【完結】初恋は淡雪に溶ける

Ringo

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💀元婚約者・part4💀

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「孕んでいるらしいな」


父上に呼び出され、開口一番に問われたのはレイラの妊娠の可否だった。

思わず舌打ちをしそうになる。

流石に婚姻前の妊娠は避けるべきだとは理解しているから、あくまでも隠し子として秘密裏に産ませるつもりでいたのに。


「馬鹿な真似をしてくれたものだ…先方との婚約はこちら有責で破棄されたぞ」

「……は?」

「何を呆けている。当然だろう?注意を無視してここ最近は碌に交流を持たず、他所の女に現を抜かしていたのだから」


それはそうだが…


「しかし父上、共同名義で始めた事業はどうなるのですか?流石の公爵家とは言え、」

「継続される。但し、残りの建築費用や人件費は全てこちら側持ち…その上で名義を公爵家に変更された。当然、利益はあちら側に収められる」

「っ…!!そんなのはおかしい!!あの土地は我が家が代々継承してきたものではないですか!!」

「誰のせいだと思っておる!!」


ガラス製の重厚な灰皿を投げ付けられ、鈍い音と共に激しい痛みが頭を襲った。


「あの事業が生み出す利益は領地収入の凡そ5倍が見込めるものだ…っ、それを手放す事がどれだけの損害になるか分かっているのか!?」

「っ…ですが、」

「アンジェリカ嬢とうまくやっている頃は真面であったと思っていたが…女を知った途端に下半身でしか物事の判断がつかなくなるとはな」


父上の物言いにカッとして睨み付けた。

俺は欲望だけでレイラを孕ませたわけじゃない。

俺なりに考え、最善を選んだつもりだ。

アンジェリカでは満たされない部分を埋めてくれるのは、レイラしかいないのだから。

だから……


「どうするつもりだ?」

「なに…を……」


裂けた傷跡から血が滴り落ちて、グラグラ揺れる頭では父上の言わんとすることが分からない。


「もう腹の子は流せないまで育っているそうじゃないか。うまく欺いてくれたなぁ、アルビス。金で動く人間を使ったのは褒めてやるぞ」

「………ちち…うえ……」

「俺でさえシャロワに子を産ませたのは、正妻であるシルビアが嫡男を儲けたあとだと言うに」

「…ポア…ロ……」


ぼんやりとした思考の中に異母弟の顔が浮かぶ。

ふたつ下のポアロは優秀とは言い難いが、冷酷な性格が裏仕事向きだとして教育を受けていたはずで…殆ど顔を合わせたことはない。


「そのポアロだがな、本人に確認したところ是非とも当主教育を受けてみたいそうだ」

「そ……れは………」

「幸いにも、ポアロの側近候補が裏仕事を纏めるに相応しい素質を持っている。それならばポアロが当主になろうと不都合は無いからな」


ダメだ…俺は侯爵になるべく努力をして…その為にアンジェリカと婚約して…レイラを……


「ポアロが当主となるならシャロワをこの屋敷に住まわせてやれる。漸くふたりで夫婦らしい生活を送れるよ…有難うな、アルビス」


霞む視界で父上が嗤っている…

落ちていく意識が向かうのは…地獄なのだろうか






*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜






「──さま…アルビスさま…」


レイラの声に意識が引き上げられ、見覚えのない天井が視界に映った。


「アルビスさまっ!!」

「……………レイラ……」


横たわる俺に抱き着いてきたレイラは声を上げて泣いており、ここが何処でどうやって運ばれたのか聞くもまともな答えは返ってこない。

一頻り泣くのを待って、漸く聞き出せた。

ここは伯爵家が所有する平民街の家屋。

怪我をした俺を運んだのは伯爵と従者で、父上に呼び出されて放り投げられたらしい。

要らないから引き取れ…と。


「暫くはここで暮らせるって言っていたの…お金は置いていくから好きにしろって…ねぇアルビスさま、どういうこと?」


レイラの実家は領地を持たない。

陞爵の功績であった特許を手放し、殆どの財産が慰謝料としてアンジェリカへ支払われたはず。

恐らくはもう、この国から出ているだろう。


「ご飯は?お風呂はどうしたらいいの?明日のドレスはどうやって着るの?」

「……レイラ…」

「赤ちゃんはどこで産むの?乳母は?……お父さま達はどこへ行ってしまったの…?」


貴族令嬢…まして甘やかされてきたレイラに、身の回りをどうにかすることなど不可能。

大きなお腹を抱えて泣くレイラに、かけてやれる言葉は持ち合わせていなかった。







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