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歪んだ歯車 ※王女side
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オーランド様の元に嫁いでから伯爵家本館で暮らすようになり、あの日芽生えた命がすくすくと育つのを楽しみながら過ごす日々。
大きなお腹を撫でてのんびりしていたら、別館の様子を見に行かせていた使用人が戻ってきた。
「そう…生まれたのね」
隣国から戻った際に『彼女のお腹には俺の子がいるから第二夫人とする』と言われ、婚約解消に慌てた彼女がオーランド様に無理をさせたのでは?と思っていたのに産み月は私よりもずっと早い。
もっと早く出会えていたのなら、間違いを犯させることなどなかったのにと悔やまれる。
「ご両親もいらっしゃるのよね?じゃぁ、お祝いに伺った方がいいかしら。トリシアさんにも何かお祝いの品を贈らなくちゃ」
「そのような必要はないと旦那様より申し付かっております。大旦那様達もこちらには立ち寄らずにお帰りになるそうです」
「そうなの?残念だわ」
お忙しいのかしら。
思えば、お義父様とお義母様にお会いしたのは本館で暮らすようになった時のご挨拶が最初で最後だ。とても仲のよいご夫婦らしいので、領地からあまり出てこないと使用人達は言っていた。
それでも、体調を気遣うお手紙や贈り物をお義母様から頂いていたし、私もお返しをお贈りしたりして友好な関係を築けている。
こちらに移り住んでから、まだ慣れないだろうと気遣われて一度も夜会に出席したことはないけれど、産後落ち着けば久し振りにお洒落して夜会や舞踏会に出てみるのもいい。
隣国の王女という肩書き故かお茶会も呼ばれなくなってしまったし、気にしないでと手紙を送ったけれど未だに遠慮されている。
「…オーランド様にお会いしたいわ」
伯爵家本館の準備が整うまでは王宮の客間で過ごすようにと言われ、会えない寂しさから解放されると思っていたのにオーランド様はいらっしゃらない。
聞けば王太子専属騎士として王宮に滞在していることが多く、自宅に毎日のように帰ることはないらしい。
そしてその貴重な自宅での時間を、オーランド様は本館ではなく別館で過ごされる。やはり突然打ち捨てるような事は出来ない優しさがあって、出産に向けて最後の情けをかけているのだと思えば何も言わずに見守ることにした。
「それも私に子が生まれるまでの我慢ね」
彼女の出産に向けて長めの休みを取ったと聞いているけれど、私の時は辞めてしまうんじゃないかとソワソワしてしまう。私との美しい子供を見たら、きっと離れるなんて出来ないもの。
「早く生まれてきてね」
美しくて可愛らしい私達の赤ちゃん。
──────────
「オーランドさまぁ!!!いやぁ!いたいっ!助けて!!オーランドさまぁぁぁ!!!
耐えきれないほどの痛みのなか、ただ浮かぶのは愛しいオーランド様の美しいお顔。あまりに痛くて辛くて苦しくて、だけどこれさえ終わればオーランド様とゆっくり過ごせるのだと思えば頑張れる気もしてくる。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
そして、私は自分によく似た女の子を生んだ。
──────────
「オーランド様は?」
出産して一月が過ぎても二月が過ぎてもオーランド様が本館に戻ることはなく、義両親も一度だけ子供の顔を見に来てから訪れなくなった。
「旦那様はご多忙ですので」
嘘。私は知ってる。あの人が我が儘を言ってオーランド様を別館に縛り付けていることを。
本館の使用人はニコリともしなくて何を考えているのか分からないけれど、きっと私の境遇を憐れんで気を遣わせてしまっている。
「お忙しいのね…それならトリシアさんをお誘いしてお茶でもしようかしら」
隣国ではお母様達が妃同士でよくしていたから、私も正妻として第二夫人を慮ろうと思ったのだけれど…周りの空気が殺伐とした。私が何かされるとでも思っているのかしら。
「マリーベル様…それはお控えください。別館に赴くこと、トリシア様とご子息にお会いすることは旦那様より禁じられています」
「そうなの?オーランド様も心配症ね」
でも私のために心配してくれているのなら、大人しく過ごしてお戻りを待とう。
いつかオーランド様は目が覚める。
いつかけじめがつく。
いつか私だけを愛してくれる。
