「畏まりました」


事件直前の元嫁はソープで働き、客のひとりから覚醒剤を購入していたとの記載もある。

退路を絶たれた元嫁が今後どのような行動に出るのか分からず、当面の生活を保証する事で時間を稼ぐしかないと考えた。






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それから半年後。


「駒場さん、帰国無しの赴任なんて思い切りましたね。寂しくなりますけど遊びに行きますから、子供が楽しめる所を探しておいて下さい」

「あぁ。立川が来るにはまだ時間があるだろうしな…ゆっくり探しておくよ」

「永遠に行けないかもしれませんけどね」

「5人目かぁ…本当に凄いよ、お前」

「愛し合ってますから」


キリッとしてドヤる部下の肩を尊敬と憧れの思いを込めて叩き、デスクの整理に戻った。

駒場は海外支社への赴任が決まり、子供達は勿論祖父母である両親も伴い新天地へと渡る。

海外に行ってしまえば元嫁が追いかけてくる可能性は限りなくゼロに潰え、子供達の安全や未来を守る事も出来ると算段した結果だ。

元嫁に対してはもうひと欠片の情すらない。

たとえ野垂れ死にしようが犯罪に巻き込まれようが、好きに生きればいいと思っている。

無事に海外へ渡るまで、万全を期す為に探偵を張り付けているが報告内容には呆れるばかり。

悪質な経営をするソープに勤めながら私生活でも頻繁に男を変え、既婚者の男と関係を持った事で相手の妻から不倫で訴えられている。

しかも妊娠をしており、元嫁はその男が父親だと言い張っているが実際には誰の種か不明。

さらに男は重度の性感染症を発症しているとの事で、今後かなりの被害が確認出来るだろうとも記載されていた。








「なぁ立川…お前は幸せか?」


互いに若くしての結婚にも関わらず夫婦仲は良好で、子沢山な部下が羨ましくて眩しかった。

何が違うのか…何故自分にはそう出来なかったのかと考えるほどに分からず落ち込むばかり。


「幸せですよ。妻も子供達も可愛いし、これから増える家族も丸ごと愛してますから」

「…そうか……」

「それに俺は上司にも恵まれました。目指したいと思える背中を見せてくれる上司と出逢えたことは、俺の財産だと思っています」


思いもよらない言葉に目頭が熱くなる。

出来のいい部下を持ったからこそ、情けない姿は見せられないと奮起しそれまで以上の向上に努めてきた。

その結果が元嫁の浮気を誘発したのだとしても、いずれは同じような結果を迎えたとも思う。

浮気などしない者はしないし、する者はする。

それがどんな状況でも、どんな相手であっても。




「いつかまた一緒に仕事しましょう、駒場さん」

「あぁ」



いつか必ず。

そう約束して固い握手を交わした。









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