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運命の隣国 ※王女side
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運命の人だ──
第一王女であるお姉様の輿入れの為にやって来た隣国の王太子殿下の隣に立つひとりの騎士…彼を見た瞬間、電気が走ったかのように衝撃を受けて目が離せなくなった。
並ぶ王太子殿下よりも少しだけ背が高く、輝くブロンドに真っ直ぐ前を見据える空色の瞳。細く見えるが、王太子の専属を務めるのだから鍛え上げられた体躯なのだと推察できる。
──理想の王子様が現れた──
到着の挨拶が終わり王太子と共にさがっていく後ろ姿をお父様達と共に見送り、すぐに彼の素性を調べてもらうことにした。
「伯爵家のご長男?」
「はい、マリーベル様」
彼の素性は隣国でも屈指の財力を持つ伯爵家の長男と聞いて、王女である自分が嫁ぐには身分が低過ぎる…と思うも謁見の間で見た姿が忘れられない。
あの柔らかそうな髪に触れ、晴れた空を思わせる瞳に見つめられ、鍛えられた体に抱かれたい。
お姉さまが嫁ぐ国だからこそ、少しくらい身分は低い方が都合がいいかもしれない。お父様は末娘の私に甘いし許してくださるはず。
王女とはいえ伯爵家に嫁ぐのであれば、輿入れも大々的でなくていい…
「お父様にお時間を頂きたいとお伝えして」
どれだけ時間をかけようと説得する。お姉様と同時に娘が嫁ぐなんて悲しませるけれど。
──────────
「結論から言えば無理だ」
お父様に彼との結婚を許して欲しくて気持ちを伝えれば、返ってきた言葉は想定内のもの。
「確かに、お姉様が王太子殿下と婚姻される国へ私まで嫁ぐのは些か問題はあるかもしれません。ですが彼のご実家は裕福と言えど伯爵です。私との婚姻による陞爵などを望まないと書面に起こせば宜しいのでは?」
「そう言うことじゃないんだ、マリー」
お父様は何かを言いにくそうにして、何故か私を憐れむような視線を向けてくる。
「…初恋か?」
直球な言葉を投げ掛けられ、思わず頬を染めてしまった。そう…彼は私の初恋なのだ。
「はい…一目でお慕い致しました」
「そうか」
末娘の初恋がショックなの?と首を傾げてお父様の言葉を待ち、目を瞑って深い溜め息を吐く姿に覚悟を決めてくれたかと期待する。次に紡がれる話の内容に衝撃を受けるなど微塵も思わずに…
「彼には婚約者がいる」
「…婚約者……?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。けれど考えれば既婚者の可能性だってあったのだと、なぜ思い至らなかったのかと自問する。
答えは、ただ彼を運命の人だと思ったから。
「…幼い頃から想い合っているご令嬢だそうだ。帰国したら結婚に向けて話を進めることになっているらしい」
「幼馴染みと…」
幼馴染みの騎士──それは私の憧れだった。あどけない少年から成長した青年が、仕えるべき主君には隠れて愛する人へ騎士の誓いをする…そんな物語ばかり読んでいたから。
彼の婚約者は幼馴染みなのだから、少年時代も当然ながら知っているはず。騎士の誓いはもうされたのだろうか…沸々と嫌な思いが湧いてくる。
「お前は第五王女であることから政略的な縁談を結ぶつもりはない…ただ、想う相手がいる男の所へ軽くやるつもりもない」
お父様は愛してくれているし気遣いは嬉しく思うも、いっそ政治的旨味のある相手なら話は早かったのだと悔しくもなる。
「…どうしてもダメですか?お相手の方がどの様なお家柄か存じませんが、王女である私との結婚に損益などございません」
むしろ溺愛してくれるお父様から多額の持参金付きで嫁ぐことになるのだから。
「頷けないな。彼は跡継ぎでもない」
「え?でも、ご長男だと…」
「調べたのか?そうだ、長男であることに間違いはないが爵位は継がずに伯爵家所有の商会を引き継ぐことになっている」
「商会?」
「婚約者があまり裕福ではない男爵家の令嬢なんだそうだ。家格として難しいこもあり、爵位は従弟に譲ったらしい」
お相手は男爵令嬢?あまり裕福ではない?そのせいで彼は貴族ですらなくなるの?あんなに…あんなに素敵な彼が?