そう思いながらいくつかの季節を過ごし、娘の誕生日は盛大なパーティーでもしようかと考えていたところに衝撃的な報せが届けられた───
「トリシア様が…ご懐妊…?」
大きなお腹を撫でてのんびりしていたら、別館の様子を見に行かせていた使用人が戻ってきた。
「そう…生まれたのね」
隣国から戻った際に『彼女のお腹には俺の子がいるから第二夫人とする』と言われ、婚約解消に慌てた彼女がオーランド様に無理をさせたのでは?と思っていたのに産み月は私よりもずっと早い。
もっと早く出会えていたのなら、間違いを犯させることなどなかったのにと悔やまれる。
「ご両親もいらっしゃるのよね?じゃぁ、お祝いに伺った方がいいかしら。トリシアさんにも何かお祝いの品を贈らなくちゃ」
「そのような必要はないと旦那様より申し付かっております。大旦那様達もこちらには立ち寄らずにお帰りになるそうです」
「そうなの?残念だわ」
お忙しいのかしら。
思えば、お義父様とお義母様にお会いしたのは本館で暮らすようになった時のご挨拶が最初で最後だ。とても仲のよいご夫婦らしいので、領地からあまり出てこないと使用人達は言っていた。
それでも、体調を気遣うお手紙や贈り物をお義母様から頂いていたし、私もお返しをお贈りしたりして友好な関係を築けている。
こちらに移り住んでから、まだ慣れないだろうと気遣われて一度も夜会に出席したことはないけれど、産後落ち着けば久し振りにお洒落して夜会や舞踏会に出てみるのもいい。
隣国の王女という肩書き故かお茶会も呼ばれなくなってしまったし、気にしないでと手紙を送ったけれど未だに遠慮されている。
「…オーランド様にお会いしたいわ」
伯爵家本館の準備が整うまでは王宮の客間で過ごすようにと言われ、会えない寂しさから解放されると思っていたのにオーランド様はいらっしゃらない。
聞けば王太子専属騎士として王宮に滞在していることが多く、自宅に毎日のように帰ることはないらしい。
そしてその貴重な自宅での時間を、オーランド様は本館ではなく別館で過ごされる。やはり突然打ち捨てるような事は出来ない優しさがあって、出産に向けて最後の情けをかけているのだと思えば何も言わずに見守ることにした。
「それも私に子が生まれるまでの我慢ね」
彼女の出産に向けて長めの休みを取ったと聞いているけれど、私の時は辞めてしまうんじゃないかとソワソワしてしまう。私との美しい子供を見たら、きっと離れるなんて出来ないもの。
「早く生まれてきてね」
美しくて可愛らしい私達の赤ちゃん。
──────────
「オーランドさまぁ!!!いやぁ!いたいっ!助けて!!オーランドさまぁぁぁ!!!
耐えきれないほどの痛みのなか、ただ浮かぶのは愛しいオーランド様の美しいお顔。あまりに痛くて辛くて苦しくて、だけどこれさえ終わればオーランド様とゆっくり過ごせるのだと思えば頑張れる気もしてくる。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
そして、私は自分によく似た女の子を生んだ。
──────────
「オーランド様は?」
出産して一月が過ぎても二月が過ぎてもオーランド様が本館に戻ることはなく、義両親も一度だけ子供の顔を見に来てから訪れなくなった。
「旦那様はご多忙ですので」
嘘。私は知ってる。あの人が我が儘を言ってオーランド様を別館に縛り付けていることを。
本館の使用人はニコリともしなくて何を考えているのか分からないけれど、きっと私の境遇を憐れんで気を遣わせてしまっている。
「お忙しいのね…それならトリシアさんをお誘いしてお茶でもしようかしら」
隣国ではお母様達が妃同士でよくしていたから、私も正妻として第二夫人を慮ろうと思ったのだけれど…周りの空気が殺伐とした。私が何かされるとでも思っているのかしら。
「マリーベル様…それはお控えください。別館に赴くこと、トリシア様とご子息にお会いすることは旦那様より禁じられています」
「そうなの?オーランド様も心配症ね」
でも私のために心配してくれているのなら、大人しく過ごしてお戻りを待とう。
いつかオーランド様は目が覚める。
いつかけじめがつく。
いつか私だけを愛してくれる。
そう思いながらいくつかの季節を過ごし、娘の誕生日は盛大なパーティーでもしようかと考えていたところに衝撃的な報せが届けられた───
「トリシア様が…ご懐妊…?」
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