「いけませんわ!彼は伯爵家を継ぐべきです!」
「もう正式に決まっていると言っていた。好いた女性の為にそこまで出来るなど大したものだ…そういった点では、爵位さえ継ぐならマリーを嫁に出しても申し分のない男とは言える」
「それなら!それならお父様からお話しくださいませ!私を娶り伯爵家を継ぐようにと!」
ダメよ、貴族でなくなるなんて。同じブロンドで新緑色の瞳をした私との間になら、とても可愛い子供だって出来るはず…だからダメ…だって貴族じゃないと私が嫁げなくなってしまう。
「…そんなに慕ってるのか」
「お慕いしております」
「…仮にお前と夫婦になったとして、だ。長年想い合ってきた相手を切るなど無いかもしれんぞ?それでも望むか?」
「お相手が愛人なる…と仰りたいのですか?」
「話を無理やり捩じ込めばそうなるだろう。政略的な意味合いがあれば相手に引かせることも出来るが、お前がしようとしているのはただの横恋慕だ。批難されるのはマリー、お前の方だよ」
そんな…だって、相手が男爵令嬢でなければ彼は貴族の身分を捨てる必要もないわけで…いくら大きな商会だと言っても平民に変わりはなくて…
「まぁいい。話すだけ話してやるが、くれぐれも期待はするな。婚約者との仲は睦まじいものだと殿下も言っておったからな」
浮かれているだけだわ…裕福な貴族子息が平民だなんて耐えられるはずがないもの。
私が彼を救うわ。
本当は王子様に救われるお姫様に憧れていたけれど、結ばれるならどちらでもいい。
最初は引き裂かれたと思われるかもしれないけれど、いつか目を覚ました時に感謝してくれる。
そして愛し愛される夫婦になるの。
第一王女であるお姉様の輿入れの為にやって来た隣国の王太子殿下の隣に立つひとりの騎士…彼を見た瞬間、電気が走ったかのように衝撃を受けて目が離せなくなった。
並ぶ王太子殿下よりも少しだけ背が高く、輝くブロンドに真っ直ぐ前を見据える空色の瞳。細く見えるが、王太子の専属を務めるのだから鍛え上げられた体躯なのだと推察できる。
──理想の王子様が現れた──
到着の挨拶が終わり王太子と共にさがっていく後ろ姿をお父様達と共に見送り、すぐに彼の素性を調べてもらうことにした。
「伯爵家のご長男?」
「はい、マリーベル様」
彼の素性は隣国でも屈指の財力を持つ伯爵家の長男と聞いて、王女である自分が嫁ぐには身分が低過ぎる…と思うも謁見の間で見た姿が忘れられない。
あの柔らかそうな髪に触れ、晴れた空を思わせる瞳に見つめられ、鍛えられた体に抱かれたい。
お姉さまが嫁ぐ国だからこそ、少しくらい身分は低い方が都合がいいかもしれない。お父様は末娘の私に甘いし許してくださるはず。
王女とはいえ伯爵家に嫁ぐのであれば、輿入れも大々的でなくていい…
「お父様にお時間を頂きたいとお伝えして」
どれだけ時間をかけようと説得する。お姉様と同時に娘が嫁ぐなんて悲しませるけれど。
──────────
「結論から言えば無理だ」
お父様に彼との結婚を許して欲しくて気持ちを伝えれば、返ってきた言葉は想定内のもの。
「確かに、お姉様が王太子殿下と婚姻される国へ私まで嫁ぐのは些か問題はあるかもしれません。ですが彼のご実家は裕福と言えど伯爵です。私との婚姻による陞爵などを望まないと書面に起こせば宜しいのでは?」
「そう言うことじゃないんだ、マリー」
お父様は何かを言いにくそうにして、何故か私を憐れむような視線を向けてくる。
「…初恋か?」
直球な言葉を投げ掛けられ、思わず頬を染めてしまった。そう…彼は私の初恋なのだ。
「はい…一目でお慕い致しました」
「そうか」
末娘の初恋がショックなの?と首を傾げてお父様の言葉を待ち、目を瞑って深い溜め息を吐く姿に覚悟を決めてくれたかと期待する。次に紡がれる話の内容に衝撃を受けるなど微塵も思わずに…
「彼には婚約者がいる」
「…婚約者……?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。けれど考えれば既婚者の可能性だってあったのだと、なぜ思い至らなかったのかと自問する。
答えは、ただ彼を運命の人だと思ったから。
「…幼い頃から想い合っているご令嬢だそうだ。帰国したら結婚に向けて話を進めることになっているらしい」
「幼馴染みと…」
幼馴染みの騎士──それは私の憧れだった。あどけない少年から成長した青年が、仕えるべき主君には隠れて愛する人へ騎士の誓いをする…そんな物語ばかり読んでいたから。
彼の婚約者は幼馴染みなのだから、少年時代も当然ながら知っているはず。騎士の誓いはもうされたのだろうか…沸々と嫌な思いが湧いてくる。
「お前は第五王女であることから政略的な縁談を結ぶつもりはない…ただ、想う相手がいる男の所へ軽くやるつもりもない」
お父様は愛してくれているし気遣いは嬉しく思うも、いっそ政治的旨味のある相手なら話は早かったのだと悔しくもなる。
「…どうしてもダメですか?お相手の方がどの様なお家柄か存じませんが、王女である私との結婚に損益などございません」
むしろ溺愛してくれるお父様から多額の持参金付きで嫁ぐことになるのだから。
「頷けないな。彼は跡継ぎでもない」
「え?でも、ご長男だと…」
「調べたのか?そうだ、長男であることに間違いはないが爵位は継がずに伯爵家所有の商会を引き継ぐことになっている」
「商会?」
「婚約者があまり裕福ではない男爵家の令嬢なんだそうだ。家格として難しいこもあり、爵位は従弟に譲ったらしい」
お相手は男爵令嬢?あまり裕福ではない?そのせいで彼は貴族ですらなくなるの?あんなに…あんなに素敵な彼が?
「いけませんわ!彼は伯爵家を継ぐべきです!」
「もう正式に決まっていると言っていた。好いた女性の為にそこまで出来るなど大したものだ…そういった点では、爵位さえ継ぐならマリーを嫁に出しても申し分のない男とは言える」
「それなら!それならお父様からお話しくださいませ!私を娶り伯爵家を継ぐようにと!」
ダメよ、貴族でなくなるなんて。同じブロンドで新緑色の瞳をした私との間になら、とても可愛い子供だって出来るはず…だからダメ…だって貴族じゃないと私が嫁げなくなってしまう。
「…そんなに慕ってるのか」
「お慕いしております」
「…仮にお前と夫婦になったとして、だ。長年想い合ってきた相手を切るなど無いかもしれんぞ?それでも望むか?」
「お相手が愛人なる…と仰りたいのですか?」
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浮かれているだけだわ…裕福な貴族子息が平民だなんて耐えられるはずがないもの。
私が彼を救うわ。
本当は王子様に救われるお姫様に憧れていたけれど、結ばれるならどちらでもいい。
最初は引き裂かれたと思われるかもしれないけれど、いつか目を覚ました時に感謝してくれる。
そして愛し愛される夫婦になるの。
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